吉沢
亜希さんの自殺の理由は妊娠して子供を産んでしまったから?
西崎直人
少し違う
西崎直人
望まない妊娠、ということにしてしまったからだ
西崎直人
亜希は元々、罰ゲームで僕と付き合い始めた。僕もそれはなんとなく気づいてた
西崎直人
だけどすぐにお互いの魅力がわかってきて、ままごとの付き合いから本当の恋人になっていった
西崎直人
亜希はよく言っていた
西崎直人
「自分が本当に好きになった人と子供を作りたい。それがお母さんに対する恩返しだ」と
西崎直人
亜希のお母さんは、亜希を妊娠したから亜希のお父さんと結婚した……いわゆるできちゃった婚だ
西崎直人
だからすぐに亜希のお父さんは家族を捨てて逃げていった
西崎直人
それから亜希のお母さんは女手1つで亜希を育てた。裕福な生活とはとてもじゃないけど言えない暮らしだったと言う
西崎直人
亜希のお母さんは思った。
西崎直人
自分が本当に好きな人と結婚できていたら亜希に辛い思いはさせなかった。亜希には、本当に好きな人と結婚して欲しい、と
西崎直人
だから亜希は、自分は充分幸せだったとお母さんに教える為に、そしてお母さんを喜ばせる為に
西崎直人
僕と一線を超えた。
西崎直人
それを、罰ゲームの発案者である高村が知ってしまった。
すみれ
父と圭太さんのお父様は高校の同級生でした。
すみれ
父には当時交際していた女性がいましたが、私を産んだ後その女性は自殺しました
すみれ
父は男手1つで私を育てました
すみれ
そのためにには安定した収入を確実に得ないといけない
すみれ
父は大学卒業後、経済学を学び優秀で将来必ず成功すると言われていた圭太さんのお父様が興した会社に自分から雇って欲しいと頼みました
すみれ
圭太さんのお父様と父は高校時代、馬が合わなかったのか、父は過酷な労働条件に置かれましたが、それでも父は幸せそうでした
すみれ
「誰かの為に生きていると思ったら、死のうとは思わない」
すみれ
そう言って両手首にある、刃物で切った跡を懐かしそうに眺める父の姿を覚えています
すみれ
父は自分の体が限界を迎えるまで、私の為に働きました
西崎直人
高村は、僕が亜希に無理やり関係を迫ったと亜希のお母さんに吹聴した
西崎直人
亜希に幸せになって欲しいと思っている亜希のお母さんは、僕と別れるように亜希に強く言った
西崎直人
最初こそ、亜希は否定していたが
西崎直人
だんだん周囲の勢いにおされて反発できなくなって、
西崎直人
1ヶ月前のデートの時、亜希は現れなかった
西崎直人
僕はその日の夕方、亜希の家に行った
西崎直人
亜希の身を案じる母がいる手前、亜希は思ってもないことを言うしかなかった
西崎直人
「元々罰ゲームで付き合ってただけだから、好きでもなんでもなかった」、と
西崎直人
元々罰ゲームで付き合ってたんだ、と改めて言われると悲しいやら悔しいやらで、僕も嘘をついてしまった
西崎直人
僕も亜希のことは好きじゃなかった、と
西崎直人
そして亜希は自殺した
吉沢
…そんな過去があったんだな…
西崎直人
亜希にとどめを刺したのは僕だ
西崎直人
僕は亜希が残した子供を幸せに育てないといけない。亜希の夢をちゃんと叶えさせないといけない
吉沢
そうか
吉沢
俺は応援するよ
西崎直人
ありがとう
西崎直人
じゃあ、さっそく頼みがあるんだけど
吉沢
なに?
西崎直人
僕は、高村がこれから興す会社で働こうと思っている
吉沢
ええ!?
吉沢
やめとけよ!きっと無茶な仕事を大量に任されるぞ
西崎直人
わかってる
西崎直人
でも、安定した収入を確実に得られるのも事実だ
西崎直人
僕がそこで働いて、もしもう働けない体になったら
西崎直人
僕と亜希の子供に、今僕が話したことを話して欲しい
西崎直人
僕と亜希が、どれだけ子供を思っていたか知ってて欲しいんだ
吉沢
わかった
僕は病院に残っている「宝物」に、亜希が好きだった「すみれ」と名前をつけた
すみれ
先ほど収入はたくさんあると言いましたよね
すみれ
そのお金の元をたどれば、行き着くのはお年寄りの方々だというのはご存知ですよね?
すみれ
圭太さんも経済学を学んだので、圭太さんのお父様が興した会社の財源の半分が、お年寄りの方々から騙しとったお金だと知ってるはずです
すみれ
私はそんなお金で幸せになりたくない
すみれ
死んだ両親の名に恥じない生き方をしたいので
すみれ
あなたと結婚することは出来ません