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星は深い群青に沈み 星すら、沈黙したままだった

夜風さえ凪ぎ、砂漠はただ息を潜める

風紋もなく、音もなく 世界が凍りついたように、静かだった

─────でも、分かっていた この静寂は“嵐の前”の静けさだと

息を吐く度に 砂の匂いが喉に引っかかってくる

空気が重い 地面が微かに震えていた

────そして、聞こえた

ザザ……ザザザザ………

砂を這う音 それは、規則正しいものではなかった

掻き毟るように 怨念が爪を立てるように 何かが 砂中を這いずっている音だった

闇の中 赤い目が幾つも、瞬いた

ひとつ、ふたつ……いや 数え切れないほどの眼光……

 

……来たな

喉の奥が焼ける 口の中には、鉄錆の味

だが、痛みはない ─────それもそうだ

これは、長い年月 “過去”の自分が抱いた、痛みの記憶 それでも 体は確かに“それ”を覚えていた

 

……少しだけでいい
…力を、貸してくれ────

右手を、そっと胸に添えて呟く

─────その瞬間

胸の奥で 軋むように記憶が疼いた

かつての“声”が 名を呼ぶ“音”が 心臓の奥で蘇る

それに呼応するように 右手が淡く、光を放つ

それは細かく、温かく 懐かしいと感じる、光だった

その光は、俺を囲むように ふわりと、舞い上がっていく

細かく、繊細な糸のような光───

ルミナ・リコルド 記憶糸

その一本一本が 生きてきた時間の『残響』 過去に交わした 『約束』『声』『涙』『笑い』…… その全てが、今 俺の周囲に編まれていく

夜の砂漠に、眩い閃光が咲いた

音はなく、爆ぜるような“光”

それは、白でも金でもなく 懐かしさに満ちた あたたかな『想い』の色だった

足元を軸に魔法陣が現れ その糸は、次第に形を編んでいく

 

記憶糸─────展開

低く、呟いた瞬間 空気が震え、光がうねり

無数の糸が 天へと向かって伸びていく

その光に、一瞬 厄災の動きが止まった

────まるで、世界が 心臓をひとつ打つのを 忘れたかのようだった

ライフリンク・アクス 記憶:命鎖ノ戦斧

「俺が死んでも……お前は……ッ、」

そう言って 最後に俺を手を強く握って逝った 戦友の『記憶』─────… その執念と友情の鎖が斧となり 俺の右手にずしり、と現れる

振りかぶった斧が一閃 厄災の装甲を裂いた 返す刃で脚を断ち、体制を崩す ────見ていてくれ 今度こそ、断ち切るから

 

ドンッと、懐かしい気配に 背中を叩かれた気がした

ノクターン・デュアリス 記憶:夜謡ノ二律

「───…─────…ッ───」

瓦礫に潰され、炎を飲まれる中 喉が爛れても尚 誰かの無事を願いながら、助けて…と 懸命に恐怖に打ち勝とうとした 幼い、子供たちの『記憶』 その想いが、炎となって形を成し 巨大な火柱が、厄災を数体飲み込んだ ─────聞こえたよ 君たちの声も、その願いも

「ありがとう」と 楽しそうに笑う幼い子供たちの声が 聞こえた気がした

フロラリス・ヴォ-トゥム 記憶:抱華ノ結

 

