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【鈴の主】 うちの主は鈴の音がする。 理由は簡単。 俺が贈った鈴を付けてるから。 うちの主はなんだか気配が薄い人で、後ろから話しかけられると心臓が口から飛び出しそうになる。 いくら気を付けても、どうしても気付くことが出来なくて毎回酷く驚いてしまうから、その対策として鈴をつけている。 チリン 「おはよ〜主」 「ん、おはよう加州」 「今日は少し遅かったね、主くん」 光忠が審神者の茶碗と味噌汁の入った器を置きながら「お寝坊さんだね」と笑った。 「昨晩短刀達とゲームしててさ……」 「通りで粟田口の短刀くん達が起き出してこない訳だ……今、一期くんが一生懸命起こしてるよ」 審神者が耳を澄ますと、隣の和室から一期一振が短刀達と格闘している声が聞こえてくる。どうにも皆寝汚く、全員起きるのはいつになる事だろう。 「そういえば加州、安定は? いつも一緒に起きてくるだろう?」 「なんかぁ、一緒に起きたのは良いんだけど、なんか探し物? があるらしくて」 「探し物?」 「うん、何かは教えてくれなかったんだけどさ。多分すぐ来ると思うよ」 ________________ 「おはよ……ございます……あるじさま」 「おはよう、五虎退。短刀の中では一番乗りだよ」 「えへへ……昨晩はたのしかったです」 「大将ー! おはよー!」 チリリン 「おっ、はよう……後藤」 続々と起き出してくる短刀達。起きてきた乱や、博多が審神者に乗っかり、チリンチリンと鈴が鳴る。 「こら、お前達。主さまの負担になるでしょう」 その音を聞きつけたのか、少しげっそりした様子の一期が弟達をたしなめた。 「おはよう、あとおつかれ、一期」 「ありがとう、ございます……おはようございます」 朝から元気な短刀達の頭を撫で、一期一振は席に着く。居間には起きたばかりの粟田口達と、縁側で日向ぼっこをしている巴形と静形だけだ。 審神者はそんな彼らを眺めながら、お茶を啜る。 「あっ! 薬研、ニンジン食べたくないからって僕のお皿に置かないで下さい」 「ちょっとだけだよ前田」 「ダメです。お返ししますね」 「あぁ〜……」 「昨晩の博多くん凄かったなぁ! 何回やっても億万長者になっちゃうんだから!」 「ふふふ、俺に金ば扱わしたら右に出る者はおらんっちゃけん」 「逆に主はよわよわだったよなぁ!どんだけマイナスマス止まるんだって感じ!」 「弱々なん言うたら可哀想ばい後藤、ぷふ、いくら事実やけんって」 「お金少ないのにギャンブルとかしちゃってね〜、あるじさんは絶対向いてないよね」 大人数居るだけあって、太刀や打刀ばっかりだった早朝とはまた違う賑やかさだ。向こうでは薬研と前田がニンジンで争っていて、また別の場所では昨晩の事で乱達が談笑している。 「いやぁ……でも本当に俺ギャンブル向かないんだなって実感したよ」 「運がない、と言いますか引きが悪い、と言いますか……絶妙に嫌なところを引いていきましたよね」 「なんでかなぁ〜」 なんやかんやあり、粟田口達が食べ終わり解散し、居間はすっかり静かになった。 気付いたら巴達はすっかりすやすや食後の昼寝をしていて、厨に居た光忠や歌仙、加州も自室に戻ったようだった。 審神者は寝ている二人の横を通り抜けて縁側を散歩する。景趣は春の庭。満開の桜が咲き乱れ、どこからか風が吹くと散ることのない花びらが足元に落ちる。暖かい陽気の下、歩くと縁側の端っこまで来た。縁側の端にある部屋は審神者の部屋になっている。 「……加州? 何してるんだ?」 審神者の部屋の真ん中で、加州はポツリと佇んでいる。明るい時間帯のはずなのに、部屋の中は妙に薄暗い。加州の顔は審神者から背けられ、表情が見えない。 「加州?」 いつもなら鈴の音がしただけで振り返るはず。いや、そもそも何故俺の部屋に? 何か用事があるなら直接来るはずだし、何か探し物が? 思考を巡らせるが、一向に答えは出ない。 「加州!」 妙な胸騒ぎを覚え、大きな声で呼びかけながら審神者は加州の肩を掴んだ。 チリリン その瞬間、景趣が切り替わる。 夏の夜。 夏の夜はこんなに静かだっただろうか。 真っ暗な部屋に蛍が一匹入り込む。 薄ぼんやり黄色い光が加州の顔を映し出した。が、それでも表情は見えない。 加州の顔にポッカリ開いた、空洞。
