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LINE１２５２

第1話 - あ

2023年10月20日

#スカッと

タナカトシキ

ユキエ

お母さんが血まみれになって家に来たんだけど！

ユキエ

一体どうしたっていうのよ、ナオキ！

ナオキ

は？知らねぇよ

ユキエ

知らねぇよじゃないでしょ！

ユキエ

あんた、お母さんと一緒に住んでたんだから、何か知ってるでしょ！

ユキエ

それなのにその態度は何！？

ナオキ

母さんなら、今俺と一緒に夕飯食べてるけど

ユキエ

へ？

ナオキ

いや～ｗｗ母さんのメシは本当に最高だなぁｗ

ユキエ

ちょっと何言ってるの

ユキエ

確かに、お母さんは私と一緒にいるの！血まみれになって、助けを求めてきたのよ！

ナオキ

だから知らねぇっつってんだろ

ナオキ

そんな女、母親じゃねぇし

ナオキ

姉貴もほっとけよ、そんな女

ユキエ

ほっとけるわけないでしょ！今病院に運んだわ。ちゃんと説明しなさいよ！！

ナオキ

うるせぇな

ナオキ

これ以上大切な母さんとの団欒を、そんな女の話で邪魔されたくないんで、

ナオキ

もうミュートしまーす

ユキエ

ちょっと！！

～翌日～

ユキエ

お母さん、容体は落ち着いた？

ミキコ

えぇ。ユキエが病院に運んでくれたのね。ありがとう。本当にありがとう

ユキエ

ごめんね、もっと付いていてあげたかったんだけど…

ミキコ

妊婦なんだから仕方ないわ。こっちこそごめんなさいね。迷惑かけて

ユキエ

迷惑だなんてそんな…ねぇ、一体何があったの？

ユキエ

ナオキに聞いたら、母さんは一緒にいるって…もう何が何だか

ミキコ

その『母さん』は、ナオキの実の母親のことね

ユキエ

えっ！ナオキの実の母親！？

ユキエ

そういえば、ナオキって私が七歳くらいの時に突然『弟よ』って

ユキエ

お父さんとお母さんが連れてきてたから、私とタカシお兄ちゃんの実の弟じゃないよね？

ミキコ

いいえ、ナオキはあなた達の実の弟よ。腹違いだけど…

ユキエ

腹違い、ってつまり…

ミキコ

ごめんね。タカシはともかく、幼かったあなたに聞かせることじゃないと思って

ミキコ

黙っていたんだけど、実はナオキは、お父さんが不倫して余所の女に産ませた子なの

ユキエ

嘘…！

ミキコ

信じられないだろうけど、タカシなら全て知ってるから、事実確認してもいいわ

ミキコ

不倫相手は、慰謝料も払わずに生まれたばかりのナオキを捨てて、

ミキコ

すぐに姿を晦ませた

ミキコ

お父さんは土下座で謝ってきて、その子を育ててほしいと頼んできた

ミキコ

私もあなた達のことを考えて、離婚しないでナオキを育てることにしたの

ユキエ

信じられない…お母さん、私達三人を分け隔てなく育ててくれたじゃない

ユキエ

ナオキのことだって、あんなに可愛がってたよね

ユキエ

そのナオキが、お父さんが不倫して作った子だったなんて…

ミキコ

そりゃあ複雑な思いはあったわよ。タカシにも随分と反発されたし

ミキコ

だけど子供に罪はないし、育てているうちに本当に可愛いと思うようになったわ

ミキコ

だけど、あなた達が家を出た後、今更ナオキを捨てたあの女がふらりと現れて、

ミキコ

ナオキに色々吹き込んだらしいのよ

ミキコ

『本当の母親は私。不倫相手だった私は、彼の奥さんに生まれたばかりのあなたを取り上げられた』

ミキコ

『会うことすら認めてもらえなくて、会ったら息子を川に投げ捨てると脅された』

ミキコ

『私とお父さんは出会う順番が遅かっただけで真剣に愛し合ってた』

