席替えから、数日が経った。
教室では、笑い声が遠くなった気がした。
私の新しい席からは、緑の姿がほとんど見えない。
背中越しに声が届くことはあるけど、その声の向こうには、もう私じゃない誰かがいる。
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桃ちゃん、プリント回してー
隣の席の子に呼ばれて、はっとする。
ぼんやりしていた自分に気づいて、小さく「ごめん」と笑ってプリントを回した。
こんなふうに、目の前の日常に必死にしがみついてないと、心が崩れてしまいそうだった。
放課後、帰り道で緑の姿を見つけた。
少し先には、橙がいて、彼はその後ろ姿を追うように歩いていた。
声をかけたくて、でもかけられなくて_
私は影のように、彼らの後ろを歩いた。
信号待ちの交差点。
緑が、橙に話しかけたその瞬間、彼女が振り返って笑った。
あぁ、知ってる。
その笑顔を見て、緑が一瞬で照れくさそうに目を逸らすのも。
その姿が好きだった。でも_
本当は、あの笑顔を私に向けて欲しかった。
緑の目に、自分だけが映る時間が欲しかった。
でも、そんな願いが叶うことはもうない。
二人が歩き出すのを見届けてから、私は静かに引き返した。
帰り道、イヤホンで音楽を流して、感情を誤魔化そうとした。
でも、どんな歌も耳に入ってこなかった。
桃 。
……ほんとは、抱きしめたかったんだよ
誰に届くこともない独り言。
立ち止まった足元に、夕日が長く影を落としていた。
好きって気持ちが、こんなにも報われないことだなんて、思ってもみなかった。