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ユスラウメ

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ユスラウメ

1 - ユスラウメ

♥

5

2020年03月02日

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聖菜

たくむ、一緒に帰ろー!

拓夢

おう!

拓夢は幼稚園から一緒で 中学2年生の時から恋人になった人だ。

拓夢

せな

聖菜

ん?

拓夢

でもお前、先生に呼ばれてなかったか?

聖菜

うそ!?

拓夢

ほんと

拓夢

さっき阿部先生が放送でお前のこと呼んでたぞ

聖菜

えー!じゃあ一緒に帰れないじゃーん

拓夢

待っててやろうか?

聖菜

ううん、先帰ってて大丈夫だよ!
あの先生話すと長いから

拓夢

そっか
分かった!

聖菜

ごめんね
ありがとう!

少し機嫌を損ねながらも、 私は阿部先生の元へ向かった。

コンコン

ガラガラッ──

聖菜

失礼します

阿部先生

おぉ、聖菜か

聖菜

先生、なんの用事ですか?

阿部先生

あぁ
まぁ座れよ

そう促されるまま、 私は席に座った。

阿部先生

お前、勉強頑張ってるか?

聖菜

はい、頑張ってますよ

阿部先生

それならいいんだ。

聖菜

聖菜

あの……

阿部先生

ん?なんだ?

聖菜

ご要件は……?

阿部先生

あ、あぁ!
そうだ!

阿部先生

お前、もうすぐ弓道の大会だろ!

聖菜

はい

阿部先生

お前に発破をかけようと思ってな!

聖菜

はぁ

阿部先生

これ、お守りだ

聖菜

これって、近くの神社のですか?

阿部先生

そうだ

阿部先生

俺はこれのおかげで
教師になれたようなもんだ

阿部先生

ほら

聖菜

ありがとうございます

阿部先生

頑張れよ

聖菜

はい、頑張ります!

聖菜

聖菜

それ…、だけですか?

阿部先生

あー

阿部先生

お、お菓子食べるか?

聖菜

いえ、お腹は空いてないので大丈夫です

阿部先生

そうか…

聖菜

お気持ちだけいただきます

阿部先生

お、おぉ

聖菜

あの……

阿部先生

ん?

聖菜

もう、帰っていいですか?

阿部先生

うーん、
まぁいいだろう!

阿部先生

(俺は頑張った!)

阿部先生

(あとは頑張れよ!少年!)

聖菜

なんでガッツポーズしてるんですか?

阿部先生

あぁ、いやなんでもない

聖菜

そうですか

聖菜

では、これで失礼します
さようなら

阿部先生

あぁ、さようなら

阿部先生

頑張れよ!

聖菜

はーい

私は、先生の言葉を適当にあしらって 教室を出た。

お母さんに 「今から帰ります」と連絡をして、 帰路をただゆっくりと歩いていた。

聖菜

あーあ

聖菜

先生が私を呼んだのって、これのため?

聖菜

結局、たくむと帰れなかったし

聖菜

先生、なんか変だったなぁ……

聖菜

うーん、怖い!

聖菜

聖菜

でも、先生

聖菜

お守りくれたし、ちょっと勇気出たし、
文句は言っちゃいけないね

そんなことを考えていると、 お母さんから返信が来た。

優子

もう帰ってくるの?

聖菜

うん、今終わったからね

聖菜

え、もうって?

優子

せな

優子

今は家に帰って来ないで

聖菜

え、なんで?

優子

なんでも

優子

いいから帰って来ないで

聖菜

え、なんで?

聖菜

聖菜

うーん、分かった!

聖菜

じゃあ、拓夢の家に居るね!

優子

それもダメ

聖菜

え、なんで?

聖菜

さっきからどうしたの?

聖菜

何かあったの?

優子

いいから、向かいのおばあちゃんの家に居なさい。

聖菜

何か事情があるんだよね?

聖菜

分かった

聖菜

そこに向かうよ

優子

ありがとう

優子

19時になったら帰ってきていいからね

聖菜

聖菜

分かった

また少し機嫌を損ねながらも おばぁちゃんに挨拶をして、元々お母さんが使っていた部屋に入った。

聖菜

はぁ

聖菜

なんでダメなの?

聖菜

なんか心配になるじゃん

ガタンッ──

聖菜

えっ!?なんの音?

