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月見 晴翔
机上の書類の整理をしていると、ひとつ自分宛の手紙があることに気が付いた。
差出人の名前と内容を見ると納得したのだが、相変わらず仕事人間なやつだ。
これといった予定もないので、どうせなら出雲も一緒に差出人の元へ行こう、そう思い出雲に声を掛けた。
月見 晴翔
出雲 治
出雲 治
月見 晴翔
出雲 治
分かっていなさそうな感じで首をかしげる出雲だが、行けば厭でも分かるはずだ。
まだ寒い時期なので、コートを羽織って事務所の扉を開いた。
勿論、返し忘れていた本も持って。
出雲 治
そう、着いたのは図書館。
数週間前に借りた本を期限を過ぎても返していなかったため、ここの司書直々に手紙を送ってきたのである。
尤も、それは僕とここの司書がそれなりの仲であるからなのだが。
出雲 治
月見 晴翔
説明するよりも先に本人が出てきてくれたようだ。
向こうの本棚から顔を出したのは、この街で一番大きな図書館の司書こと、出雲雅だった。
出雲 治
どうやら出雲は驚いて声も出ないらしい。
月見 晴翔
出雲 雅
月見 晴翔
月見 晴翔
月見 晴翔
出雲 雅
出雲 雅
月見 晴翔
平和に会話をしていると、正気を取り戻したか出雲_弟の方_が声を掛けてきた。
出雲 治
出雲 治
少し声を大きくしすぎた治に、雅は溜息をつきながらかけている眼鏡をかちゃりと持ち上げた。
出雲 雅
そう言って、僕と治は雅の後を着いて行った。
通されたのはどうやら歓談スペースらしい。
ここなら喋っていても許されるということだろう。
出雲 治
一応確認のために問うてみる。
するとまたもや兄は眼鏡を持ち上げた。
兄の驚いた時の癖である。
出雲 雅
出雲 雅
嫌味たらしく言ってくる兄に、少しイラッとしてしまう。
出雲 治
出雲 治
出雲 雅
出雲 治
兄を前にどもってしまうのは、俺の昔からの癖だった。
ある程度人の目を見れば何を考えているのか分かる俺だが、兄は本気で分からない。
俺とは違う色の瞳の奥で、何を考えているのか予測できないというのは少々怖い。
正直言って逃げ出したい空気だが、晴翔さんの手前そんなことをするわけにはいかない。
出雲 雅
何度目か分からないような溜息にぴくりと肩を震わせてしまう。
悪くなっていく雰囲気を察してか、晴翔さんが兄に声を掛けた。
月見 晴翔
出雲 治
出雲 雅
月見 晴翔
月見 晴翔
意味の分からない会話が繰り広げられ、頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。
ぽかんとしていると、本当に晴翔さんは歓談スペースから出ていってしまった。
晴翔さんも居なくなってしまったことだし、と逃げ出す気満々で腰を持ち上げようとすると、不意に兄が口を開いた。
出雲 雅
出雲 治
突然の褒め言葉__と言っていいのかは分からないが__に硬直してしまう。
出雲 治
出雲 雅
出雲 治
出雲 雅
悪かった、なんてそんな言葉は生きていて初めて兄から聞いたかもしれない。
幼少期は殆ど覚えていないが、多分兄が苦手だったと思う。
無表情で、いつも勉強してて、それでいて友人は多くて人間関係も上手くいってて、非の打ち所のない兄が、少々不気味であった。
そんな兄と疎遠になったのは、兄が中学受験して他県へ行った頃からだった。
俺は高校までは実家で過ごしたため、兄と会う機会があっても良いんじゃないかと思ったりもしたが、どうも兄は実家に帰ってくることはなかった。
だから、兄は俺のことをあまり好いていないのだと思っていたのだが。
出雲 治
出雲 雅
出雲 治
出雲 雅
出雲 治
出雲 雅
出雲 治
面白い出会いでも何でもなくただ本当に大学が同じだっただけらしく、少しつまらなく感じたのは胸の内にしまっておく。
しかし、少しだけ不思議にも思う。
地元から早い段階で出ていった兄と、大学に上がると同時にこの街に来た俺、そして中学の頃にここに越してきた晴翔さん。
俺たち兄弟が十数年ぶりに再開し、そしてどちらもがどこかで晴翔さんと出会っていた。
よく分からない引き合わせに、運命というものは存在するのかもしれない、なんてぼんやりと考えた。
ぼうっとしていたからか、兄はこちらを覗き込んで首を捻っている。
そんな姿に、くすりと笑みがこぼれる。
出雲 雅
出雲 治
出雲 治
俺が笑ったからなのか、兄はまた眼鏡を持ち上げた。
出雲 治
出雲 雅
そりゃそうだ。
だって俺の中の兄の像というものは成績優秀、文武両道で人に頼られる存在だった。
大学時代の兄は知らないが、おそらくどんな会社からでも引く手数多だったんじゃないか__なんて憶測する。
出雲 治
出雲 雅
やはりか__と、少しだけ胸が苦しくなった。
なんで兄はこんな掴めなさそうな見た目をしておいて、俺とは違って周りと馴染めたのか。
それは多分、俺が1人で考えたって分からないことなんだろう。
兄弟でこんなにも変わるとは思ってもいなかったものだから、その事実を突き付けられてふっと目を伏せてしまった。
そんな俺の様子に気が付いたかいなかったか、兄は声色を変えずに言葉を紡ぐ。
出雲 雅
出雲 治
出雲 治
出雲 雅
出雲 治
出雲 雅
出雲 治
言い切った兄の瞳は、いつもなら何を考えているのか見透かせないのに、今だけは何を考えているのかが分かった。
__"他に理由なんて要らなかった"、と兄の瞳はそう語っていた。
出雲 治
出雲 治
出雲 雅
出雲 治
出雲 雅
出雲 治
それじゃ、と言って歓談スペースを後にしようとした時、不意に兄に声を掛けられた。
出雲 雅
多分、これは兄なりの歩み寄り方なんだろう。
出雲 治
そう言えば、兄はふわりと顔を緩ませて笑いかけてきた。
兄のこんな穏やかな笑顔は、生まれて初めて見ただろう。
兄弟話が終わったようなので、勝手に本を返して図書館を後にした。
月見 晴翔
出雲 治
月見 晴翔
出雲 治
雅は長年、弟である治と連絡が取れずモヤモヤした日々を送っていたらしい。
それでは何故、学生時代に実家に帰らなかったのか。
それは雅が治同様に察しの良い奴だったからだ。
雅は、治が少なからず劣等感を抱いていて、自分がいると悪影響を与えかねないということを理解していた。
出雲兄弟の両親はいい意味でも悪い意味でも無関心不干渉だったようで、帰省しなくとも問題はなかったらしい。
そんなこんなで兄弟間に歪みが生まれ、距離感が掴めずにいたそうだ。
しかし今日改めて話してみると、案外にも打ち解けられたようで安心する。
月見 晴翔
出雲 治
出雲 治
月見 晴翔
確かに治は人と合わせるのが苦手で自分の意見を言えるタイプ、それとは逆で雅は人に合わせがちで自分の意見を言わないタイプだ。
まぁ、だから雅にも大学時代にアドバイスをしたことがあったわけだが。
月見 晴翔
出雲 治
1度決めたことは最後まで突き通すようになった2人。
これからはこの兄弟の距離の詰め方に対して、僕はもう口を挟まないだろう。
月見 晴翔
2人とは4、5歳しか離れていないというのに、どうしてかそんな言葉が口の端からこぼれた。
__to be continued