テラーノベル
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春の終わりだった。
中学一年生になったばかりのえるは、教室の後ろの席に座りながら窓の外を見ていた。
転校してきて一週間。
クラスのみんなは優しかった。
誰かに嫌なことを言われたわけじゃない。
いじめられているわけでもない。
それなのに、えるは怖かった。
誰かが笑うたびに、
える
と思った。
グループで話している姿を見るたびに、
える
と思った。
休み時間になると、みんなは自然に友達のところへ向かう。
える
読んでいるふりをしながら、耳だけは周りの会話を聞いていた。
楽しそうな笑い声。
ふざけ合う声。
その輪の中に入りたい気持ちはあった。
でも足が動かなかった。
ある日、隣の席の子が話しかけてくれた。
Aちゃん
える
それだけ。
本当はもっと話したかった。
好きなものとか、趣味とか。
でも何を言えばいいか分からなかった。
言葉が喉につかえて出てこない。
気付けば一年が過ぎていた。
友達がいないわけじゃない。
でも「親友」と呼べる人はいなかった。
昼休みは一人。
帰り道も一人。
家に帰ると、どっと疲れが出た。
お母さんは心配そうに聞く。
お母さん
えるは笑って答える。
える
本当は普通じゃなかった。
毎日が苦しかった。
だけど心配をかけたくなかった。
だから言えなかった。
そして中学二年生になった。
クラス替え。
みんなは期待していた。
クラスメイト
そんな声が飛び交う中、えるの胸は重かった。
また知らない人たちの中に入るのか。
また最初からなのか。
新しい教室でも状況は変わらなかった。
むしろ悪くなった。
朝になるとお腹が痛くなる。
制服を見るだけで苦しくなる。
夜もなかなか眠れない。
学校へ行こうとすると涙が出そうになる。
リビングに降りると、お母さんは笑顔を作っていた。
お母さん
そう言ってくれた。
でもその笑顔は少し無理をしているように見えた。
夜。
台所から聞こえてきた声
お母さんがため息をついていた。
お父さんに話していた。
お母さん
その声を聞いてしまった。
えるの胸が痛んだ。
私のせいだ。
私が学校に行けないから。
お母さんを困らせている。
それからえるは無理をするようになった。
朝泣いても学校へ行く。
吐きそうになっても学校へ行く。
教室に入れない日は保健室へ行く。
とにかく家にいるより学校へ行かなきゃ。
そう思っていた。
ある月曜日。
えるは布団から起き上がれなかった。
お母さんが部屋に来る。
お母さん
返事ができない。
体は元気なのに動けない。
気付くと涙が出ていた。
える
そう言うのが精一杯だった。
その日、学校を休んだ。
保健室は静かだった。
カーテンが揺れて。
時計の針の音だけが聞こえる。
そこには保健の先生がいた。
優しい声で話す先生だった。
保健の先生
その言葉だけで少し安心した。
先生は無理に聞き出そうとしない。
保健の先生
そう聞いてくれるだけ。
ある日、えるはぽつりとこぼした。
える
先生は驚かなかった。
否定もしなかった。
ただ静かに聞いてくれた。
保健の先生
その一言で涙があふれた。
える
保健の先生
える
保健の先生
える
先生は首を振った。
保健の先生
えるは泣いた。
ずっと我慢していた涙だった。
誰にも言えなかった気持ちだった。
先生は最後まで聞いてくれた。
アドバイスもしない。
説教もしない。
ただ隣にいてくれた。
その日から保健室はえるにとって特別な場所になった。
教室に行けない日は保健室へ。
苦しくなったら保健室へ。
先生はいつも言った。
保健の先生
その言葉が嬉しかった。
学校で唯一、自分がいてもいいと思える場所だったから。
そして、そんなえるの存在に気付き始めている同級生が一人いた。
いつも保健室の前を通る男の子。
名前は――
コメント
1件
読んだよ……えるの「みんなが怖い」って言葉、すごく刺さった。いじめられてるわけじゃないのに苦しいって感覚、分かる人には分かるんだよね。保健室の先生の「怖いんだね」って受け止め方が優しくて、ちょっと泣きそうになった。最後に出てきた男の子、誰なんだろう。続きが気になる……!