その頃、先の戦いで自己の力を理解し始めたクロトは、すでに15階層まで進んでいた。
クロト
なるほど。どうやら俺は自身に流れている血を操る力があるんだな。さっきの魔獣と戦った時吹き飛んだはずの腕が戻ったしな。

そしてクロトは進んで行き20階層に到着すると肌が紫色で目が赤く羽が生えた女の魔獣が待ち構えていた。
フルエラ
へぇ。ここに来るという事は、あの脳筋のケダモノのグルバは負けたようね。...さぁ。今度は20階層のフルエラが相手よ。挑戦者!

するとフルエラは背中の羽を羽ばたかせて手に持っていた毒針を羽ばたかせてた風にのせてクロトへと打ち込んだ。すると、クロトは右手に持っている剣で自身の左腕を切ると血が大量に流れ出る。それを操り壁を作ると飛んできた毒針は血の壁に当たり勢いを無くし地面に落ちる。
フルエラ
へぇ。やるじゃない。さすが、あの筋肉魔獣を倒しただけあるわね。じゃあ、これはどうかしら?

クロト
(血を操れるという事は血で壁を作り防御も出来ると言う事か...だが、壁を作った血には奴の毒が混じってしまった。これを取り込めば俺の体内に毒が流れて死ぬかもしれない)

クロトがそう考えているとフルエラは身体から紫色の鱗粉を撒き散らし始めた。
フルエラ
考えている暇は与えないわ。(さぁ。どうする?この鱗粉はさっきの毒針より強力な私最大の猛毒。常人ならば即死だわ)

すると、クロトは先ほどの血で作った壁を今度はドーム状に変形させて鱗粉を防ぎ始める。
フルエラ
へぇ。考えたわね。あらゆる方向から血で護っている...ようだけど。

撒き散らした鱗粉はクロトが作り出したドーム状の血に混じりはじめる。
フルエラ
(さぁ。吸収しなさい。さすればお前は即死で私の勝利だわ!)

しかし、切った箇所から血が流れて過ぎていた。クロトは毒を吸収した血を戻せば血に含まれた毒に侵されると知っていた上で、クロトは一か八かドーム状にしていた血を切った箇所に戻す。切った箇所は自然治癒して傷が塞がっていく。
クロト
ぐっ....。

フルエラ
あっはははは!!血を吸収したわね。さぁ。私の猛毒の鱗粉で苦痛を味わいながら死になさい。

クロト
....。

フルエラ
....。

クロト
??

フルエラ
??

フルエラ
あれ?毒は?あなた何ともないの?

クロト
...ああ。

フルエラ
そ...そんな事ある!?普通なら内側から溶けていき激痛がはしってそのまま死に至るはずよ。

クロト
(確かに...どうなっている?...もしかして、さっきの毒針もそうだが俺は体内で血清が作れるんじゃないか?)

クロト
誤算だったな。どうやら毒は効かなかったみたいだ。どうする?このまま続けるか?

フルエラ
....。降参よ。猛毒の鱗粉が効かない時点で私の敗北。次の階層に進みなさい。それと余計な事かもしれないけど、次の階は気をつけた方がいいわよ。

そう言うとフルエラは次の階層に続く場所を指差しクロトはそれに従い次の階層へと降りていく。
次の30階層まではフルエラの猛毒の鱗粉が残っているのか、魔物は一切クロトを攻撃する事はなかった。クロトはそのまま30階層に到達すると骸の姿をした魔道士がいた。
ログ・ナルダ
ほぉ。貴様もフルエラを倒し、この部屋まで来るとはな挑戦者よ。
正直驚いたぞ。...一応名乗っておくが、私は呪術師ログ・ナルダという。

クロト
(貴様も?)俺はクロトという。

ログ・ナルダ
クロトか。では、お喋りはこの辺にして始めようぞ!