聖菜

恵子おばぁちゃん!?

恵子おばぁちゃん

うぅ……うぅぅ………

聖菜

恵子おばぁちゃん!大丈夫!?

聖菜

しっかりして!

恵子おばぁちゃん

あぁ、聖菜ちゃん

恵子おばぁちゃん

おばぁちゃんはもう長く無いんだよ

聖菜

えっ……

恵子おばぁちゃん

おばぁちゃんはココの病気なの

おばぁちゃんはそう言って 心臓に手を当てた。

聖菜

しん…ぞう……?

恵子おばぁちゃん

そう。心臓。

恵子おばぁちゃん

最近胸の痛みが強くてねぇ

恵子おばぁちゃん

もうそろそろかなぁって

聖菜

やめてよ!恵子おばぁちゃん!

聖菜

(恵子おばぁちゃんには小さい頃からよく遊んでもらっていた)

聖菜

(そんなおばぁちゃんが死んじゃうなんて、絶対に嫌だ)

おばぁちゃんはそっと私の手を握った。

恵子おばぁちゃん

聖菜、よくお聞き

恵子おばぁちゃん

おばぁちゃんはね、おじいちゃんと嫌々結婚したのよ?

おばぁちゃんは突然おじいちゃんとの 結婚話を始めた。

聖菜

そうなの?

恵子おばぁちゃん

えぇ、おじいちゃんの押しが強くてね
折れちゃったのよ

恵子おばぁちゃん

うふふっ

聖菜

そうだったんだ

聖菜

でも、とっても嬉しそうだね?

恵子おばぁちゃん

えぇ、とっても楽しかったもの

恵子おばぁちゃん

旅行も色々な所に行って、
美味しい物もいっぱい食べて。

恵子おばぁちゃん

幸せだった

恵子おばぁちゃん

もちろん、おじいちゃんを嫌いになることもあったわよ?

聖菜

そうなの!?

聖菜

そうには見えなかったけど……

聖菜

ずっと仲良しなイメージだったよ

恵子おばぁちゃん

そんなことないわよ

恵子おばぁちゃん

おじいちゃんとはしょっちゅう言い合いよ

聖菜

えぇー……

恵子おばぁちゃん

おじいちゃん、

恵子おばぁちゃん

ギャンブラーだから

聖菜

聖菜

あんまり喋ったことないから知らなかった

恵子おばぁちゃん

そうよね

恵子おばぁちゃん

あの人は平生無口だもの

恵子おばぁちゃん

でも、聖菜ちゃんが6才の時に
心臓の癌でぽっきり逝っちゃった

恵子おばぁちゃん

私を置いてね

恵子おばぁちゃん

でも、借金は残さなかった

恵子おばぁちゃん

私はあの人のそういうところが好き

聖菜

そういうところ?

恵子おばぁちゃん

自分のことは自分で対処する

恵子おばぁちゃん

誰にも任せないところ

恵子おばぁちゃん

ただの頑固だってよく言われるんだけど

恵子おばぁちゃん

案外難しいのよ?
自分を貫き通すのって

聖菜

ふぅん?

恵子おばぁちゃん

相手の欠点だけを見るんじゃなくて、
尊敬できる所もきちんと見てあげるのが
大事なのよね

聖菜

へぇー?

恵子おばぁちゃん

まぁ、後々分かるわよ

恵子おばぁちゃん

なにが一番大事かは
自分で答えを見つけなさい

恵子おばぁちゃん

きっと聖菜ちゃんにもいい人が出来て、
幸せになるんだろうね

恵子おばぁちゃん

おばぁちゃんはもう長くないから
上から見守ってるよ

聖菜

恵子おばぁちゃん……

恵子おばぁちゃん

そんな顔しないの

そう言って私の顔を両手で優しく叩くと、 何かを思い出したかのように 今度は手を叩いた。

恵子おばぁちゃん

あ、そうだ
一つだけお願いがあるんだけど…

聖菜

うん?

恵子おばぁちゃん

新しい家に一本の山桜桃梅を植えて

恵子おばぁちゃん

場所は、そうね……

恵子おばぁちゃん

東の日が射す方向がいいわ

恵子おばぁちゃん

ポストの反対側ね

聖菜

え?

