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ねこねこにゃんこ
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#〔インターネット少年/少女〕
狸野 ゆゆせ
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事務所の打ち合わせスペースは、いつ来ても少しだけ居心地が悪い。 朝比奈ひかりは、ソファの端に浅く腰かけながら、手元の紙コップをそっと回していた。 中身はもうぬるくなったお茶で、飲む気にはあまりなれない。 向かいには、月城レイがいる。
いつものように落ち着いた顔をしていて、何を考えているのか分からない。 ……と言いたいところだったが、今日は少し違った。 昨日の切り抜き動画のせいだ。 タイトルは、まだ頭に残っている。
『【これはもう告白?】月城レイ「ひかりとだから楽しかった」』 あれ以来、事務所の空気が妙にそわそわしている気がする。 いや、気がするだけではない。たぶん、確実にそうだ。
「お、そろってるじゃん」
扉が開いて、先輩VTuberがひょこっと顔を出した。 その人はひかりとレイを見つけるなり、にやりと口元をゆるめた。
朝比奈 ひかり
ひかりが思わず身構える。
「いやあ、今日はいいもの見られそうだなって」
朝比奈 ひかり
「ひどいな」
先輩は笑いながら入ってきて、ひかりの隣の空いた席ではなく、わざわざレイの斜め前に座った。 その時点で、もう嫌な予感しかしない。
「で? 昨日の切り抜き、見た?」
朝比奈 ひかり
ひかりが小さく答えると、先輩は満足そうに頷いた。
「いやあ、話題になってるねえ」
朝比奈 ひかり
「なんで。面白いじゃん」
朝比奈 ひかり
ひかりが即答すると、レイが隣で小さく笑った。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
「悪ノリって言うな」
先輩はわざとらしく肩をすくめた。 そして、紙コップを手に取りながら、ひかりとレイを交互に見た。
「まあ、別に責めてるわけじゃないけどさ」
朝比奈 ひかり
「からかってないよ。確認してるだけ」
朝比奈 ひかり
「そりゃあ……」
先輩は、少しだけ間を置いてから、にやっと笑った。
「最近ほんと仲いいよね、ってこと」
朝比奈 ひかり
ひかりは、言葉に詰まった。 レイも、ほんの一瞬だけ黙る。 それだけで、先輩の目がますます細くなる。
「ほら、今の間」
朝比奈 ひかり
「否定が遅い」
朝比奈 ひかり
「遅いよ」
朝比奈 ひかり
ひかりが声を張ると、レイがわざとらしく咳払いをした。
月城 レイ
「ほら出た」
先輩がすかさず拾う。
朝比奈 ひかり
「“仲はいい”って、もう自覚あるじゃん」
朝比奈 ひかり
ひかりはそこで言葉を切った。 たしかに、仲はいい。 それは間違いない。 でも、こうも毎回毎回、からかわれると落ち着かない。 先輩は楽しそうにひかりを見たあと、次にレイへ視線を向けた。
「で、レイは?」
月城 レイ
「ひかりと仲いいの、否定しないんだ」
月城 レイ
「ないなら、もう認めてるってことでしょ」
月城 レイ
「でも、否定しないじゃん」
レイは、少しだけ目を伏せた。 ひかりは、その横顔を見て、なぜか心臓が小さく跳ねるのを感じる。 レイは、いつものように平然としているように見える。 けれど、ほんの少しだけ返事が遅い。 ……気のせいだろうか。 先輩は、その微妙な空気を見逃さなかった。
「ねえ、じゃあさ」
軽い口調で、次の一言を投げる。
「もし、どっちかに本当に好きな人ができたらどうするの?」
その瞬間、ひかりの指が止まった。 紙コップを持ったまま、動けない。
朝比奈 ひかり
自分でも、間の抜けた声が出たのが分かった。 先輩は真面目なのか冗談なのか分からない顔で、ひかりとレイを見比べる。
「だって、ずっと一緒にいるじゃん。コラボも多いし、配信外でも話してるし。もし相手に恋人できたら、今までみたいにはいかなくなるかもでしょ」
朝比奈 ひかり
ひかりは、すぐに答えられなかった。 今までみたいに。 その言葉が、妙に胸に引っかかる。 レイに恋人ができたら。 自分に恋人ができたら。 そんな未来、あまり真面目に考えたことはなかった。
……いや、考えたことがないわけじゃない。 むしろ、最近は何度も考えていた。 でも、こうして第三者に真正面から聞かれると、逃げ場がない。