とある廃村─── 焼け落ちた家の中で見つけた 1冊の本から読み取った『記憶』 それは、とある女性が 最後まで我が子の無事を願い続けた “願い”の記憶だった

その“祈り”が 優しく俺の全身を包む 厄災が放った毒針が 喉元まで迫っていたが その毒針は、喉を貫く前にバチン、と 勢い良く弾かれた 守られた 彼女の“祈り”で

「怪我しないで」と 優しく囁く女性の声が聞こえた気がした

ラストグリーム・セヴァラス 記憶:残輝ノ断

「…死に……たくない………」 「……帰ら…ないと………ッ、家族が、いるんだ……」

瀕死の重症を負いながら それでも尚 “生”にしがみつこうとした戦士の『記憶』 その執念が… 祈りにも似た願いが 鋭く細い剣となって現れた

刃は鋭く、脆い 一撃で厄災の目玉を貫くが その剣は代償のように、砕け散った 砕けた破片が宙に舞い、淡く光る

─────ふと 視界の端に、彼の姿が見えた気がした 責めるでもなく、どこか 感謝を滲ませたような……… 穏やかな顔を、していた気がした

ウィルトゥス・ウルティマ 記憶:勇絶ノ太刀

「必ず、生きて帰ろう」 「また、一緒に酒を飲もうぜ──!」

そう言いながら厄災に挑み 勇敢に散っていった戦士たちの “意志”と“鋼の魂”の『記憶』 ─────戦士たちと交わした、最後の誓い その誓いが、太刀へと姿を変えた 誓いを刻んだ太刀が唸りを上げ その刃が厄災の装甲を断ち割る

 

「やってやろうぜ!」 肩を叩き合った彼らの声が、耳に響く 心の奥で灯った火が、もう一度燃え上がる 俺はその声に背を預け、振りかぶった

─────刹那

斬り伏せたはずの亡骸が 地に沈むどころか、蠢いていた

ずる……ずるる………

倒れ伏した“それ”が 未だ、立つ者へ─────

喰らい付くように、絡み付く

剥がれ落ちた装甲 焦げた肉片、砕けた牙や爪……

それらが “斬られても尚、怨嗟を放つ屍”となって 厄災へと這い寄る

「ギィ……ィィ………」

 

音にならない音が響いた ─────いや、 これは……屍たちの“泣き声”だ

纏わりついた亡骸が 鎧のように融合していく 甲殻は更に厚く、鋭く 闇の結晶のように変質し───── 節々からは黒い煙が滲み出ていた

「ギィィィァアァアア"ァァッッッ!!!!!!」

─────地を揺らすほどの、咆哮 それは… もはや怒りではなく、威嚇でもない この世の全てを呪い、憎み、拒絶する─── …まるで “この世に救いなんて無い”と、 あらゆる存在に告げるような 深い絶望の声を滲ませているような “最後の悲鳴”だった

深く息を吸い、呼吸を整える 目を閉じ、左手を空に掲げ 全ての“記憶”と“想い”を紡いだ

ブランシェ・ルシーダ 記憶:想星ノ大槍

掌には いくつもの『記憶』が灯っていた 笑顔も、涙も、あの時の手のぬくもりも… 過去の全てが、今この瞬間 槍へと姿を変えた

 

─────今度こそ、守るよ…

その言葉が、夜に溶けた瞬間 はるか空の上、星々の隙間から 光が降り注いできた

一閃、また一閃…… まるで、地上を見下ろす星が 涙を流しているかのように…… でも、 それは涙じゃなく、希望だった それは怒りではなく、願いだった

無数の光槍が 夜を裂き、地上へと舞い降りる 地に触れた刹那 ぱっと、純白の光が咲いた ─────それは 彼岸花のように静かで ……美しい、命の最後のようだった

厄災たちは見入るように その光を見て、動きを止めた

まるで、許しを乞うように 苦しみを脱ぎ捨てるように

さらさらと、 砂となって崩れ落ちていく

最後の光が地に届き 最後の厄災が塵となると 世界は一転して、深い静寂に沈んだ

 

星々の名残も消え 空は静かに瞬くだけ─────

残されたのは 風の音、砂のざわめき、そして… 自分の震える、息遣いだけだった

「─────」

─────ふと 背後から、風に紛れて声がした

……振り返らない

─────でも… 確かに 懐かしい声が聞こえた気がして───

 

……あぁ、
ちゃんと、見ててくれたのか

俺は、静かに微笑んだ

そしてまた、歩き出す まだ守るべきものが、この先にあるから

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