クロト
何だ。あの黒い霧は...。

ログ・ナルダ
すぐに分かる。「自分の首を絞めろ」

クロト
ぐっ。

ログ・ナルダ
ぐはははっ。体の自由が効くまい。今回は呆気(あっけ)なく終わりそうだな。

するとクロトは唇を噛みちぎり血が出てきて細い刃へと変形し、両腕を切断した。
ログ・ナルダ
ほぉ。腕を切断したか。咄嗟(とっさ)の判断とはいえ見事な選択だ。しかし、自ら腕を切り落とすとは馬鹿な事をしたものだ。

クロト
それはどうかな?

ログ・ナルダ
ふふっ。強がりか?それとも両腕がない状態で私に勝てるとでも?

切断した腕から大量の血が吹き出ているが、時が戻ったかのように血が腕へと吸収されていき、腕が元通りになった。
ログ・ナルダ
なるほど。貴様もただの侵入した人間ではないという事だな。

クロト
貴様もって?さっきから何を言っているんだ?

ユテル
待ちなさい。

クロト
!!

ログ・ナルダ
!!ユ...ユテル様!

ユテル
やっと追いついたよ。それで、さっきの話どういう事?お前もって?

ログ・ナルダ
ええ。少し前に赤髪の少女がここへ来て、挑戦者と思い迎撃しようとしましたが、なんと私の体を一太刀でバラバラにしたんです!

ユテル
その少女は今どこにいる?

ログ・ナルダ
この様子だと下層へと向かわれたと思います。

ユテル
....。クロト。状況が変わった。僕と共に最下層へと向かうよ。

クロト
え?で...でも。

ユテル
ログはここに待機していなさい。

ログ・ナルダ
はっ。仰せのままに。

ユテルはクロトの服を掴み一緒に下層へと繋がる階段を降りていく。すると、33階層の階段に大きな穴が空いていた。
ユテル
こ...これは。

クロト
何で大きな穴がこんな所に?

ユテル
いくわよ。

クロト
え?うぁぁぁぁぁぁぁ。

ユテルとクロト服を掴み、そのまま穴の中へと落ちていく。穴はとても深くまで続いており、物凄いスピードで落下していく。最下層に近くなったと感じたユテルはスピードを一気に失速させてふわふわ浮いたようにゆっくり下へと降りていく。
ユテル
この深さ...おそらく最下層まで続いているね。

クロト
な...なぁ。そろそろ教えてくれ。一体何があったんだ?

ユテル
このダンジョンに君以外の別の何者かが侵入しているんだよ。ログを一撃で倒すほどの強者がね。

クロト
でも、ここはお前が作ったダンジョンって言ってただろ?そんな簡単に入れるものなのか?

ユテル
もちろん作ったのは僕だけど、誰もが入れる訳じゃない。それに僕やスファーニの監視を掻(か)い潜(くぐ)り最下層までの穴を空けるとは...。

クロト
それってつまり...。でも何か違和感が...。

ユテル
お話しはここまで。気を引き締めて。

ユテルとクロトはようやく地面に足を付くと神殿のような建造物が建っており、獣人の少女が地面に倒れていた。その横ににログが言っていた赤髪の少女が立っていた。
ユテル
何者だい?

???
...。

すると、その場にいた少女の姿が一瞬で消えており、少女はユテルの後ろに立っていた。次の瞬間ユテルの左手が斬り落とされていたのだ。
クロト
ユテル!!

ユテル
んー。早いね。でも、いきなり斬りかかるのはどういうつもり?

すると斬り落とされた左腕から血は一滴も出ず、いつの間にか何もなかったかのように左手は元通りにになっていた。
???
...。

すると、赤髪の少女は刀を鞘(さや)に納めて再び柄(つか)を持ち直すとその場で勢いよく刀を抜く。すると、ユテルとクロトの胴体が真っ二つになった。
ユテル
!

クロト
!!

