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風真いろは🍃
零れた言葉は、早朝の空気に溶けて消えた 背伸びをし、片耳にイヤホンをつける 辺りに人の気配はない 足を踏み出す 風を切る感覚が心地良い いつものランニングコースを駆ける
風真いろは🍃
イヤホンから聞こえていたはずの歌は いつの間にか、自分から発せられていた 不意に反響し聞こえた自分の声に、唇を噛みしめる こういうときに、風真は どうしようもなく歌が好きだと、思い知らされる 「歌を仕事にするなんて、バカのすることだ」 親に言われた言葉が、頭に響く その言葉を否定しきれない風真に、嫌気が差す 足を止め、深呼吸を一つする もう一度、足を踏み出す 頭を空にして、走り続ける
公園で立ち止まり、イヤホンを外す 近くの自動販売機でジュースを買い、ベンチに腰掛けた 背後から歌声が聞こえてくる 力強い歌声と澄んだ歌声の二重奏 風真は知っている 力強い歌声は〈星街すいせい〉という人のモノであること 彼女は配信者として活動していること 澄んだ歌声は〈AZKi〉という人のモノであること 彼女は〈星街すいせい〉の友人であること 彼女たちはこの近くに高校に通っているということ 風真は彼女たちのようにはなれないということ
風真いろは🍃
軽く頭を振る 風真の中に居座る、邪魔な考えを追い出す 只々綺麗なこの歌を、純粋な気持ちで聴いていたい
風真いろは🍃
不意に聞こえた歌詞を、ただ繰り返す この近くの、彼女たちが通う高校 今日はその高校の入学式だと、思い出す 同時に、風真はソレに参加しなくてはいけないことも
風真いろは🍃
家に入り、奥に声を掛ける 反応はない
風真いろは🍃
ランニング前に用意した朝食を口にする 風真以外、食卓を囲む者はない
風真いろは🍃
味のしない朝食を食べ終える 声に滲む感情はない 食器を片付ける 食器同士がぶつかる音、自分の呼吸の音、時計が時を刻む音 それら以外に音はない 見れば、家を出る時間が迫っていた
制服に着替え、外に出る 朝とは違い、人の話し声が聞こえる 友達同士が、家族同士が、楽しそうに会話をする声が聞こえる 鞄の紐を握りしめる ただ前を向き、歩き出す ふと思い出し、イヤホンを片耳につけた 〈星街すいせい〉の曲が流れる 公園で聴いた歌と同じく、力強い声 風真がどうしようもなく好きな、彼女の歌声
博衣こより🧪
博衣こより🧪
風真いろは🍃
不意に声をかけられる 振り返れば、ピンクの髪が揺れていた 挨拶を返せば、人懐っこい笑顔が浮かぶ ピン、と立った耳 ふわりと揺れる尻尾 アメジストのような瞳 甘く転がる声 彼女に会う度、会話する度 ほとんどの人に好かれそうだな、と考える 何故か、胸に痛みが走った
博衣こより🧪
風真いろは🍃
彼女の言葉が不思議で、反射的に尋ね返す
博衣こより🧪
博衣こより🧪
風真いろは🍃
風真いろは🍃
楽しそうに断言する彼女に、なんとも言えぬ感情が湧き上がる 投げかけられた疑問に、少し濁した答えを返した 「それより」と言葉を紡ぐ
風真いろは🍃
博衣こより🧪
博衣こより🧪
博衣こより🧪
目を輝かせて前のめりに言う彼女に、中学の頃を思い出す 科学部なのに部の活動はせず 休み時間と放課後は理科室に籠もって その天才的な頭脳でよくわからないものを作り出して よく顧問の先生に怒られては、風真に泣きついていたものだった
博衣こより🧪
風真いろは🍃
