歌声が聞こえる。
記憶の片隅に響く、懐かしい歌。
優しく、暖かく、美しい声。
幼い日の記憶を連れてくる声。
おぼろげな記憶の中には、いつもあの歌声と、ネリネの花がある。
「蝶はね、亡くなった人の魂を連れてくるのよ」
「お父さんもきっと、蝶になって、ここでアイラを見ていてくれるよ」
ネリネの花に止まった一羽の蝶を見て、そう言って笑ったあなたも、蝶になったんだろうか。
845年、壁外
雨の中を、調査兵団は馬に乗って駆ける
仲間はもう、何人も死んだ
ねえ、いつまで続けるの? これが人類のためなの?
門がゆっくりと開いていく
その向こうにあるのは
民衆からの非難の目。
民衆
これだけしか帰ってこなかったのか…
民衆
みんな喰われちまったんだ
民衆
わざわざ壁の外に出るからこうなるんだ
ああ、またか
なんで、私たちばっかり。
モーゼスの母
モーゼス!
モーゼスの母
あの、息子が……モーゼスが見当たらないんですが
モーゼスの母
息子はどこでしょうか?
団長
モーゼスの母親だ、持ってこい
そんなの、渡したって絶望させるだけなのに
モーゼスの母
ああああっ
モーゼスの腕を見て、彼の母が泣き崩れる
残酷すぎるよ、そんな伝え方
モーゼスの母
でも、息子は役に立ったんですよね
モーゼスの母
何が直接の手柄はなくても、息子の死は、人類の反撃の糧になったんですよね!?
団長
もちろん……いや
団長
今回の調査で、我々は……いや、今回も
団長
なんの成果も得られませんでした!!
馬鹿みたいだと思った
この世界が、だ。
こうやって命をかけて戦う人が、1番罵られ、1番頭を下げなくてはいけない、この世界が
私の大切な仲間もまた死んだ
ねえ、行かないで
行かないで……
そして、845年のあの日
シガンシナ区は、陥落した。