朝比奈 ひかり
ひかりが言葉を探していると、レイが先に口を開いた。
月城 レイ
その返事は、あっさりしていた。
「へえ?」
先輩が、さらに面白そうに目を細める。
「じゃあ、自分に恋人できても、今まで通りひかりとコラボする?」
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりは思わず聞き返した。 レイがこちらを見る。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
言いかけて、ひかりは止まる。 普通に、なんだろう。 少しだけ嫌だと思ってしまったのは、自分のほうかもしれない。 レイが別の誰かと、今まで通りの距離で、普通に笑っている場面を想像したら。 胸の奥が、きゅっとする。
「……ひかりは?」
今度は先輩が、ひかりに向けて聞いてきた。
「自分に恋人できたら、レイはどうなると思う?」
朝比奈 ひかり
「うん」
朝比奈 ひかり
ひかりは言葉に詰まった。 どうなる、って。 普通に、今まで通りだと思う。 そう答えるのが正しいはずだ。
朝比奈 ひかり
言ってから、自分の声が少しだけ弱かったことに気づく。 先輩が、にやりと笑う。
「ほんとに?」
朝比奈 ひかり
「ほんとかなあ」
朝比奈 ひかり
ひかりが少しむきになって言うと、レイが横で小さく笑った。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりは、少しだけ顔を背けた。 すると先輩が、そこで追い打ちをかけるように言う。
「じゃあ、ひかり。レイに恋人ができたら、どう思うの?」
朝比奈 ひかり
一瞬、思考が止まる。 自分に恋人ができたら、ではなく。 レイに恋人ができたら。 その場合は――。 頭の中に、知らない誰かと並んで笑っているレイの姿が浮かんだ。 向こうは自然に笑っていて、少しだけ距離が近くて、当たり前みたいに隣にいる。 その人に向けるレイの声は、自分に向けるものよりやわらかくて。
朝比奈 ひかり
ひかりは、無意識に紙コップを握りしめていた。 嫌だ。 そう思ってしまった。 けれど、そんなこと口にできるわけがない。
朝比奈 ひかり
ようやく出た言葉は、それだけだった。 先輩は、そこでぴたりと動きを止めた。
「別に、って?」
朝比奈 ひかり
「へえ」
朝比奈 ひかり
自分でも分かるくらい、声が少し硬かった。 レイが、横でひかりを見た。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイは少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。
月城 レイ
ひかりは固まった。 先輩が、そこで静かに息を漏らす。
「お、今のいいねえ」
朝比奈 ひかり
ひかりは、慌てて否定した。
朝比奈 ひかり
「へえ」
朝比奈 ひかり
「じゃあ、レイに彼女ができても平気?」
朝比奈 ひかり
即答だった。 言ってから、ひかりはしまったと思った。 反応が早すぎる。 しかも、少しだけ語気が強い。 案の定、先輩が目を輝かせる。
「ほら、怪しい」
朝比奈 ひかり
「今の、ちょっと嫌そうだったよね」
朝比奈 ひかり
「嫌そうだった」
朝比奈 ひかり
ひかりはもう、何をどう返せばいいのか分からなかった。 隣を見ると、レイが肩を揺らして笑っている。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
先輩が、そんな二人を見ながら腕を組む。
「ふーん……」
その声が、やけに意味深だった。
朝比奈 ひかり
ひかりが警戒すると、先輩はひとつ頷いた。
「いやあ、面白いなって思って」
朝比奈 ひかり
「だって、否定のしかたがそろってるんだもん」
朝比奈 ひかり
「たまたま、ねえ」
先輩は、わざとらしく顎に手を当てた。
「でもさ、二人とも、相手が誰かに取られる想像したときだけ、急に静かになるよね」
朝比奈 ひかり
ひかりの胸が、どくんと鳴る。 レイも、ほんの少しだけ目を細めた。 先輩はそんな二人の反応を見て、満足そうに笑った。
「はい、今の顔。もう答えでしょ」
月城 レイ
レイが低めの声で返す。
「いや、別に?」
月城 レイ
「別に」
月城 レイ
レイは何か言い返そうとして、やめた。 代わりに、ひとつ息を吐く。 その沈黙が、なぜかひかりには気になった。 先輩は、そんな二人を見て完全に楽しんでいる。