斬られた二人の胴体はそのまま地面に落ちると、刀を抜いた場所の空間が大きく裂け、赤髪の少女はその中へと消えていく。
ユテル
逃げちゃったか。

すると、胴体が真っ二つになったユテルの体が自然にくっ付き立ち上がった。
ユテル
クロト。起きなさい。君はその程度では死なないでしょ。

胴体が真っ二つにされたはずのユテルは何もなかったかのようにその場に立っていた。クロトも同様真っ二つにされた胴体を血で切断部分をくっつけていき、修復が終わると立ち上がった。
クロト
お前の方こそ、何で俺と同じく胴体を斬られて生きているんだよ。神って化け物かよ。

ユテル
そういう君も胴体真っ二つにされて生きているだけでも十分化け物だよ。

クロト
はぁ。そうだよな。

ユテル
まあ、ここでの話は置いていて...まずは、ルディを容態を確認しましょう。

クロト
ルディ?あの獣人の少女の事か?

ユテル
そうだよ。

クロトとユテルは倒れている獣人の少女の容態を見た。幸い急所は外れており、ユテルはその場で治療を施し命に別状はなかった。しばらくすると獣人の少女がは目を覚ましたと思ったら、おそろしい速さでいつの間にかクロトとユテルと距離をとった。
クロト
(え?速い!!)

ルディ
ゔぅぅぅ。

クロト
何だ?すごい警戒されているじゃないか。

ユテル
彼女は僕がこのダンジョンに連れてきた存在ではない。彼女はこの最下層で現界した存在だからね。警戒されても不思議はないかな。はぁ。せっかく治したのに...。

クロト
え?じゃあ、何で名前を知っていたんだ?

ユテル
今付けたのよ。名前無いと不便でしょ?

クロト
一応聞くが、ルディって名何かに由来して付けたのか?

ユテル
え?適当よ。適当。

クロト
はぁ。

ユテル
いやいや、なぜため息とそんな顔をするんだい?

クロト
別に呆れてるとか思ってないぞ。

ユテル
いや、その顔は呆れてるよね?絶対呆れてるよね?...まあ、お話はこれくらいにして最後の試練よ。彼女を止めてみなさい。

クロト
試練?

ユテル
この最下層はここを訪れた者の力を元に現界する。言わば従者になり得る場所。君が彼女と戦い主従関係をもたらす事こそが試練なんだ。だけど、ちょっと厄介な事になってしまったけどね。

クロト
どういう事だよ?

ユテル
さっきの赤髪の少女はあなたよりも早くこのダンジョンへ入り最下層へと降り立った。もうここまで言えば分かるよね?

クロト
!...あの獣人の少女があの赤髪の少女の力を元に現界したという訳か?

ユテル
そういう事。だから気をつけて。下手に油断したら死ぬよ。

ルディという少女はその場から一瞬で消えてクロトが反応する間にも左腕が吹き飛んでいた。クロトは地面に足を付いて右手で左腕を押さえる。ルディは再びクロトに攻撃しようとする。
クロト
くっ。速すぎるだろ。でも、おかげで罠にかかったな!

ルディ
!!

先程クロトの左腕が吹き飛ばされた際ルディの体に付着した血が細い糸状に作りあげられ拘束された。ルディは抵抗しようと暴れ出したが、身動きがとれなかった。
ユテル
(へぇー。付着した血もあれだけの細い糸状に作るって...やるね)

クロト
で?これからどうすればいいんだ?

ユテル
後ろ!

ユテルがそう言う間もなくクロトの背中に大きな引っ掻き傷が付けられた。
クロト
ぐっ。な...なに。(自力で拘束を解いた?)

ルディ
ゔぅぅぅ。うがぁぁぁ!!

ルディはさらにスピードを上げた状態で、クロトの体の様々な場所を引っ掻き出した。クロトは右手で頭を覆い隠すが、頭部以外は一方的に傷がどんどん増え血が滴(したた)り落ちる。
ユテル
(まずい。このままだとクロトが...)

