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気づいたら、おばあちゃんの家にいた。
葬式は、もう終わったらしい。
ただ…それが現実だっていう実感が、全くない。
なにかが、欠けてる。 それだけは、なんとなくわかるけど…。
視線を上げると、棚の上に写真がある。 お父さん、お母さん、私――三人で、笑ってる。
その笑顔は今も変わらずそこにあるのに、 今ここにいるのは私ひとりだけ。
いつものように、お父さんが「ただいま」って帰ってきて。 お母さんも、いつもの笑みを浮かべてくれるはずなのに。
えと
ぼーっと写真を見つめていると、
えとのおばあちゃん
おばあちゃんの優しい声が聞こえた。
えと
他の言葉が思い浮かばなくて、雑にサンダルを履くと、 ふらっとそのまま家を出た。
行くあてもなく、ただただ足を動かす。
えと
目にはいつもの川とかが見えているはずなのに、 私のぼんやりした視界には何も見えていなかった。
…どれくらい歩いたか、もう覚えてない。
えと
えと
私は、こっちの学校に転校する。
前の場所からはもう引っ越してきて、 おばあちゃんの家に住むことになった。
えと
えと
時計の針を見て飛び起きて。 遅刻ギリギリで学校に行く。
それが、私の毎朝の習慣だから。
今日はいつもの何気ない月曜日だし、頭に指示されてなくても、体が勝手に学校に向かってたってことかも。
えと
えと
へらっと笑みを浮かべてみたけど、うまく笑えなくて、 そのままな気相みたいな笑顔しかできなかった。
家にいても苦しくて、外に出ても、なんにも変わんなくて。
でも、こうやって人がいるところに行ったら、何かが変わる…そんな、運命みたいなこと、考えてたのかな。
えと
ぽそっと口に出してみても、 返ってくるのは、からっぽな空気だけ。
前までは、くだらない話で笑ったり、バカやって怒られたり。
そんな時間が、ちゃんとそこにあったのに。
今は、世界の色が、一気に抜け落ちたみたいな。 見えてるのに…心が、追いついてこれてないみたいな。
えと
えと
もしかしたら、誰かに……ほんの少しでいいから。 ほんの、一言でいいから。
「大丈夫?」って、 声をかけてもらいたかったのかもしれない。
……そんなふうに思った、その時。
??
ふと低い男の子の声が聞こえて、はっと振り向くと、
――黒いつやのある髪。 サイドに入った、鮮やかな赤いライン。
それから……まっすぐで、赤い瞳。
知らないはずなのに、目が離せなかった。
えと
思わず、逃げるように後ざすりした。
見つめたいわけじゃないのに、吸い寄せられるような赤い瞳。
……その赤。どっかで見たことある。
あの色は、ただの鮮やかな赤ない。 深くて、あったかくて… どこかさびしさまで詰まってる――
えと
震えるような、小さい声で、気づけば私は口に出していた。
二つの瞳が頭の中で重なる。
えと
ぐっ、と胸が締め付けられる。 知らないのに、知ってる気がする。
違うよ。この人は、お母さんじゃない。
ただ――瞳が似てるだけ。それだけ、なのに…!
勝手に、呼び起こされる記憶。 抑え込んでたものが、いっぺんにあふれてくる。 息が、苦しい…。
えと
必死にこらえていた熱い感情が、零れ落ちる。
……もう、無理。抑えきれない。
ぽろっ、と涙がこぼれた。
??
あわてたように、男の子が言った。
たった五文字。 でも、その五文字が、心の奥をまっすぐ突き刺した。
優しくて、何気なくて、ただの一言。
だけど――その一言が、
まるで、ずっと目を背けてた“現実”を、 容赦なく目の前に引きずってきたみたいで。
空気が、凍ったみたいに動かなくなる。
胸の奥で――何かが、崩れ落ちていく音がする。
えと
声にならないひと言と一緒に、身体が反射みたいに動いた。
靴が脱げそうになっても、止まる気にはなれなかった。 足音も、涙も、視界のにじみも全部ぐちゃぐちゃで、 でも、ただ――
逃げたかった。
この男の子から、あの言葉から、 そして……現実から。