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ヒントは、たくさんあったんですね。息子さんの手紙もプレゼントも忘れているなんて。悲しい話ですね。 テーマの「希望」から出てくる、意外な展開でした!
子供ことなら、という妻の最後の希望をズタズタにする話でしたね。どこまでもゲームマスターの手の内で救われない様子と、圭介くんの察したような聞き分けの良さがなんとも言えない気持ちになります。
刺激的な展開でした! 🙌 息子のことを大切に思っていれば、悲しい結末にならなかったのでは...と考えると心苦しいですね... 独り善がりな希望はとっても脆いのかもしれません🤔
律
律
硬い床の感触の中、俺は目を覚ました。
身じろぎするとジャリ、と言う音と共に右足首の重さ、冷たい感触に気づく。
律
律
足枷はダイヤル錠で鍵が施されており
もう一端の鎖が伸びる先には壁に打ち込まれた金具に、これまたしっかりと南京錠が掛けられている。
律
状況を確認する為、辺りを見渡して見る事にした。
律
俺が居るのは恐らく、テナントが撤退した廃ビルの1フロア。
鎖の届く範囲にあるのは…
廃墟に不釣り合いなカプセルトイの 筐体(きょうたい)が十数台
そしてその横に置かれているボストンバッグ
据えられたテーブルには貯金箱らしき小物が数個、そしてタブレットが置かれていた。
ピコン、ピコン…
タブレットの液晶が、通知が来るたびに発光する。
律
行動しない事には何も始まらないので、確認してみる事にした。
…こいつが俺を拐ったのか?
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
「そこにカプセルトイの機械と貯金箱があるね?」
「そこで聡明な高橋くんなら察して頂けると思うんだけれど」
「貯金箱の中の硬貨でそれを回し続けてくれ」
「脱出の鍵は君のすぐ手の届くところに。」
「ボストンバッグに食料は準備してある」
「せいぜいそれが尽きる前に希望をその手にしてくれ」
「…これは君の幸せを見つけるゲームだ」
「因みにそのタブレットでネットに繋ごうとしても、こちらが妨害するから無駄な抵抗は止めるようにね?」
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
律
開け方を試行錯誤しているうちに
人形の首がもげてしまった。
律
律
律
律
人形をひっくり返し、中身をテーブルにぶちまける。
律
律
律
スポーツドリンクの容器であっただろう、口径の広い開け口の蓋を開く。
律
律
先ほどと同じ様に中身をテーブルに空ける。
律
律
律
律
律
ギコギコと苦戦しながら封を開ける。
律
テーブルに中身を空け、百円の山から数枚掴んで筐体の前へと進んだ。
ガチャン
ガチャン
ガチャン
律
一度に掴めるだけのカプセルをテーブルの元に運ぶ。
律
律
律
律
ハズレとして入れられたと思しき商品を空のカプセルと共に遠くに投げ捨て
次に回す分の硬貨を握りしめ筐体へと向かう。
ガチャン
ガチャン
律
律
律
もうすぐ一つの機械が空になってしまう。
律
律
律
律
律
これまでのオモチャとは違う手に持った時に伝わる重み。
それはあまりにも軽く、振ったらカサカサと音が鳴る。
律
早速テーブルに戻り、焦りながらも封を開ける。
律
律
ぱぱへ
さっかーたいかいにきてくれてありがとお
ごーるをきめたぱぱかっこよかったよ
れすとらんでたへたかれーもおいしかた
律
…そういえば、妹からという体でしたためられた手紙を
カプセルトイの商品にしたところコアな大人にウケた、というニュースを何処かで聞いた気がする。
律
律
折角ヒントを掴むことが出来ると思ったのに。
八つ当たりも兼ねて手紙をビリビリに破いて捨ててやる。
律
律
律
延々と続くレバーを回す作業に嫌気が差した為
準備されていた栄養バーを齧りながらひとまず休憩することにした。
律
味気ないバーを貪っているうちに、野暮ったい嫁の事を思い出してしまった。
…ああ、ここから出たら真っ先に美紀の元へ向かおう。
性格も趣味も料理の好みも、全て嫁とは違う魅力的な美紀。
つまらない嫁と出来損ないの息子との日常より
美紀との逢瀬の方が何万倍もの価値がある。
律
律
律
律
栄養バーを水で流し込み、すっくと立ち上がり再び硬貨の山に向かおうとした。
ピロン。
タブレットが通知を受け取り、着信音が響く。
律
折角湧いたやる気を削ぐ真似をしやがって。
誰が得体の知れないやつのアドバイスなぞ聞くものか。
律
律
ガチャン
ガチャン
ガチャン
律
律
フロアには俺が投げ捨てたカプセルやおもちゃが散在し
テーブル上の百円玉も残り少なくなってきた。
たまに出てくる意味深な紙も
全部幼子が書いた体のダミー。
律
律
血眼になってレバーを回し続ける。
ガチャン
…チャリ
律
レバーが回る音がした後、カプセルが落ちると同時に
僅かながら金属音がしたのを俺は聞き逃さなかった。
律
焦りが俺の指をもたつかせる。
カプセルに入っていた物は…
小さな鍵だった。
律
律
鍵を掴み、壁に走り寄る。
もたつく指で南京錠の鍵を回す。
カチャン
律
律
律
足首に残る鎖を手繰り寄せて小脇に抱え、俺はフロアの入り口へと向かった。
律
律
律
こんな長い鎖、いつまでも抱えていられない。
腕から溢れた鎖を床でジャラジャラ鳴らしながら、廃ビルを当てもなく走り回る。
律
全身黒ずくめで、チャットのアイコンと同じ蛍光色の仮面を付けた怪しい男。
律
律
律
律
律
律
律
そう仮面の男が告げたと思ったら…
…うわああああっ!!!
後ろから、普段から嫌と言うほどよく聞く叫び声が聞こえて
頭に衝撃が走り、視界は暗く染まった。
あんなにも私と圭介を虚仮(こけ)にして
出張、とかこつけて何度も浮気を繰り返していた律が
今は頭から血を流して廃ビルの床に倒れ込んでいる。
私の手に握られているのは血塗られたバット。
そう仮面の男に促され、律を閉じ込めていたフロアに二人で移動した。
律を縛り上げて密室に閉じ込めた後、フロアの掃除に取り掛かった。
恭子
恭子
恭子
圭介の作った貯金箱、書いた手紙の残骸を拾い上げ、 他のゴミとは別の袋に詰めながらつい口から想いが溢れる。
恭子
言葉とは裏腹に、男が反省している様子は無い。
恭子
恭子
仮面の男は大層愉快そうに笑う。
恭子
恭子
恭子
ズケズケと無神経な物言いを続ける男に流石に我慢が出来なくなった。
恭子
恭子
圭介
圭介
圭介
圭介
恭子
恭子
恭子
恭子
恭子
己の護るべきものを捨て、快楽に走った愚かな男。
その男を信じ、藁より細い希望に縋り 犯罪者を頼った哀しい女。
…ああ、なんで人間というのは愉快な物なのだろう。
まだまだプレーヤーもゲストも、ゲームを通して私を楽しませてくれそうだ。
#TELLER文芸部作品
テーマ:「希望」
追加お題 チャットアプリでのやり取りの描写を入れる事