テラーノベル
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緑 。
緑の声に振り向くと、彼が片手を上げてこちらに駆けてきた。
朝の光を受けて、制服の白がやけにまぶしく見えた。
桃 。
いつもと変わらない会話。
だけど、心の中は穏やかじゃなかった。
名前を呼ばれただけで、こんなに嬉しいと思ってしまうなんて。
緑 。
緑 。
桃 。
緑 。
緑 。
緑が急に顔を覗き込んできて、私は後ずさった。
鼓動の音が、自分でもわかるほど早くなる。
桃 。
緑 。
緑 。
緑 。
桃 。
その言葉に、胸が一気に冷えた。
今まで隣にいたのが、当たり前だったのに。
緑 。
緑 。
そうなんだ。
じゃあ、隣にはもうなれないかもしれないんだ。
授業が始まり、席替えの時間になると、教室が少しざわついた。
先生がくじを配り、順番に読みあげていく。
結果_私は窓側の1番後ろ。
緑は、前から二列目の中央だった。
席が遠くなる。
ただそれだけのことなのに、こんなに胸が痛いなんて。
荷物をまとめて移動しながら、緑とすれ違った。
緑 。
緑 。
桃 。
私も、すごく寂しいよ。
でも、それ以上の言葉は出てこなかった。
席に着くと、そこから緑の横顔がちらりと見えた。
前よりずっと小さくなった背中。
私の声なんて、もう届かない。
それでも私は、心の中で名前を呼び続ける。
緑__
たったそれだけで、涙が出そうになる。
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