コウタ
何なんだ?オマエら一体何モンだ?
クヌギ
えーっとぉ、まぁ通りすがりってヤツ?
トオヤ
あっクヌギがそういうなら、そうかなフフッ
トオヤ
オダマ
舐めやがって!
エリカ
(不思議な子たち…小学生くらい?小さい方の子の方が偉そうで、大きな子が従ってる…)
エリカ
(何か…子供じゃないみたいな…)
エリカ
(何だかムード?圧力がすごい2人だ…!オーラみたいな?)
エリカ
(これでアタシ助かるかも?)
コウタ
助かるわけないでしょう?
エリカ
また頭の中読まれたっ
コウタ
油断してたよ、子供が入り込んでたなんて
コウタ
どのみち、まとめて処分するからさあ、何の問題もないね
クヌギ
ねーちゃん、オイラはヨカゼ・クヌギってんだ
クヌギ
“クヌギ”でいいよ
クヌギ
こっちはガモウ・トオヤ
トオヤ
トオヤです
エリカ
あっ…アタシはエリカ…です
オダマ
テメーら悠長に自己紹介してんじゃねーよ!
オダマ
ふざけんじゃねえ!おいガキんちょ!見られたからにはわかってんなぁ?ちゃあんと覚悟してるぅぅ?ええ?
クヌギ
『もろもろの悪行は禁じられているがゆえに有害なのではなく、有害なるがゆえに禁じられている』
トオヤ
…ベンジャミン・フランクリンさん?
クヌギ
そうだ、凧を上げて雷の放電実験をした男だ──命をかけてな
トオヤ
その人が残した言葉──やっぱり『有害なものは禁じられる』んだね、クヌギ
クヌギ
だな、少女を監禁するなんて誰がどー見ても悪行だわな、フツウ
コウタ
小うるさい子供だなッ、おじさん、コイツら黙らせてよ!
オダマ
クソガキどもぉぉっ!おらぁぁぁッ
オダマ
んあれっ?
ドサッ
オダマ、転ぶ
エリカ
(何?クヌギくん、どうなったの?今見えなかったけど)
オダマ
???
クヌギ
人間ごときが触れられるかってんだよ
トオヤ
クスクス
オダマ
ふざけんなよ!
オダマ、再び飛びかかるが、ふわっと避けるクヌギ。
オダマ
わあっ?
オダマ
コウタ
…もういいよ、おじさん
コウタ
…キミたち何者なんだ?
クヌギ
「子供の姿」ってなー便利だよなあ、ほとんどの相手は油断してくれっからな
トオヤ
でも、クヌギの「本当の姿」なんて見せられないじゃない?
クヌギ
まあねー
オダマ
何だ?オイどういうことだよ…
クヌギ
アンタら人間はオイラのことを昔から「妖怪」だの「物の怪」だのって呼んでいたな
エリカ
(妖怪?…そんなものが?現実に?)
トオヤ
あ、ボクは人間だよ、ヒトでないのはクヌギだけだから
コウタ
わあああっ
オダマ
どうしたんすか!?コウタさんッ
コウタ
この2人の頭の中が…読めない
コウタ
ぐわあああっ
オダマ
コウタさん?
コウタ
はあはあ、何だ?この景色は…
頭を抱えてうずくまるコウタ
コウタ
見たことのない恐ろしい景色だ…
クヌギ
──そうさ、オイラたちはとてつもない光景を見てきた
クヌギ
人間には刻めない長い長い時間をかけてな
クヌギ
トオヤはな、オイラがはじめて出会った人間の変わり種だ
クヌギ
トオヤには物事を『活性化』させる能力があった
クヌギ
こんなヤツぁはじめてだった…!
エリカ
『活性化』?
クヌギ
周囲も自分の細胞をも、恐ろしいスピードで『活性化』させてしまう!
クヌギ
古い細胞を新しい細胞にどんどん書き換えていっちまう
エリカ
!!
クヌギ
だからコイツは老化せず、見た目もほとんど変わんない子供の姿のままなんだぜ
クヌギ
──何百年という時間な
エリカ
なっ何百年?
