朝、起きたら
いつの間にか、誰もいなくて。
ひとりきりの世界
そんな想像をしたことがあるか。
いつかみんな、 消えてしまうかもしれない。
自分だけが、 孤独にも生きなければならない。
たぶんその人は、 確信があるんだ。
自分が主人公だって。
「ひとりきり」のひとりが 自分以外の人なんてありえない。
そう、自分は特別な人間だと。
こんなファンタジーめいた話、
夢の中でしか知らない。
僕は、夢ですら 見たこともないけど。
独りきりで、 僕は考えてみるんだ。
シンプルなベッドの上で、 僕は朝を迎える。
真っ白な部屋に、 無色の太陽光が射し込む。
今がいつなのか
始まりから どのくらい経ったのか
僕は知らない。
だって、変わっていたんだ。
ある朝、僕が目覚めると
周りには誰もいなかった。
辺りは全て真っ白で
色は、消えてしまっていた。
夜になれば、 黒がやってくる。
闇色の絵の具を 塗りたくったように
じわりじわりと、 世界を侵食していって
気がつけば、 真っ黒な夜になっている。
星や月の淡い光が、 部屋の中で優しく弾ける。
黒の中で白が輝いているとき
僕には大きすぎるベッドで 夜を過ごす。
おそらく昼になると
壁にもたれて座りながら
僕はひたすらに考える。
何故、僕が選ばれたのか。
世界で「ひとりきり」が 僕なんて。
僕はなんの特徴もない、
それこそ無彩色のような 人間なのに。
いつまでも考えるけど
いつになっても答えは出ない。
いつもループしたまま、 進まない思考。
ふと思い出すのは、
あの子のこと。
話したことはないし
接点だってなかったし
目が合うこともなかった。
でも、色が消える世界より ずっと前から
彼女はどの色彩にも劣らない 鮮やかさを持っていた。
目を閉じていても そうでなくても
今でもありありと脳裏に浮かぶ。
風に吹かれて 柔らかく揺れる茶色の髪。
陽に当たって 金色に光る白い肌。
アーモンド型の 真っ直ぐな瞳。
いつも無気力な背中と、 繊細に感情を表す唇。
無口な彼女が不意に発する 透き通った言葉。
そのどれもが、 光と色を帯びて
僕の目には 一際輝いて見えていた。
もしかすると僕は、
恋をしていたのかもしれない。
降って湧くように
唐突に現れた閃きが僕を支配する。
朝になると、 誰もいなくなっていた。
それは、夜の内に 何もかもが 消えていたということだろうか。
僕はここから出られない。
不自由はしないけど、 ここ以外の場所は知らない。
なんといっても、 ここに終わりはないから。
ひとりきりになると同時に、 色が失われた。
白と黒だけの、 モノクロな世界。
まるで、スケッチブックに 鉛筆で描いたように
無機質で物足りない。
僕と世界には
一体何が起こったのか。
もしかすると、
床に寝そべって、 なんとはなしに上を見る。
天井なのか、空なのか わからないけど。
慣れてきた純白が、 今は寂しい。
何色もの世界を 信じて疑わなかった全人類が
朝起きたら、 ひとりきりになっていたのかも。
我ながらありえない話だ。
思わず笑ってしまう。
でも、既にありえないことが 起きている。
これは夢なのか、 なんて何度も思った。
こうやって僕は座って考えて
入口も出口も見つけられない。
だってしょうがない、
ただ焦がれているだけ なんだから。
もし僕の人生が 何かの物語なら
ひとりひとりが ひとりきりの
2色しかない世界のほうが
夢オチよりかは、
遥かに素敵だ。
心臓が跳ねる音を聴いた。
普段は一定のリズムが
ほんの少しだけ、 乱れている。
気づいてしまった
たぶん現在進行形の恋が
無彩色の世界にひとつ、
白黒の中を染みて
やがて僕全体に広がった。
久しぶりに出した、 小さな呟きは
白い昼間に響いて消えた。
モノクロームデイ
コメント
18件
フォロー失礼します!
すうさんの書く物語は透明で、透き通った感じがします… 今回も素敵でした… 私もすうさんのようになれるように頑張ります✨
世界観がとても素敵でした。