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ピッピッピッ…静かな病室に 響く機械音が酷く煩く感じた
悠佑
いふ
俺の彼氏はまだ、目を覚さない。
悠佑
消え入りそうな声で呼ぶ。 もう最後かもしれないって、ねえ。
いふ
悠佑
ピク、と反応したまぶたを、 薄く開かれたまぶたから見える瞳を 俺は見逃さなかった。
悠佑
いふ
か細いけれど、俺のことを 呼んでくれた。
悠佑
悠佑
ポタ、ポタと握りしめている いふの手に俺の涙がこぼれ落ちた。
悠佑
一度出た涙を、誰が止められると 言うのだろうか。 もう、溢れて溢れて止まらなかった
いふ
悠佑
いふが俺の頬に手を当てた
悠佑
いふ
彼が最後になんて言ったのか、 俺はまだ思い出せないままでいる
チュンチュンと鳴く雀の声が 寝起きの頭では煩いものとして 判断された。
悠佑
あれが夢だったらどんなに、 どんなに良かったかと毎日のように 思い耽る
悠佑
写真の中の彼に声をかけた。 毎日の大切な日課だ
悠佑
一つ背伸びをした
悠佑
今日も生きているなぁ。
悠佑
スーツに着替え終わった後で 気がついた。 あの日が近いからかもしれない。
悠佑
面倒と思う自分と戦い、結果 着替えることにした。
悠佑
全て自分が悪いのだが。
悠佑
悠佑
スーツから私服に着替え、 行くぞと気持ちを持ち上げ ドアを開けた
悠佑
ここのところ、仕事か仕事か仕事… まあ繁盛期なので仕方ないのだ。
悠佑
周りの人に迷惑をかけない程度の 鼻声で歩き回る
悠佑
花瓶の中の花はきっと丁寧に 手入れをされているのだろう。
悠佑
彼にあげた花は全て燃えた。 実際に見たわけではないけれど
悠佑
彼氏のことばっかりになってしまう また廃人のようになったら、 親に申し訳なさすぎてしねる。
悠佑
死んでしまおうか?
悠佑
広大に広がる青空。 あー、きれいだな。
悠佑
来た道のりを引き返し、 家へと向かった。
悠佑
玄関まで来たところでふと、 手が止まった。
悠佑
そっと挟まれてた、手紙のようなもの
悠佑
手紙の宛名を見てみた。 そうしたらありえない名前が、 書かれていた
悠佑
間違いなく、彼の名前、彼の字だ
悠佑
悠佑
頭の中で思い出された。 ピーーーという無慈悲な機械音。
悠佑
1番、というかそれしかない結論で 動きを止めていた俺の手を動かした
悠佑
郵便受けではなく、玄関前。 わざわざ、置きにきた、というわけか
悠佑
ひらひらと裏返したり、表を向けたり を繰り返す。 不安な心を、どうにか落ち着けさせる
悠佑
正直ものすごい怖いのだ。 恨まれてたらどうしようとかじゃない もっと別の何か。
悠佑
悠佑
覚悟を決めた。 封筒を開け、中の文字が書かれた紙を 裏返しにして机に置いた
悠佑
唇を噛み締めて、どうにか、 震える手を止めようとする。 はあ、と息を吐いた
悠佑
誤魔化すのは得意だって、 俺が1番知ってるから大丈夫と思い 今回も誤魔化しに走った
悠佑
震える手に杭を打つように 思考する頭を打つように
悠佑
自分を留められるようにして、 裏を向けた手紙に触れ、表を向けた
悠佑
先程までの誤魔化しに意味があったか わからなくなるほど、手は震えている
悠佑
から始まった、手紙。 典型的な文が最初の方に 並べられていた
悠佑
悠佑
ぐしゃり、手紙を持つ手に力が 入り、紙が歪んだ。
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
なんで俺と一生生きてくれとか そういう希望を言ってくれたら、
悠佑
君のところに飛んでいけたのに!
悠佑
喉からはもう音が出ないほどに、 俺は枯れていて、雨はやまない
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
そのまま意識は混濁していった。 どうやら、返事は貰えないようだ。
悠佑
いふ
君はにこりと微笑んだ。
悠佑
いふ
いふ
いふ
ああ、嘘だなってほどには、 瞳は揺れていなかった。
悠佑
貴方は一言悪態を吐いた
いふ
悠佑
瞳が揺れて、雫が溜まっている 貴方に、そんな顔を させたかったんじゃないのに
悠佑
いふ
君はそっと俺を抱きしめた 冷たくて、あったかい。
悠佑
寂しがりなの知ってるくせに
悠佑
いふ
一瞬だが、君の顔が酷く歪んだ でも、許してほしい
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
問いかけてみる。 いふは俺の背中に回していた手を 戻して、少し離れていった
いふ
いふ
いふ
申し訳なさそうに笑う。
悠佑
いふ
いふ
いふ
悠佑
嫁かあ…、 夫って呼んでみたかったな。
いふ
いふ
いふ
悠佑
息をするのも苦しそうな君の姿が 目に映った。
いふ
悠佑
悠佑
いふ
いふ
悠佑
タンタンと、リズムを踏んで 離れていく
いふ
いふ
悠佑
あ、思い出した。
いふ
最後になんて言ったか
いふ
悠佑
同じ顔して消えていった 彼の背はもう見えない
悠佑
悠佑
夢を見ていた気がする
悠佑
彼の夢を見ていた気がする
悠佑
だけど内容は思い出せない
悠佑
代わりに最後に言った言葉は、 鮮明に記憶に残っている
悠佑
悠佑
一生を誓うのが結婚だろう。 一生どんな時でも愛すのが誓いだろう
悠佑
口から出た言葉に思わず吹き出す
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
消費期限過ぎていないだろうか 少しなら大丈夫かななんて 考えながら、冷蔵庫に手を伸ばす
悠佑
悠佑
彼はよく、酒飲みたい!と 言っていたもんだからつい、考えた
悠佑
墓には未だに行けてない 今年は仕方ないから行ってやろうか
カシュッ
悠佑
悠佑
一本、飲み干した。 酒に弱い俺はもう酔ってるんや。
悠佑
悠佑
唐突にそんなことを思い出す 手紙のせいだろうか。
悠佑
ビール缶を一本手に持ち、 ジャージを羽織って ドアノブに手をかけた
夕日に照らされて、 風に揺られて舞っていく
悠佑
嘘吐きはどっちや
そんな声が聞こえた気がした。 酔ってるせいだろうなあ。
悠佑
悠佑
返事はない、当たり前だ
悠佑
悠佑
悠佑
ポケットに隠したビール缶を出して カシュッと音がしてあけられる
悠佑
悠佑
ふわっと春の風が吹いて、 俺の少し長い髪の毛が揺れて 桜は舞った
悠佑
悠佑
ビール缶を勢いよく飲み干した後 くらくらと回らない頭で思った
悠佑
悠佑
花弁が宙に浮いて、サンダルも宙に 飛んで、俺も桜もクルクル愉快に 舞っている。
悠佑
なんてことはない
悠佑
強く風が吹いてくるくる踊っていた 俺の足はもつれて倒れた
悠佑
満開の桜が音を立てて散っていく その様に、
悠佑
君の葬式の日を見た。
悠佑
なんてことのない、アイロニー
悠佑
そうだったんだ。
悠佑
悠佑
桜が切に、愉快に見えたのも、 そのせいか。
悠佑
悠佑
悠佑
はらはら散っていく桜のベールに 包まれて、鈍った頭で笑みを浮かべる
悠佑
桜よ、桜、春を踊ってくれよ
悠佑