これは “うちの”加州じゃない
第三部隊
加州清光
博多
博多
加州清光
加州清光
歌仙兼定
薬研
加州清光
宗三左文字
後藤
後藤
宗三左文字
宗三左文字
加州清光
加州清光
歌仙兼定
薬研
宗三左文字
博多
後藤
宗三左文字
歌仙兼定
後藤
加州清光
薬研
薬研
歌仙兼定
加州清光
宗三左文字
歌仙兼定
薬研
加州清光
薬研
後藤
宗三左文字
歌仙兼定
博多
後藤
薬研
歌仙兼定
宗三左文字
歌仙兼定
第二部隊
巴形(静形)が加州清光を招待しました。
加州清光がグループに参加しました。
加州清光
へし切長谷部
鶯丸
鶯丸
膝丸
鶯丸
髭切
膝丸
加州清光
加州清光
へし切長谷部
加州清光
へし切長谷部
へし切長谷部
へし切長谷部
加州清光
膝丸
加州清光
鶯丸
へし切長谷部
髭切
加州清光
加州清光
髭切
へし切長谷部
膝丸
鶯丸
へし切長谷部
鶯丸
加州清光
加州清光
髭切
加州清光
膝丸
へし切長谷部
髭切
膝丸
加州清光
髭切
髭切
膝丸
へし切長谷部
鶯丸
加州清光
へし切長谷部
鶯丸
膝丸
加州清光
「あるじ」 加州の形をした空洞から、加州の声がする。 何かが欠けた刀剣男士。戦場で折れたか、捨てられたか、何か未練を残してしまった男士の慣れ果て。 カヒュ、と無理矢理息が通った喉からか細い音が鳴った。 逃げないと 後退りすると、加州らしきものも体を揺らした。何を考えているのか分からない。それでも、俺に対する敵意は感じないのが不気味だった。それでも、恐ろしい気配に耐えきれなくなり部屋を飛び出す。 どう考えたって加州の方が足が速いはずだ。逃げても無駄かもしれない。そんな考えが脳裏を過ぎ去っていく。暗い縁側に足をもつれさせながら居間にたどり着くと誰も居なかった。辺りは真っ暗で、明かり一つ付いていない。水を打ったように静まり返っていて、背後から床が軋む音がはっきり聞こえた。 誰もいない。 いつもならいくら広い本丸でも、誰かしらすれ違うはずだった。光忠も、巴形も、宗三も、博多も、同田貫も、誰もいない。 「なんで」 誰の部屋を回っても、どこにも居ない。彼らの気配すら、微塵も感じない。 そして一番奥の加州と安定の部屋まで辿り着く。閉められた襖に、希望を持ちながら手を掛ける。 「あるじ」 「……!」 暗闇の中ですらはっきりと分かる、黒。 ぽっかり開いた暗黒が、審神者を呼んでいる。 「ッ俺は、お前の主じゃない……‼︎」 大声を張り上げ、威嚇する様に腕を振り払うと、一瞬加州のようなものが怯んだ。まるで叱られるのを恐れる子供のように。 「……ッあるじ、あるじ、あるじ……!」 それでも加州の形をしたソレは、審神者を「あるじ」と呼ぶ。 「あるじ、あのね、おれ、……おれ、」 まるで子供のようなソレは膝から崩れ落ちる。細く白い指が審神者の着物を強く掴む。 「あるじ……あるじ、あるじ…あるじ!」 ソレは無我夢中で審神者に縋り付いた。狂気と、命の危険すら感じる様子に抵抗すると、掴まれていた鈴がブチリと千切れ落ちた。 その拍子に審神者は身動きが取れるようになる。 助かった。 奇縁だが、加州から貰ったもので加州の形をしたものから命拾いするとは思わなかった。 取り残されたのは、加州の形をしたものだけ。加州の部屋の前に座り込んだままボーっと千切れて床に落ちた鈴の方に顔を向けていた。 鈴に込められた、主に向けられた優しい思い。 本当は、自分も同じ事をして、大事にしてもらいたかった。 「あるじ……やすさだ」 また穴の中から声がする。 彼は顔をどこに置いてきてしまったのだろうか。 「こんなんじゃ、あわせるかおがないよ……やすさだ」
