世界の
終了予告。
ファンタジックで 普通ならありえないこと、
物語にしか出てこないような 不思議なこと、
幻想が現実に 変わったとき
《それ》は 発表された。
なんと、人生は もうすぐ
強制的に完結される らしい。
積みあげられてきた 時間、言葉、
何もかもが 崩れ、落ち、壊れ、
砕けてしまった 世界の破片は
あらゆる幻想的な 物語を創った。
欠片になった これまでの違和感が、
散りばめられた 伏線だったと 誰かは悟る。
今、 吸っている この息も
今、 吐いている この声も
今、 生きている この命も
全てが 消える 前兆で、
後には絶対 のこらない、
そんな おおきな空想は、
私には 想像も創造も できなかった。
終止符を打とうにも できなくて、
ここはあまりにも 素敵すぎた。
よりにもよって 今日は
世界が終わる日 だというのに、
窓から見たのは 相も変わらず
太陽と月が並んで 満ち欠けを繰りかえし、
枯れた花が芽に戻り また蕾をつける、
当然のように存在する おかしな光景だった。
晴れた空からは 天の蒼色を映したような 丸い雨と飴。
やっぱりアメは 降っていた。
最期の日ですら こんな天気なのは、
朝からすこし 憂鬱な気分。
ひとりひとりが 自由な《おわり》を 迎えるために、
大切な人との《別れ》は みんなとうに済ませていた。
家族もそれぞれ 出ていったから
今、 ここに暮らしているのは 私だけ。
世界は こんなにも 狂い果てたのに
それ以外に なんの特別もない
平和で平凡な一日が 始まり終わろうとしている。
限られた時間を 中途半端に余しながら いなくなるのはいや。
さいごの欲望が 胸にちらついた。
外側が青色で内側が黄色の お気にいりの傘を持って、
トートバッグに カメラを入れた。
終末旅行、と 洒落こんだ 現実逃避。
私のなかに、 諦念以外の感情は まだ残っていた。
水面を走る 電車に揺られ、
開いた傘を くるくる回しながら 歩き、
白いベンチで ひとやすみ。
ボタンを押して 傘の表面を 透明にすると、
落ちてくる透明色が 当たっては弾け、
視界いっぱいで 雫がアメの粒に変わる。
いつの間にか 隣にいた男の子に 驚いた。
青みがかったグレーの髪と 深い碧色の瞳、
そして ふわっと花が開くような 笑顔が、
はっとして 泣いてしまいそうなほど 綺麗だったから。
男の子の 楽しげな声は、
きらきらした 雨あがりの太陽を 彷彿とさせた。
ふわっとした 微笑みに戸惑って、
名前を呼ばれたときから 熱かった顔を逸らす。
まだ、話して 数分も経ってないのに
こんな気持ちに 陥っている私って
おかしいのかな、 と思った。
ぽつぽつと 傘を鳴らす アメは、
いつしか 止んでいた。
アメあがりの空は まるで
水彩絵の具で塗られた パレットのようで、
絵本でしか 見たことのない 色をしていた。
だからこそ、 もう近いことが よくわかった。
零れ落ちた 問いかけが、
ひとりごとのような 余韻を残す。
本当は、 答えなんて とっくに知っていた。
だけどすこしでも、 縋りついていたかった。
取りだした 懐中時計は、
早送りでも されているみたいに
秒針がぐるぐると 回っていた。
世界が
透きとおっていく。
碧色の光を纏う男の子と 見つめあう。
溢れて伝っていく、
雨以外の雫。
空も、君も、私も、
ぱらぱらと 溶けていく。
どちらからともなく 手を繋いでいた。
そして微かに 君の味がして、
そのとき 世界は 綴じられた。
未完成の雨が降る。
幾つも世界が創られて、
何度でも君を探す
途中経過の物語。
ページが捲られるように
次の章が はじまるように、
ふっと 開いた
新しい世界は、
雨が結んでいた。
コメント
81件
初コメ失礼します 好きすぎるんですけど!!
すいません場違いだと思うんですけどサムネって参考にしてもよろしいでしょうか?
めっちゃ好きな作品だったので、勝手ながらも宣伝させて頂きました。嫌だったら宣伝作品は削除致しますが...