すると、ルディはトドメをさすように指の爪を鋭くして指を一点に集め、それはクロトの腹部を貫通してクロトは口から大量の血を吐く。勝負が決したと思ったが、その瞬間クロトは微笑んだ。
クロト
おい、やっと捕まえた。さっきの拘束した細い糸だけでダメならこれはどうだ!

するとクロトが流した大量の血がルディの身体を覆い隠すように小さい球体状へと変化させた。ルディは再び抵抗するが、今度は破る事ができなかった。するとクロトは球体に手を置くと球体の中で血が細いの針に変化してルディの急所じゃない部分を次々に刺していく。
ルディ
ぎゃあぁぁぁ。

しばらくして、球体が大人しくなるとクロトは傷口から球体状にした血を再び体内に取り込んだ。球体から出てきたルディはその場で痙攣して動けなくなっていた。実はクロトが血で生成した針には20階層でフルエラから採取した毒の内ほんの少量の毒が仕込まれていたのだ。
ユテル
(なるほど。あれはフルエラの麻痺毒。完全に力をモノにし始めているじゃないか。)お見事。君は試練を達成した。後は従者にするには君の血を彼女に飲ませればいい。完全に抵抗できない今の状態であれば成功するはずだよ。

クロト
はぁ。はぁ。(血を流し過ぎて意識が吹っ飛びそうだった)

クロトは動けなくなったルディの元へかけ寄り、傷口の血を数滴彼女の口に垂らす。それを含んだルディの身体が光り出した。
ユテル
成功だね。これで、この子はあなたの従者となったわ。...その前にもう一度傷を治療するわ。(スファーニ!)

スファーニ
(はい)

ユテル
(フルエラから解毒薬の準備をしてもらい、オフィスまで持ってきてもらってちょうだい。治療が終わったらオフィスへと戻るよ)

スファーニ
(承知致しました)

ユテル
さぁ。クロト。0層のオフィスへとこのままいくわ。僕の手を掴んで。

ユテルは浮遊の力でルディを浮かし、クロトに手を差し伸べる。クロトはユテルの腕を掴むとすごい速さで先程の穴を上昇して、オフィスまで移動していった。
ユテル
スファーニ。準備できたかしら?

スファーニ
はい。フルエラ様からお預かりしました。

ユテル
そう。じゃあ、空いてる部屋で解毒薬を飲ませてそのまま安静にしておいて。僕はちょっとクロトと話があるから。

スファーニ
かしこまりました。クロト様の左腕は大丈夫でしょうか?

ユテル
問題ない。そうでしょ?クロト。

クロト
あ...ああ。

ルディに飛ばされたクロトの左腕は時間がかかったが、元通りに治った。
クロト
それにしても今回は治るスピードが遅かったな。

ユテル
おそらく血が不足しているからじゃない?

クロト
血が不足?

ユテル
もう気づいているかもしれないけど、君は血を自在に操りそれは様々な形状に変化させるは勿論...自身の身体の破壊を修復する事だってできる。そうでしょ?

クロト
ああ。だけど、死ぬ前はこんな力なんてなかったんだ。ユテルが生き返らせた時何かしたのか?

ユテル
いや、僕は君を生き返らせる以外何もしていない。これは僕の仮説だけど、生き返らせた事によって君の内に秘められていた力が目覚めたと思っている。で、本題はここからなんだ。クロト。君の血を自在に操る力は大昔に僕達神が多くの犠牲を払いやっと封印した『赫月の王 ゾハ』の力と酷似している。

クロト
赫月の王...ゾハ?

ユテル
800年前に大陸全土を支配する戦争が起きた。主に起こしたのは4人。
『赫月(あかつき)の王』
『朱影(しゅえい)の王』
『全知(ぜんち)の王』
『時刧(じこう)の王』
そして、それぞれ原始の王...またの名を『神ノ災(かみのわざわい)』。赫月の王ゾハはその一座なんだ。
