――夜明け前。
病室の白いカーテンの隙間から、街灯の光がぼんやり差し込んでいた
機械の電子音が静かに鳴り続ける中、涼架はゆっくりとまぶたを開けた
涼架
頭が少し重い。けれど、さっきよりはずっと楽になっている
体を起こそうとした瞬間――胸の奥が ざわりと揺れた
――若井。
どこかで、彼の名前を呼ぶ声を聞いた気がして。そのままベッドを降り、スリッパの音を忍ばせながら病室のドアを開けた。
廊下に出ると、冷たい空気が肌を刺す
そして、ガラス窓の向こうに見えた
暗い雨の中、車椅子に座ったまま動かない若井の姿
ずぶ濡れで、俯いたまま、まるで雨に打たれることさえ気づいていないようだった
涼架
涼架は反射的に駆け出した
素足のまま濡れた廊下を走り、玄関を抜けて、夜の雨の中へ飛び込む
涼架
若井の前に立つと、冷たい雨が全身を叩いた
若井はゆっくり顔を上げる
その目は赤く、涙と雨でぐしゃぐしゃに濡れていた
若井
涼架
涼架は息を切らしながら、近くのベンチに置かれていたタオルを手に取ると、何も言わずに若井の肩にかけた
そして、手早く髪や顔を拭き始める
涼架
震える声で言いながら、涼架の手も冷たく震えていた
若井は何も言えなかった
ただ、涼架の小さな手が、自分の髪を優しく拭いていく感触に、胸が締めつけられた
若井
涼架
若井
若井
涼架は拭く手を止め、若井の顔を見た
若井の瞳が、子どもみたいに揺れていた
涼架
涼架は小さく首を振った
涼架
涼架
そう言って、涼架は濡れた若井の頬にそっとタオルを当てた
その手のひらが、若井の頬を包み込むように滑る
若井は小さく息を吸って、涼架の手を自分の手で包み返した
若井
ずぶ濡れの若井は、まだ車椅子に座ったまま動けずにいた
涼架がタオルで彼の髪や肩を拭いても、その瞳の奥に宿った影は消えない
涼架
そう声をかけたのに、若井は首を横に振った
若井
涼架
若井の声は、雨音にかき消されそうなほど小さかった。けれど、震えていた。
若井
若井
声が掠れて、喉が詰まる
その瞬間、若井は堪えきれなくなったように涼架の腰に腕を回した
若井
涼架
涼架の胸に顔を埋めて、若井は子どものように泣き出した
雨に混ざった涙が涼架の服を濡らす
それでも涼架は、何も言わずにその頭を抱きしめた
涼架
若井
若井
その言葉を遮るように、涼架はそっとタオルを広げて若井の頭の上にかけた
若井が雨に打たれないように、体を寄せて覆いかぶさるようにして、震える肩を抱きしめる
涼架
若井
涼架
涼架は、震える若井の頬を両手で包み込んだ
雨の冷たさとは対照的に、若井の肌は熱を帯びていて――その熱が、涼架の心に直接触れたようだった
涼架
そう囁いた瞬間、若井の瞳が潤んだまま涼架を見つめ返した
その顔があまりにも切なくて、放っておけなくて――涼架は静かに顔を近づけた
唇が触れる
ほんの少しの距離を、そっと埋めるように
雨の中、タオルの下で二人の影がひとつになった
触れた瞬間、若井の涙が涼架の頬に伝う
涼架はその涙を指でぬぐい、微笑んだ
涼架
若井
涼架
若井は小さく笑った
それでもまだ、涼架の胸にしがみついたまま離れなかった
まるで、今度こそこの温もりを絶対に離さないと誓うように
雨は少しずつ弱まり、夜の静けさが戻り始める
タオルの下で、二人の心臓の音だけが重なり合って響いていた
コメント
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やっぱ最強のコンビですね