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あの後大学からチャリを飛ばし、5分とかからず自宅マンションまでたどり着いた。
まずシャワー室に飛び込む。
臭いが残らないよう、全速力かつ入念に体を洗浄。
そして無数のプランクトンを飲み込むシロナガスクジラのごとく、レンチンした冷凍チャーハンを一気にかき込む。
それから昨晩あらかじめ用意しておいた服一式を身にまとって、家を飛び出した。
最寄りの東白楽駅から待ち合わせの馬車道駅までは、東急東横線一本で行ける。
乗り換えはなしで、所要時間はおよそ10分。
結局、待ち合わせの駅に着いたのは約束5分前だった。
ユウヤ
ユウヤ
ユウヤ
なので彼女を待たせてしまうのは可能な限り避けたい。
ホームに滑り込んだ電車のドアが開くや否や、改札のある階までエスカレーターを駆け上がる。
その先にはライブでもできそうな広々としたホール状の空間が広がっていた。
エスカレーターから降りた僕は、キョロキョロと周囲を見渡す。
しかし、彼女の姿はなかった。
ユウヤ
静かに、ホッと胸を撫で下ろす。
どうやら今日は、彼女を待たせずに済んだようだ。
ユウヤ
僕は改札を抜けずにそのホールで待つことにする。
彼女が到着した時にすぐわかるよう、ちょうど良い位置にある柱に背中を預ける。
そして、待ち合わせ場所に到着した旨のLINEを彼女に送る。
チャット画面にメッセージが投下されたのを確認して、僕はコートのポケットにスマホを戻した。
ホールにはウミネコの鳴き声を模したBGMが流されていた。
ミャーミャーというその音は、まさしく港町といった風情を醸している。
段々と、気持ちが落ち着いてくる。
僕は心地よい音に身を任せるように目を閉じ、コツンと柱に頭を預けて天井を仰ぐ。
ユウヤ
目を閉じて最初に浮かんできたのは、そんなことだった。
彼女は服飾系の専門学校に通っているらしく、とてもオシャレなのだ。
会うたびに印象が違くて、その全てが抜群に似合っている。
スラッとした細長い足に、170cm近くあるモデル体型がそれを可能にしているのだろう。
その日の彼女のファッションを予想するのが、待ち合わせ前のルーティーンになりつつあることは、僕だけの秘密である。
ユウヤ
そんなことを考えているうちにふと時間が気になり、スマホを取り出して画面を点ける。
いつの間にか約束の時間を5分過ぎていた。
ユウヤ
ユウヤ
ユウヤ
そして僕は暗くなったスマホの画面に自分の顔を映し、髪型の最終調整を実施する。
それは自宅を出る前、準備に時間を食った最大の要因でもあった。
僕は今まで髪型というものにあまり気を遣ってこなかったのだが、彼女との出会いを機に変わった。
立花さんはオシャレだから、隣を歩く男がダサいのは嫌かもしれない。
そう思って最低限、服装や髪型には気をつけることにしたのだった。
ユウヤ
その時、エスカレーターから人の頭が見え始めた。
どちらの方面から来たのかはわからないが、どうやら電車が到着したようだ。
数十人近くが、ぞろぞろと現れる。
おそらく横浜方面からやってきた電車だろう。
しかし、その中に彼女の姿はなかった。
そしてその次の人波にも、またその次の人波の中にも。
彼女の姿は、なかった。