恵子おばぁちゃん

植える時間は、16:30くらいがいいわ

恵子おばぁちゃん

ちょうど涼しくなる時間かしら

聖菜

え?ちょっとまって

聖菜

新しいお家?
ゆすらうめ?

聖菜

どういうこと?

恵子おばぁちゃん

うふふっ

恵子おばぁちゃん

そのうちわかるわよ

恵子おばぁちゃん

約束、してくれる?

聖菜

聖菜

わかった。

聖菜

約束するよ

恵子おばぁちゃん

うふふ、ありがとう

その時、お母さんから連絡が来た。

優子

もう来ていいわよ

聖菜

分かった

聖菜

ねぇ、何があったのか教えてよ

優子

来たら分かるわよ

聖菜

ちゃんと説明してよね

優子

分かったわ

優子

あ、おばぁちゃんも連れてきてね

聖菜

え、うん
分かった

聖菜

恵子おばぁちゃん、大丈夫?

恵子おばぁちゃん

あぁ、大丈夫だよ
ありがとう

恵子おばぁちゃん

聖菜ちゃんは優しいねぇ

聖菜

そんなことないよー

恵子おばぁちゃん

これだったら
お嫁に行っても大丈夫そうだわ

聖菜

あはは、なにそれー

そう言いながら玄関のドアを開けると、 家の中は暗闇に包まれていた。

聖菜

えっ、なんで?

聖菜

家に誰も……居ないの?

そう言いながら恐る恐る リビングのドアを開けた。

すると、開けたのとほぼ同時に パァンッ という大きな音が部屋に鳴り響いた。

聖菜

きゃっ!

聖菜

なに!?

聖菜

なんの音!?

すると突然部屋の照明がついて、 音の正体がようやく分かった。

優子

聖菜、お誕生日おめでとう!

おめでとう

らん太

ワンワンッ

拓夢

おめでとう!

聖菜

えぇー!

鳴り響いたそれは、クラッカーだった。 それを見て、今まで自分が全く考えていなかったことが頭を過(よ)ぎった。

聖菜

そういえば、今日誕生日だった!

優子

もう、ほんとに鈍いわね

ほら、誕生日プレゼントだ

聖菜

ありがとう!

そう言って渡されたのは ペア旅行チケットだった。

聖菜

お父さん、なんで旅行のチケット?

あぁ、それはな

聖菜

てか、なんで拓夢が居るのよ!

拓夢

うん

拓夢

実はね……

そう言って拓夢は私の目の前にしゃがみこんでポケットを物色し、やがて私の目の前に小さな箱を差し出した。

聖菜

えっ…?

拓夢

僕と結婚してくださいっ!!

聖菜

えっ、ええーー!!

聖菜

だって、まだ高校生だよ!

拓夢

うん、そうなんだけどね……

優子

私が拓夢くんにお願いしたの

聖菜

えっ、なんで?

優子

おばぁちゃんは……、
もうすぐなのよ

聖菜

うん
恵子おばぁちゃんが言ってた

優子

おばぁちゃんは前に、あなたの結婚する相手を見たいって言ってたの

優子

その人を見てからじゃないと安心してあの世に行けないって

聖菜

恵子おばぁちゃん、そうだったの?

恵子おばぁちゃん

うふふっ

優子

だから安心して送り出す為に拓夢くんにお願いして、プロポーズしてもらったの

聖菜

じゃあ、無理やり……?

拓夢

そ、そんなことない!

拓夢

俺は、お前が心の底から好きだ

拓夢

どんなことがあっても、絶対に守り抜いてみせる

拓夢

誓おう

聖菜

そ、そんなこと
いきなり言われても……

おぉ、いいな!
頑張れ!拓夢くん!

拓夢

はいっ!

聖菜

いや、お父さんっ!

優子

ふふっ

恵子おばぁちゃん

うふふっ

聖菜

お母さんに、恵子おばぁちゃんまで!

拓夢

どう……かな?

聖菜

うーーーーん

拓夢

(ゴクッ__ )

聖菜

でも、拓夢は浮気症だからなぁー

そう言って、 両親と恵子おばぁちゃんを流し目で見た。

えっ!?
そうなのか拓夢!

そうなったらお父さん、
絶対許さないぞ!

拓夢

そ、そんなことしないって!

拓夢

やめてくれよ!

聖菜

うふふっ、冗談よ!

