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お母さんの助言のおかげですね! 続きが楽しみです😆
放課後。
屋上に着くと、腕を組んだ母屋が待っていた。
威圧感がハンパない。
そう、ついに別れ話を切り出されるのだ。
田心 月子(たごころ つきこ)
母が母屋の背後で何やら慰めてくれているようだったが、耳には入らなかった。
俺は今、母屋のことしか考えていない。
いや、この三週間、母屋のことしか考えていなかった。
寝ても覚めても、母屋のことを考えていた。
母屋麗子。
14歳。
俺の彼女。
内弁慶で、普段は無口なのに、二人になると牙を剥く。
ワガママで、ドSで、口が悪い。
俺に悪態を吐いては、心底嬉しそうに底意地の悪い笑顔を作る。
おまけに、守護霊として俺の母親が憑いている。
最悪の、彼女だ。
最初は別に好きなわけじゃなかったし、好きになる要素も特段ない。
だけど、
だけど、俺はそんな母屋のことが、いつの間にか好きになっていた。
誰よりも、何よりも好きになっていた。
放したくない。離れたくない。
手を握れなくたって、抱き締められなくたって、チューできなくたって、エッチできなくたって、母屋に隣にいて欲しい。
ここにいて欲しい。
母屋 麗子(おもや れいこ)
母屋は、言いにくそうにしていた。
俯き、伏し目がちにこちらを窺う。
その先の言葉は、聞きたくなかった。
絶対に、聞きたくはなかった。
だから俺は、機先を制した。
全身の筋肉を収縮させ、解放。
ナナメ45度に跳躍。
そのまま膝を折り曲げ、膝から着地。
同時に頭も地面に叩き付け、両手は地面をダブルアタック。
そう、土下座。
日本人が世界に誇る最終謝罪奥義DO☆GE☆ZAを惜し気もなく披露する。
別に謝ることなんかない。むしろ謝って欲しいくらいだ。
だから、これは違う。謝罪じゃない、懇願だ。
俺は、今日の為に一万回は練習した腹式呼吸で咆哮した。
田心 春樹(たごころ はるき)
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 月子(たごころ つきこ)
静寂がその場を支配した。
一秒が一分にも、一時間にも感じられる。
そして、審判が下る。
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
全くの予想外の応え。
恐る恐る顔を上げる俺に、彼女は言った。
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
バカ!? バカですと!? 俺がバカですと!? バカって言ったやつがバカなんだぞ、バーカ!
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
溜息を吐く母屋と、精一杯強がってみせる俺。
そんな二人を、母さんはニヤニヤと見守っていた。
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
俺の彼女は、口を尖らせて、赤い顔で何やら差し出してきた。
綺麗にラッピングされた、縦長の箱。
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
お互いに無言だった。
心情はきっと違う。だけど、二の句を継げないのは、二人とも同じだった。
そんな二人を見かねたのか、声が一つ。
田心 月子(たごころ つきこ)
それは、とても透き通った声だった。
胸に、ストンと落ちた。
田心 月子(たごころ つきこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
うるせーよ。言われなくても、もうわかってるよ。
一カ月記念。
それは、俺が母屋の家に招かれたあの日のことだ。
――『彼女の家に行く時、持っていくものは?』
正解は、付き合い始めて一カ月記念のプレゼント。
コンドームとか答えたら、そりゃ怒るわな。
田心 春樹(たごころ はるき)
俺は、立ち上がって、晴れ晴れとした笑顔で受け取った。
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
明日には渡す。いや、小遣いがもうないから、来月には渡す。
田心 月子(たごころ つきこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
つい声が出てしまった。
母親の怒鳴り声って、変な力があるよな。
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
またも二人して無言になってしまった。
だけど、先程とはまた違う静寂だ。
やがて口を開いたのは、母屋の方だった。
母屋 麗子(おもや れいこ)
さっきと同じで、唇は尖って、顔は赤い。
違うのは、その手に何も握られていないことだ。
流石に俺でも、察しが付く。
田心 月子(たごころ つきこ)
いつも通り、母は野次馬根性全開で、こちらを凝視していた。
田心 春樹(たごころ はるき)
この三週間、俺は母屋のことばかり考えていた。
最低な理由で告白してしまったが、相手がこいつで良かったと、今なら思う。
ずっと、ずっと母屋のことだけを考えていた。
だから、
母屋 麗子(おもや れいこ)
母さんが見ていようと、関係ない。
俺は、母屋の手を握った。
二ヶ月目にして、挑戦すること数十回目にして、やっとのことだった。
田心 春樹(たごころ はるき)
照れ隠しに、笑って見せた。
母屋 麗子(おもや れいこ)
母屋も、笑った。
母さんがどんな顔だったかは、語るまでもないだろう。
母さん、ボクにも彼女が出来ました。
母屋 麗子(おもや れいこ)
田心 春樹(たごころ はるき)
母さん、オレにも彼女が出来ました。