安定
加州清光
安定
加州清光
加州清光
安定
加州清光
安定
加州清光
加州清光
加州清光
安定
安定
加州清光
「それで?」 加州が部屋に着くと、真ん中で安定が正座をして待っていた。居心地が悪そうに、安定は加州を見上げる。 「多分……俺がこないだの遠征で、鍔持って帰って来ちゃったからかもしんない」 「鍔ァ? 誰の」 「加州の………………」 「……詳しく聞かせて」 *** 遠征先で、安定は偶然ボロボロになっている加州らしきものを見つけた。それはあまりにも酷い有様で、何より残酷だったのは、そんな状態でも加州にはまだ息があったのだ。 「こりゃあもう助かんねえな」 横から顔を出した和泉守は言い切った。確かに、誰がどう見たって助からない。本丸に戻っている間にきっと完全に折れてしまうだろう。何より、うちの本丸に連れ帰ったところで二振り目として育成されることは無い。 「諦めるしかねえな、戦場に行きゃあこんな奴ゴロゴロ居る。そいつら全員にこうして心痛めんのか?」 冷たく感じるが、和泉守が言ってる事は全て正しかった。反論する余地もない。 それでも 「……だからって、こんな酷い状況で捨て置かれるなんて、あんまりじゃないか」 「……まあな」 少し、不意をつかれた和泉守は目をパチクリさせた。また口を開くが、当人の前で言う事じゃないと判断したのか口をつぐみ、「好きにしたらいいんじゃねえの」と二人から距離を置いた。 そよ風にかき消されるほどか細く、加州は息をしている。安定はそんな彼の手を握る。 「……やす、さだ……?」 「うん、そうだよ」 答えると、もう何も見えてないであろう加州の目に安定が映る。加州は安心したように柔らかく微笑んだ後、くしゃりと顔を歪ませた。 「おれ、なにもできてない、おれ、おれは」 「加州」 「おれ、ほんとはおまえに、かおむけできないよ、なにも……なんにも」 「加州、大丈夫……大丈夫だよ」 「ああ、……あるじ、あるじに、あいたい……いちどだけ、いちどでいいから……ほめて、もらいたいよ」 安定は唇を強く噛み締める。喉から漏れ出しかける嗚咽を必死に噛み殺す。 なんて声をかけたら良い? どうしたらいい。この刹那、嗚呼やっぱり諦めとけば良かった、なんて自分勝手な考えが浮かんでしまう自分が嫌になる。 「加州……」 やっと言葉を紡いだころには、もう加州は動かなくなっていた。言葉にできない虚無感。自分がどれだけ無力だったのか、無念と哀しみを抱えた加州に、なんて言葉をかけてやるべきだったのか。答えは出ない。 「安定〜! そろそろ行くぞ」 「わ、……分かった」 答えは整理しきれなかった。和泉守に呼ばれ、安定は加州のパーツを一つ懐に仕舞い込んだのだ。 ** 馬鹿だなぁ、と加州は大きく溜め息を吐く。でも、もし自分も同じ状況に置かれたらきっと同じ事をするだろう。そして同じ過ちをするだろう。 「……で、朝起きたらあの鍔が無くなってて……さ」 尻すぼみになる安定の声。怒ってる……よね? と安定は加州の顔色を伺った。 「怒ってる怒ってない、って言う話はまた後で。あとでぜ〜んぶ主に報告して、処分は主が決めるから!」 「ですよねぇ〜……」 「ほんと…………今、髭切達で主探してるから、お前も手伝ってよ」 「もちろん!」
第二部隊
加州清光
へし切長谷部
膝丸
鶯丸
加州清光
へし切長谷部
加州清光
鶯丸
加州清光
鶯丸
加州清光
膝丸
鶯丸
へし切長谷部
へし切長谷部
髭切
髭切
巴形(静形)
