音子
(何しておこう...)

支配人
「惨敗...うっ...」

瑪瑙さん
「楽しかったわ」

阿鳥先輩
「瑪瑙さん強いですねー」

瑪瑙さん
「ありがとう」

パチンコ玉
「ほら、そこの火の野郎ももっと本気出していいんだぜ!!」

支配人
「え、えっと~...」

音子
(支配人、ファイトです)

支配人
「...あ、音子ちゃん!
この方の思い出探し協力してさしあげて」

音子
(あ、話変えた)

パチンコ玉
「おう!よろしく頼む!」

音子
「は、はい」

音子
(じゃあ、始めるか)

音子
「まずは...っと」

音子
「...って!痛っ!!」

音子
(痛い...
まだじんじんする)

音子
「ん?なにこれ...
黒電話?何でこんなところに...」

音子
「うおっ!?」

音子
(もう、この音いきなりでビックリする!!)

音子
「はい、もしもし?」

音子
「え?」

音子
「あのどちら様でしょうか...?」

音子
「...それで、あっくんとは?」

音子
「いえ、私はあっくんではなく...」

音子
(...おそらく、電話の相手はパチンコ玉の母親だろうか)

音子
「あ、切れた」

阿鳥先輩
「無駄だよ、音子ちゃん」

音子
「...どういうことですか?」

阿鳥先輩
「その電話はお客様の記憶にあるものを再生しているだけであって、音子ちゃんと会話している訳じゃないんだよ」

阿鳥先輩
「あ、ツモです」

パチンコ玉
「くっそ~!!いい手だったのに~!!」

音子
(なるほど、こちらの声は聞こえていないのか)

音子
「電話の相手は恐らくお客様の母親だと思います」

音子
「“あっくん”の帰りを待っている様です」

パチンコ玉
「あっくんね~、それが俺の名前かよ」

支配人
「何か思い出されましたか?」

パチンコ玉
「...ただ母親がうるさかったってのは覚えてんな」

パチンコ玉
「それ以外はわかんねえ」

パチンコ玉
「あ、夜食って頼める?」

支配人
「もちろんでございます」

パチンコ玉
「俺ハンバーグがいいなあ」

音子
「行ってきます」

私は厨房へと向かった
五人しかいない、黄昏ホテルの従業員の内一人は大抵厨房にいる
彼女がここの料理長といっても過言ではない
何しろ彼女が一人で食堂とバーの食事、更に私達のまかないまで用意してくれるのだから
厨房に行くとルリさんがせわしなく動いていた
私達のまかないを作ってくれているのだろう
ありがたい話だ
音子
「ルリさーん」

ルリさん
「ちょっと塚原!!
他のみんなはどこにいっちゃったのよ!」

ルリさん
「ロビーにもバーにもいないからビックリしちゃったじゃない!」

音子
「寂しかったんですか?」

ルリさん
「だ、誰がよ!!」

音子
(うへへ、可愛い)

音子
「みなさん、お客様の部屋で麻雀やってますよ」

ルリさん
「麻雀!?」

ルリさん
「あー、やだやだ
何で大人はそんなギャンブル好きなのよ!!」

音子
「お客様がルームサービスでハンバーグが食べたいそうです」

ルリさん
「分かった、すぐに作るわ
出来たらあんたを呼べばいい?」

音子
「私も暇なので手伝います」

ルリさん
「いい、足手まといだから」

音子
「じゃあ、ここにいていいですか?」

ルリさん
「勝手にすれば?」

音子
「今日のお夕食何ですか?」

ルリさん
「ハンバーグ、ちょうどスープも作ってたし」

音子
「そのメニューお客様と同じじゃないですか!!」

ルリさん
「な、何よ!そんなに驚くこと?
ルームサービスの余りを活用するのが基本でしょ?」

音子
「へー」

音子
「そういえばルリさん、支配人や瑪瑙さんって人間じゃないんですね」

ルリさん
「あの見た目で人間って言われても困るわよ!」

音子
「そうですね...」

音子
「支配人は頭燃えてるし、瑪瑙さんは立派な角が生えてらっしゃるですもんね...」

音子
「でも見た感じあのお客様も人間じゃないですよね」

ルリさん
「...誰ソ彼(たそかれ)」

音子
「え?」

ルリさん
「あなたは誰ですかって意味」

ルリさん
「黄昏時って相手の顔が見えにくいでしょ?」

音子
「へー」

ルリさん
「このホテルの目的はソレ
自分が誰かを思い出して
行き先を思い出させるために存在してるんだって」

音子
「だから黄昏ホテル...」

ルリさん
「私らが魂だっていうことは分かるでしょ?」

音子
「はい、肉体から離れてる状態ですよね」

ルリさん
「ここに来る人は大概自分が誰かも見失ってる
だから自分の顔もろくに形作れない」

音子
「でもなんであのお客様は頭がパチンコ玉なんでしょう...」

ルリさん
「それはあのお客様にとってギャンブルがアイアンティティだからなのかもね」

音子
「...ん、ちょっと待てよ?」

音子
「ということは私も来たとき変な顔になってた可能性があるって訳ですか~!?」

ルリさん
「かもしれないわね」

音子
「うわー、後で阿鳥先輩に聞いてみよ~」

私と会話しながらもルリさんはテキパキと仕事をこなしていた
ルリさん
「はい、ハンバーグ完成!」

音子
「うわー、美味しそう!!」

ルリさん
「早く持ってって!!」

音子
「了解!」
