テラーノベル
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当たり前って、ずっと続くんだと思ってた。
いつも通りの、日常。
家族と話すこの時間とか、平日は学校に通うこととか。
ずっと変わんなかったし、 これからも変わんないんだと思ってた。
テレビのニュースで見たような出来事が、 自分の身にも起こるなんて、思いもしなかった。
「ずっと、このままでいられるよね」 「ずっと、となりにいてくれるよね」
そんなふうに、バカみたいに信じてた――
あの『最悪の事故』は、何気ない会話から始まった。
あれは、お母さんとお父さんと、 結構遠いおばあちゃんの家に、里帰りをした時の帰り道。
えと
久しぶりにおばあちゃんにあえて楽しかったし、嬉しかった。
あの日も、つい癖でお土産の袋をくるくる回してたんだっけ…
えとのお母さん
お母さんが、ちょっといたずらっぽく笑った。
えと
えとのお父さん
お父さんも苦笑しながら会話に加わって、 三人の笑い声がふわっと咲いた。
…そんなふうに、くだらない思い出で笑える時間が、 当たり前のようにそこにあった。
でも、そういえば――
あの日の風は、いつもより音が大きく感じたんだっけ。
逆に、お母さんとお父さんの声とか、 おばあちゃんのお茶をすする音は―― ちょっとだけ、遠くに聞こえたんだよね。
今思えば、あれは『最悪の事故』に対しての、 体の小さな知らせだったのかもしれない。
でも、私はそんな知らせに気づかないまま―― その一歩を、踏み出したんだ。
キィィィィィィィ――!!
鳴り響くブレーキの音。 まぶしいライト。 誰かの鋭い叫び声。
次の瞬間、強く、背中を押された。
後ろから倒れこむように道路に崩れて、 見上げた空が暗くて遠かった。
――あの手。
お母さんの、優しくて、あったかい手。
私を守るように、背中にそっと当てられた。 たったそれだけで、世界が――ひっくり返った。
音が、全部消えた。
風が頬を撫でて、私の肌を震えさせたのに。 寒いとは思えなかった。
えと
目の前にあった、車のライト――……
混乱しながらも、そっと倒れた上半身を起こす。
そこには――
目の前にあった、黒い車。 でも、その車の前の方は、なにかに衝突したみたいに、 ぐにゃりと歪んでいた。
お土産の袋が、風に吹かれて転がる。
ぽとりとどら焼きがこぼれて、 アスファルトの上で跳ねた。
さっきまで、私の中にあった『なにか』が、 失われていくような気がした。
倒れたまま、動かないお母さんとお父さん。
まるで時間ごと止まったように。
そのまわりに――ゆっくり、ゆっくり… 真っ赤なものが、広がっていく。
えと
震えた声が、自分の口からこぼれた。
でも、小さすぎて誰にも届かなかった。
バタバタと、誰かが駆け寄る音。 砂利をけるような足音が響いて、目の前で止まった。
??
一人の女の子が現れて、 座り込んだままの私に視線を合わせてくれる。
えと
私の視界は全部がぼんやりしていて、 顔がよく見えないけど、それだけは、しっかりわかった。
えと
るな
質問して、答えてほしかっただけなのに――
なぜか、るなは私をぎゅっと抱きしめた。
すごくあたたかくて、私の身体がすごく冷えていたことに、 そこではじめて気づいた。
るな
るなが、さっきよりも強く私を抱きしめてくる。
その時、私の肩が、濡れていた。
えと
えと
道路なんて、冷たいし、汚れてるよ。
なんで、起き上がらないの? なんで、るなは泣いてるの?
ねぇ――――――……
コメント
1件
好き!最高です! 続き楽しみデス!