巴形(静形)
加州清光
加州清光
へし切長谷部
膝丸
髭切
巴形(静形)
鶯丸
へし切長谷部
加州清光
膝丸
膝丸
髭切
巴形(静形)
鶯丸
加州清光
加州清光
加州清光
髭切
髭切
鶯丸
加州清光
加州清光
巴形(静形)
巴形(静形)
加州清光
加州清光
へし切長谷部
加州清光
膝丸
鶯丸
へし切長谷部
巴形(静形)
鶯丸
膝丸
髭切
巴形(静形)
巴形(静形)
鶯丸
加州清光
加州清光
鶯丸
鶯丸
髭切
へし切長谷部
巴形(静形)
髭切
髭切と膝丸は居間の真ん中に立っている。 加州と安定は審神者の部屋の前に立っている。 巴形と静形は庭に、長谷部と鶯丸は玄関の前に。 チリン、チリン、チリン どこにいても、鈴の音がする。 主。俺達の、主のところへ。 「うーん……移動した感は無いね」 「やっぱり無理があったんだと思うぞ、兄者」 「僕的にはイケると思ったんだけどなあ」 「やっぱり玄関は冷えるな……」 「主はご無事だろうか」 「俺の心配はないのか?」 「気合いが足りんからだ」 「ふむ、やっぱり念じるだけでは足りないのだろうか」 「……不甲斐ない、な……」 「まあそう気を落とすな、静形。俺たちに出来る事をしよう」 「俺達に出来ること?」 「ああ……例えば」 ______ 「……加州? いる?」 「ん、居るよ……」 「本丸って、こんな……暗かったっけ?」 「多分、来れたのかな」 チリン 鮮明に聞こえる鈴の音。安堵感と同時に未知の場所に迷い込んだ恐怖に二人は身を寄せ合った。 「コレなら刀持って来れば良かったぁ」 そんな事を駄弁る加州とは対照的に安定は身を縮こませている。 「……怖いの?」 「怖いのは本当、でも本丸が怖いんじゃない、主が今どんな目に遭ってるか確認するのが怖いんだ」 加州の服を掴む安定の手は微かに震えていた。普段なら「シワになる」と安定を跳ね除ける加州も、同じ心境なのか何も言わなかった。 チリン、チリン ずっと鈴の音がする。 それはずっと同じ場所で鳴っているようだ。何があるのか、嫌な予感ばかり思い浮かぶ。 無惨な姿の主なんか見たくない。 二人が恐る恐るその音に近付いていくと長い廊下の真ん中で誰かが歩いている。 「……っ主!」 「くぁwせrfgふkじ」 飛び上がりバッと振り返ったのは、二人がよく知る主だ。思わず安定が審神者に飛びつくと、よろめきながらも審神者は安定を受け止めた。 「ふ、二人とも、きてくれた、……んだね……」 ドッドッドッとまるでエンジンが掛かったような心音を感じながら審神者は二人を見た。 ちゃんと顔がある。暗くてよく見えないが、でもちゃんと、二人には表情がある。思わず抱きつく安定の頬を撫でると涙声で安定が言う。 「ごめん主、こんな事になったのは俺のせいなんだ、ごめん、ごめん」 「はは……いいよ、こうして迎えに来てくれたし……後で詳しく話は聞くけどな」 「主はなんともなかったの?」 「ああ……なんか加州っぽいのに追い掛けられて、ずっと逃げてたんだ」 安定と加州は顔を見合わせ、また審神者に向き直る。 「それでずっと、廊下が途切れなくてな。どんだけ歩いてもずっと先につかなかったんだ」 ははは、と呑気に笑っているが、よく考えれば二人が来なければ審神者は永遠に此処を歩いていたのかもしれない。そんな事を思い二人は口元を引き攣らせた。 「多分、その追い掛けてきた加州、俺が遠征で見つけてきたボロボロの加州なんだよ」 「……捨てられてたのか?」 「分かんない、でも……元の審神者には良い扱いされてなかったみたい」 事情を説明する安定に、審神者は神妙な面持ちで耳を傾けていた。そんな時、ヒタ、ヒタと廊下の向こう側から何者かが来るのを、加州は一番に聞きつけた。二人の首根っこを掴み、自分の元へと引き寄せる。 「ちょっ…と二人共、後ろ」 加州が指差した所に、立っている。 