拓夢

し、心臓に悪い……

聖菜

プロポーズのことだけどさ

拓夢

……うん

聖菜

いいよ

聖菜

その代わり、一生大事にしてよね

拓夢

うん!

拓夢

いや

拓夢

はいっ!

拓夢

一生大事に、大切にします!

拓夢

誓います!

聖菜

たくむ

拓夢

ん?

聖菜

だいすきっ!

そうして、私たちは誓いのキスをした。

親の前で恥ずかしかったが、そんなことよりも幸せが心の中に渦巻いていたので、 そんなに気になることは無かった。

おぉ、いいねぇー

俺らもキスする?

優子

ちょっと、お父さん!

いってぇっ!

なにも、叩くことないだろ!

優子

誠さんが急に変なことを言うからよ……

ははっ
優子ちゃん、かっわいー

優子

なによ

優子

ちょっと、子供たちの前はやめて!

じゃああとで、な?

優子

もうっ……

恵子おばぁちゃん

うふふっ

聖菜

聖菜

そういえば、阿部先生がこれくれたんだー

拓夢

お守り?

拓夢

あぁ、近くの神社のか

聖菜

そうそう!

聖菜

弓道の大会、
頑張れよってさ!

拓夢

へぇ

拓夢

あの先生、平生雄弁なのに
そういう時だけ役に立たないよな

聖菜

えっ?

拓夢

実はあれ、俺が阿部先生に
聖菜を引き止めるようにお願いしたんだよ

聖菜

えっ!?
そうなの!?

拓夢

なんか、変なこと言ってなかったか?

聖菜

変なこと……?

聖菜

変すぎて、逆に変じゃなかった

拓夢

なにそれ

拓夢

ははっ

聖菜

あははっ
おっかしーい

阿部先生

そんなこと言うなよ!

拓夢

ってきっと言ってると思うぜ?

聖菜

なにそれ、阿部先生のまね?

聖菜

めっちゃ似てる

拓夢

だろ?

優子

全て分かったでしょ?

聖菜

うん!

聖菜

なにも、心配すること無かったね!

優子

うん、ごめんね
こんな形で

聖菜

ううん

聖菜

お母さんがサプライズ好きなのは知ってるから、そして嫌いじゃないし!いいと思う!

優子

うふふっ、ありがとう

優子

じゃあ、ほらほら
誕生日ケーキ食べましょ!

聖菜

うん!

それから再び誕生日会がスタートして、 色々なことを話した。

聖菜

とーっても楽しい!

聖菜

とーーっても幸せ!

それから2日後の16:30に 恵子おばぁちゃんが亡くなった。

その5年後に結婚式を挙げて、 お父さんから貰ったペア旅行チケットで ハワイにも行って、その後に家を買った。

不思議なことに、おばぁちゃんが言っていた物の配置が全て一緒の家だった。

無いのは、山桜桃梅だけ。

恵子おばぁちゃんとの約束を守る為に、ポストの反対側の東の日が射す所へ16:30に山桜桃梅を植えた。

聖菜

これでよしっと

拓夢

ん?なんだこれ?

聖菜

“ユスラウメ”よ

拓夢

ユスラウメ?

拓夢

なんでここに?

聖菜

なんでも

聖菜

恵子おばぁちゃんとの約束だもの!

聖菜

うふふっ

拓夢

ふぅーん?

拓夢

あ、もうそろそろ洗濯物取り込もうか

聖菜

うん!

もう一つ恵子おばぁちゃんに 頼まれていたものを置きながら、 山桜桃梅に向かって呟いた。

聖菜

恵子おばぁちゃん、お元気ですか?

こうして、私たちは 今も仲良く暮らしています。

時々大喧嘩もするけれど それでも前へ進めるのは、恵子おばぁちゃんの助言おかげなのかもしれないですね。

聖菜

おばぁちゃんの言ってた

聖菜

“一番大事なこと”

聖菜

今なら、わかる気がするよ

聖菜

そのおかげで私、とっても幸せ!

聖菜

恵子おばぁちゃん

聖菜

ありがとう!

そう言って、少し冷たくなってしまった 洗濯物を取り込み始めた。

恵子おばぁちゃんに頼まれて木に置いた ”腕時計”は長針と短針が16:30を指し、 秒針だけがグルグル回り続けているのを 知るのは、もう少し後の方だった──

恵子おばぁちゃん

うふふっ

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