思い出すように空を見つめる彼女に、助け舟を出す
博衣こより🧪
博衣こより🧪
博衣こより🧪
そんな夢のようなことを語る彼女に笑みが溢れた 横を向けば目が合って、ふわりと笑いが返ってくる まるで他愛のない会話を続けた いつの間にか、校舎の前に着いていた
博衣こより🧪
博衣こより🧪
靴箱前のクラス割を見て、本当に残念そうに彼女は言う クラス名簿を目で追う 知っている名前は一つもない 他学年、他クラスの名簿を見る 少し探せば、〈鷹嶺ルイ〉という文字を発見した その名前を見た瞬間、安心感が胸を満たす 掲示物に目を滑らす そこには、入学式の並び方は自由だということ 入学式の後に先輩たちとの交流会を実施すること 交流会は複数のグループに分かれて行うこと グループは先輩二人、新入生二人で組まれること そのグループは名簿の横にある数字で分けられていること などが記載されていた 自分の数字を確認する 同時に、こよちゃんとルイ姉の数字も
風真いろは🍃
風真いろは🍃
自分とこよちゃんの数字を交互に指さし、言う
博衣こより🧪
「5」 そう書かれたそれを見た途端、こよちゃんの耳がピンと立った 喜びを隠しきれぬように、尻尾も揺れている
風真いろは🍃
博衣こより🧪
そう言ってこよちゃんの袖を引けば、弾んだ声が聞こえた
博衣こより🧪
体育館に着くと、生徒たちのざわめきが耳に響いた 少しこよちゃんが、顔をしかめる 風真も耳が良い方ではあるが、犬科とは比べ物にならない 多分こよちゃんは、風真の何倍も五月蝿いのだろう 辺りを見渡す 先輩たちの中に、見慣れた人影が見えた
鷹嶺ルイ🥀
風真いろは🍃
目が合ったかと思えば、すぐに話しかけられる 名前を呼べば、優しい微笑みが返って来た 短い退紅の髪 吸い込まれそうな天色の瞳 風真よりも高い身長 落ち着いた低い声 風真と一つしか違わないはずが、大人びた印象を受ける
鷹嶺ルイ🥀
風真いろは🍃
優しく言われる 返す言葉に、嬉しさが滲んだ
博衣こより🧪
風真いろは🍃
鷹嶺ルイ🥀
博衣こより🧪
会話を続けていると、視線を感じた 視線の方へ目を向ける けれど、そこにこちらを見ている人は居なかった 少しだけ、心に影がよぎった
鷹嶺ルイ🥀
風真いろは🍃
気付いたルイ姉に声をかけられ、曖昧な返事を返した 『これから、入学式を始めます』 『立っている生徒は、空いている椅子に座ってください』 不意に放送の声が響いた
鷹嶺ルイ🥀
ルイ姉が指差す方を見る ちょうど三人空いた席があった こよちゃん、風真、ルイ姉の順で席に着く 段々とざわめきが小さくなっていく 壇上に人が上がり、静かに入学式が始まった
博衣こより🧪
鷹嶺ルイ🥀
風真いろは🍃
入学式が終わり、伸びをする ルイ姉が手帳を見て、言う 返事をすれば、気の抜けた声が出た
鷹嶺ルイ🥀
鷹嶺ルイ🥀
風真いろは🍃
ルイ姉がステージの方へ歩き出す その背に、手を降った
博衣こより🧪
こよちゃんがルイ姉から少し離れた場所を指す 手を引かれ連れて行かれた先に、また見慣れた人が居た
AZKi⚒️
AZKi⚒️
博衣こより🧪
風真いろは🍃
目が合い、話しかけられる 透き通った、綺麗な声 黒に混じった紅紫色の髪 公園に居る、いつもの彼女 元気なこよちゃんの声と それとは真逆の躊躇うような風真の声 『交流会を開始します』 という放送の声が遠くに聞こえる それほどに、彼女の瞳は綺麗だった 鮮やかな宝石のような 虹を宿しているかのような そんな彼女の瞳に、風真は 囚われた