「まあ、いいや。今日のところはこのへんで」
月城 レイ
「いや、もう充分見たから」
朝比奈 ひかり
ひかりがうなだれると、先輩は笑いながら立ち上がった。
「いやあ、でもさ」
扉の方へ向かいながら、振り返る。
「もうちょっと隠すの、頑張ったほうがいいかもね」
朝比奈 ひかり
「うん、そういうところ」
先輩はそう言って、ひらひらと手を振って出ていった。 残されたのは、ひかりとレイと、妙に重たい沈黙だけだった。
朝比奈 ひかり
ひかりは、紙コップを見つめたまま動けない。 レイも、珍しく何も言わない。 数秒。 数十秒。 やがて、ひかりが先に口を開いた。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイが少しだけ肩をすくめる。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
ひかりは、むっとしてレイを見る。 するとレイは、少しだけ目を伏せてから、ふっと笑った。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりは、むきになって言い返した。 けれど、自分でも分かっている。 完全に否定できなかった。 できなかったというより、したくなかったのかもしれない。 レイに恋人ができるのは、嫌だ。 その一言を、まだ自分で認めたくないだけで。 レイは、そんなひかりの顔を見ながら小さく笑っていた。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりがむくれると、レイはようやく少しだけ声を立てて笑った。 けれど、その笑いの奥には、先ほどよりもずっと静かな何かが混じっていた。 ひかりは、それに気づいてしまう。 レイも、たぶん同じだ。 先輩にああも言われて、平気でいられるほど、二人はもう軽くない。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
レイは、少しだけ考えるように間を置いた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりは、小さく息を吐いた。 でも、レイは続ける。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
言いかけて、ひかりは止まった。 嫌そうじゃない。 そう言い切るには、少しだけ無理がある。 先輩の言葉を聞いて、胸がざわついたのは本当だ。 レイに恋人ができたらどうしよう、なんて考えてしまったのも本当だ。
朝比奈 ひかり
小さく認めると、レイは静かに目を瞬かせた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
言ってから、ひかりは顔を真っ赤にした。 自分で言っておいて、何を今さら。 レイは、しばらく黙っていた。 そして、ゆっくりと口を開く。
月城 レイ
その一言が、やけにやさしく聞こえた。 ひかりは、思わずレイを見る。 レイは、いつも通りの顔をしていた。 でも、その目元だけが、少しだけ柔らかい。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイはそこで言葉を切った。 ひかりは、少しだけ息を止める。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
レイは、少しだけ視線を逸らした。 その仕草が、いつもより少しだけぎこちない。 ひかりは、そこで初めて気づく。 レイも、ちゃんと揺れている。 自分だけじゃない。 さっきの会話で、レイも何かを考えたのだろう。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
レイは、短く息を吐いた。
月城 レイ
ひかりの胸が、また少しだけ鳴る。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
ひかりは、答えられなかった。 平気じゃない。 でも、それをそのまま言えるほど、勇気はない。
朝比奈 ひかり