トオヤ
ねえ見てクヌギ!
クヌギ
あんだよ?トオヤ
トオヤ
ほらビルの隙間から青空が見えるよ?
トオヤ
さっきまで曇ってたのにねーふふ
トオヤ
きれい…
クヌギ
そうだなハイハイ
トオヤ
ボクを憶えてる人たちってさ
トオヤ
気がつくと誰もいなくなっちゃう…
トオヤ
それはとっても淋しいこと
トオヤ
でも今ボクはクヌギと旅してるから
トオヤ
全っ然、寂しくないんだ!
エリカ
こんな…夢みたいな話…
エリカ
あるの…?
クヌギ
エリカちゃんさあ、獏(バク)って生き物、知ってっか?
エリカ
それ動物園で…
クヌギ
じゃねえよ、悪夢を喰らう想像上の生きモンの方
クヌギ
ま、想像上じゃなくホントにいっけどな
トオヤ
フフッ可愛かったよね!形はクマで鼻はゾウ、目はサイ、尻尾は牛、脚は虎みたいで──
クヌギ
そんな──人間の精神にまで影響を及ぼす生き物たちを『物の怪』っていうのさ
トオヤ
クヌギは人間の『悪意』が大好物なんだよ
クヌギ
おう!『悪意』を喰らって生きるのがオイラってわけさ
クヌギ
この辺りで美味しそうな臭いがプンプンしたぜ!
クヌギ
人間社会にとって、とても害悪な精神性、凶々(まがまが)しいまでの邪悪な魂──
トオヤ
そんなエネルギーをボクたちは『まがまが』って呼んでるんだ
クヌギ
オイラたちは『まがまが』を狩るものだ!
トオヤ
ここにも『まがまが』がいるよ
エリカ
えっ?
クヌギ
アンタのことだよ、おっさん!
オダマ
オレっ!?
クヌギ
酸っぱめでしつこい、ぷーんとした『まがまが』特有の腐臭が、この街全体に漂ってたぜ
クヌギ
アンタの腐臭だ
トオヤ
ヒトは悪い考えに囚われると、やがて悪いこと『そのもの』に支配されてしまう…
クヌギ
そう、乗っ取られちまう
クヌギ
そうなるとヒトが悪意なのか、悪行がヒトそのものなのか、訳わかんねえ
クヌギ
アンタは世の中への強い恨みや復讐心を抱いていた
クヌギ
その凶々(まがまが)しきモノがあまりにも強いため、遂には『実体化』してしまったんだよ
オダマ
『実体化』…って何だよ
クヌギ
そこの怪物さ
オダマ
コウタさんが!?
エリカ
!!
コウタ
コウタ
…コイツらは何言ってるんだろうね?
コウタ
よく見ておじさん、ボクはちゃんとここにいるよ?
クヌギ
そう「ちゃんとそこにいる」
クヌギ
この世に具現化した怪物だ
オダマ
ななな何言ってんだテメェ…
クヌギ
ほら、おっさん見てみな
クヌギ、書類を放る
クヌギ
オイラたちに手を貸してくれる人がいてなあ
トオヤ
元記者さんの女の人なんだ
オダマ、恐る恐る拾い上げる
クヌギ
それは警察の書類だ、5年前のアンタの交通事故のな
トオヤ
ボクたちは腐臭に気づいてからずっとアナタを観察していた
トオヤ
そして元記者さんに頼んで調べてもらったんだ
クヌギ
アンタの交通事故のことだよ
オダマ
じ…こ…
クヌギ
そこに飲酒で自損事故を起こしたと書いてあるだろ?
オダマ
なっ違う!オレは車同士で衝突したんだ!対向車に乗ってたのがコウタさんでっ
トオヤ
オダマさん、アナタは自暴自棄になって飲酒した上、車で暴走、電柱に自分でぶつかっていったって
トオヤ
──そう自供してるんですよ?
エリカ
!!
オダマ
なっななな何言ってるかわかんねえ!違う違う!
エリカ
一体どうなってるの…?何が本当なの!?
続く…