恋を自覚した時のことを、 私は覚えている。
恥ずかしくて、 でも、 思い出すとくすぐったくなるような あの時のこと。
ナオ
(あれ……樹さんいないな)
幹事
渡辺さん、誰か探してる?
ナオ
いや……別に
幹事
ふふ
ナオ
え、なんですか?
幹事
恋してる相手がいるんだね
ナオ
え?
ナオ
別に人を探してただけですけど……
幹事
店入ってきて
最初に人探しなんてしないさ
最初に人探しなんてしないさ
幹事
ましてや会社の飲み会
幹事
まあ、自覚ないなら今日自覚したってことだね
ナオ
えー……
ナオ
そうなのかな……
幹事にそう言われて、 疑問を持ちながらも 視線を戻す。
私はやはり、樹さんを探していた。
無意識の、うちに。
樹
お、渡辺さん
ナオ
あ、どうも……
樹
顔赤いよ?
ナオ
なんでもないです!
樹
何怒ってんの?
ナオ
怒ってないです!
ナオ
お酒!私もお酒ください!
樹
はいはい……
幹事さんは余計なことを言う。
本当に困ったものだ。
だけど
ナオ
(好きだって自覚したからかな)
ナオ
(樹さんの近くにいるのが……前より楽しい)
ふと前を見る。 笑う樹さんが視界に入り、 なんだか幸せな気分になった。