緑 。
桃、おはよう!
緑の声に振り向くと、彼が片手を上げてこちらに駆けてきた。
朝の光を受けて、制服の白がやけにまぶしく見えた。
桃 。
おはよ
いつもと変わらない会話。
だけど、心の中は穏やかじゃなかった。
名前を呼ばれただけで、こんなに嬉しいと思ってしまうなんて。
緑 。
なぁ、昨日……って、あれ?
緑 。
なんか顔赤くね?
桃 。
え、そ、そうかな?
緑 。
熱あるんじゃないの?
緑 。
顔、真っ赤だぞ
緑が急に顔を覗き込んできて、私は後ずさった。
鼓動の音が、自分でもわかるほど早くなる。
桃 。
だ、大丈夫。たぶん、寝不足なだけ
緑 。
ふーん、無理すんなよ?
緑 。
今日、席替えだからな。
緑 。
前の方が良かったら、先生に頼んどく?
桃 。
え……席替え?
その言葉に、胸が一気に冷えた。
今まで隣にいたのが、当たり前だったのに。
緑 。
うん。
緑 。
くじ引きっぽいけど、女子と男子が交互になるんだって
そうなんだ。
じゃあ、隣にはもうなれないかもしれないんだ。
授業が始まり、席替えの時間になると、教室が少しざわついた。
先生がくじを配り、順番に読みあげていく。
結果_私は窓側の1番後ろ。
緑は、前から二列目の中央だった。
席が遠くなる。
ただそれだけのことなのに、こんなに胸が痛いなんて。
荷物をまとめて移動しながら、緑とすれ違った。
緑 。
お、なんか遠くなったなー。
緑 。
ちょっと寂しいな
桃 。
……うん、そうだね
私も、すごく寂しいよ。
でも、それ以上の言葉は出てこなかった。
席に着くと、そこから緑の横顔がちらりと見えた。
前よりずっと小さくなった背中。
私の声なんて、もう届かない。
それでも私は、心の中で名前を呼び続ける。
緑__
たったそれだけで、涙が出そうになる。