黒い穴。 もう一振りの、加州。 「あ、ぁ、アるじ、あるじ」 やっぱり、加州は「あるじ」と繰り返した。 審神者に近寄ろうとするのを、二振りに阻まれ、声にならない音を漏らす。 「あぁ、ア、ぁ」 「加州、此処には加州を傷付けて、捨て置いた審神者は居ないんだよ」 安定はそんな加州に近付く。 「ごめん、俺がお前をうちに連れて帰らなきゃ、こんな思いさせなかったのに」 「や、スさ、だ?」 「加州、良いんだよ、もう主に謝らなくても、お前を怒る審神者は居ないよ」 安定は小刻みに震える加州に歩み寄ると静かに抱き止めた。ボタリボタリと穴から液体が溢れる。そんな事など気にも止めず、安定は加州を抱く腕に力を込める。そんな安定に応えるように、加州もゆっくりと安定の背中に細く骨張った手を回した。 「加州、頑張ったね、頑張ったんだよ、加州……」 「………………ありがとう、やすさだ」 安定の言葉を聞き終えると、加州は安定の腕から離れた。俯いたまま、何度も「ありがとう」と繰り返す。そうして膝をつき、掌を床について、床に前髪がつくほど深くお辞儀をした。 「やすさだ、あるじにも、めいわくかけた、ごめん、……ごめんなさい」 「……顔、上げてくれないか?」 情が湧いたのだと思う。きっとこの仏心は無に変えるのだろうと思いつつ、審神者は深々と頭を下げる加州に歩み寄り膝をついた。 恐る恐る顔を上げた加州にはぽっかりと開いた穴は無く、少し草臥れた顔をした加州清光がいた。 「お前の主じゃない俺が言う事じゃないかもしれないけど、でも……良く頑張ったよ、偉い……お疲れ様」 「あたま、なでてくれる?」 「勿論」 ぽん、と優しく頭を撫でるとくしゃりと嬉しそうに加州は笑った。 「ありがと」
「あっ、主と二人発見したったい〜!」 「こんな所で寝てたら風邪引きますよ」 「宗三に博多……」 いつの間にか加州達の部屋の前に寝転がっていた三人を、宗三と博多が覗き込んでいた。 「なん、……え?」 審神者が起き上がるとそよそよと心地の良い風が入り込んでくる。桜の花びらが舞っている。加州と安定も体を起こす。 「僕もうお腹空きました」 「後藤が景趣戻しといたばい」 「ほら皆、ご飯冷めるよ」 ひょい、と向こうの襖から歌仙が呼びかける。その手にはおたまと審神者の味噌汁碗が握られている。 「えっ、ちょっと待ってよ、今何時?」 「八時です」 加州の質問にシレッと答える宗三。困惑している三人を、博多と宗三は居間へと引きずっていく。 「おはよう、主ィ」 静形を始め、第二部隊と第三部隊が三人を出迎えた。沢山の白い飯が入った大きな木のひつを始め、なんとも豪華な朝食が並べられている。 「え、なんで? なんで?」 「静形がな、今回の件で主に何も貢献出来なかった、と嘆いていたからな。代わりに出来ることをしようと」 「とッ、巴形、それは言わない約束じゃ」 「彼が一生懸命握ったおにぎりもあるんだよ」 「か、歌仙……!」 「良いじゃないか、主に感想聞かせてもらおう」 色々あり過ぎた審神者のキャパはオーバーしかけながらも加州達と共に席についた。不恰好なおにぎりや綺麗な形のおにぎり、角ついたおにぎり、具沢山の味噌汁、少し崩れた卵焼き。小さく一口ずつ食べると、きっとそれを作ったであろう男士が審神者の反応を伺っている。 「ど、……どう、だ?」 「……美味いよ」 行儀が悪いのは分かってる。それでも審神者は席を立った。驚いた様子の静形や加州や歌仙や博多、他の多くの男士を巻き込み、抱き締める。 「……お前達は幸せ?」 「なんだい主、そんなにお腹が減ってたのかい?」 「昨日は夕飯も昼飯も食べ損ねたけんなー、そりゃあ腹減るばい」 茶化した男士も審神者の様子に少し笑って、口を揃えて「幸せだよ」と答えた。彼らを抱きしめる審神者の手には、半分に割れた鍔が強く握られていた。