正直にそう言うと、レイが少しだけ笑った。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりは少しだけむくれた。 けれど、そのやり取りの中に、さっきまでよりほんの少しだけ、甘いものが混じっている気がした。 先輩に煽られて、言いたくないことまで言わされて。 おかげで、隠していた気持ちが少しだけ外に出た。 ほんの少しだけ。 でも、その少しが、今の二人には十分すぎるくらいだった。
月城 レイ
レイが言った。
月城 レイ
ひかりも頷く。 会議室を出ると、廊下は夕方の光で少しだけ赤く染まっていた。 二人並んで歩く。 さっきまでの空気が嘘みたいに静かだった。 でも、その静けさは、決して冷たくない。 むしろ、少しだけあたたかい。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイは、少しだけ笑った。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりは、そう返しながら、心の中で少しだけ違うことを思った。 変なこと、はしていない。 でも、変じゃないとは言い切れない。 少なくとも、前とまったく同じではいられなくなっている。 それだけは、確かだった。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
ひかりは、少しだけ言葉を探した。
朝比奈 ひかり
レイが足を止める。 ひかりも、つられて止まる。 レイは、少しだけ驚いたようにこちらを見ていた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
ひかりは、言いかけて止まる。 なんで、だろう。 ただ、なんとなく。 知りたいような、知りたくないような。 でも、知らないままでいるのが少し怖い気がした。
朝比奈 ひかり
ようやく出た声は、小さい。
朝比奈 ひかり
そこで言葉が途切れる。 レイは、ひかりを見つめたまま少しだけ黙っていた。 そして、ふっと笑う。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイは、短く頷いた。 その返事が妙にやさしくて、ひかりはまた少しだけ胸が熱くなる。 そして、気づく。 本当は、恋人ができたら教えてほしいなんて話じゃない。 ただ、自分の知らないところでレイが遠くなるのが、嫌なだけだ。
……そこまで考えて、ひかりは慌てて頭を振った。 違う、そうじゃない。 そうじゃないはずなのに。 レイは、そんなひかりを見て少しだけ目を細めた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイが笑う。 ひかりは、もう何も言い返せなかった。 だって、自分でも分かっているから。 先輩に煽られて、動揺して、つい本音が漏れた。 その本音は、まだはっきりした名前のないものだったけれど。 少なくとも、ただの同期に向ける気持ちではない。
朝比奈 ひかり
ひかりがそう言うと、レイは少しだけ肩をすくめた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりは、少しだけ笑った。 レイも、つられて笑う。 その笑い方は、さっきまでのからかい半分のものより、少しだけ静かだった。 事務所の廊下を抜けるころには、先輩の言葉も、からかわれた空気も、少しずつ遠くなっていた。
でも。 心の中に残ったざわつきだけは、まだ消えない。 隠していたつもりの気持ちが、ほんの少しだけ外に出てしまった。 そして、その気持ちは、もう一度きちんと閉じ込めるには少し大きくなりすぎている気がした。 ひかりは、隣を歩くレイをちらりと見た。 レイも、少しだけこちらを見ている。 目が合って、どちらともなく視線を逸らす。 その一瞬だけで、胸がまた少しだけ鳴った。 ――隠せないものは、もう隠せないのかもしれない。 そんなことを、二人ともまだ口にはしなかったけれど。
コメント
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わあ〜第13話、めっちゃよかったです!!😭💕 先輩の煽りが絶妙すぎて、読んでるこっちまでドキドキしちゃいました…! ひかりちゃんが「レイに恋人ができるのは嫌だ」って認めるところ、すごくリアルで胸がぎゅっとなりました。レイも「お互い嫌だったなら」って言いかけて止めるところ、もう…何その甘酸っぱい空気!2人の距離がちょっとずつ縮まってる感じがたまらないです✨ 次回が待ち遠しすぎます…!すがさん、素敵な物語ありがとうございます🌸