ミキコ

『なのに、奥さんに嫌がらせされて引き裂かれた』ってね…

ミキコ

反抗期だったナオキは、それを真に受けてあの女に懐き、

ミキコ

私に暴言を吐いたり、酷い暴力を振るってくるようになったの

ミキコ

髪の毛を掴んで、引きずり回されたこともあったわ…

ユキエ

そんな、嘘でしょう！ナオキがそんなこと…！！

ユキエ

お父さんは何してたのよ！！

ミキコ

それが…お父さんもあの女とヨリを戻し始めて、

ミキコ

ナオキと一緒に私に暴力を振るってきたのよ。あの女も…

ユキエ

何それ！酷い、酷すぎる！許せないよ！！

ユキエ

お父さんもその女も何なの！？不倫して、お母さんにナオキを育てさせておいて…

ユキエ

どうして、そんな辛いこと話してくれなかったのよ！

ミキコ

心配かけたくなかったのよ。早くお嫁に行ったあなたと、

ミキコ

仕事で重大責任を負っているタカシに…

ミキコ

でもね、聞こえちゃったのよ。お父さんとあの女の話し声が

ミキコ

私に多額の生命保険金をかけて、事故に見せかけて殺そう、って…

ユキエ

そんな…！

ミキコ

それで、命からがら逃げだして、

ミキコ

あなたに会いに来たのよ。ごめんなさいね…

ユキエ

お母さんが謝ることじゃない！！

ユキエ

あいつら、絶対に許せない！行って、ぶん殴ってやらないと気が済まないわ！

ミキコ

やめて！今、妊娠中なんでしょう

ミキコ

大事な体なんでしょう

ミキコ

あいつらに女の力ではかないっこないわ。私より、もっとひどい目に遭うかもしれない

ミキコ

取り返しのつかないことになったらどうするの。あなたが危険な目に遭うことはないわ

ユキエ

わかった…だけど、あいつらをあのままにはしておけない

ユキエ

だから、このことタカシお兄ちゃんにも共有するよ。というか、さっきした

ユキエ

お兄ちゃんもカンカンに怒ってて、体格のいい同僚や部下を何人か連れて行くって言ってた

ユキエ

お兄ちゃんなら現場仕事で凄く鍛えてるから、きっと大丈夫だよ

ミキコ

そう…ありがとう。あなたもタカシも…

ミキコ

私が産んだ子達は、本当に優しいわね…

ユキエ

お母さんは何も心配しないで、治療に専念してて

～数時間後～

ナオキ

おい、何しやがんだよクソ兄貴！！

ナオキ

父さんと母さんを集団で殴りやがって！！

ナオキ

しかもなんで二人が警察に捕まるんだよ！

タカシ

黙れ！！あの程度、お前らが俺らの母さんにしたことに比べりゃまだまだ生ぬるい

タカシ

しかもあの二人は、保険金目当てで母さんを殺そうとしてたんだぞ！

タカシ

捕まって当然だ！！

ナオキ

だ、だけど、母さんをいじめて俺を無理矢理取り上げるようなあんな女、当然の報いだ！

ユキエ

何が当然の報いよ！！

ユキエ

あんたを産んだあの女はね、自分から生まれたばかりのあんたを捨てて逃げたのよ！

ナオキ

へ？

ユキエ

しかも、お父さんは土下座でお母さんに、不倫相手に産ませたあんたを引き取るように頼んで、

ユキエ

お母さんは実の子みたいにあんたを育ててきたの

ナオキ

う、嘘だ！あの女が嘘ついてるんだ！

タカシ

本当だ。俺は当時１３だったから全てわかってたさ

タカシ

だからユキエと違って、不倫相手の子であるお前を嫌っていたよ

タカシ

だけど母さんはな、ユキエや俺と同じようにお前を可愛がってた！

タカシ

反発する俺に何度も、『この子に罪はない。この子だって被害者なんだよ』

タカシ

『自分より弱い命をいじめるような、情けない人間にはならないで』

タカシ

って言ってくれたんだ

タカシ

だから俺も、ユキエと一緒にお前を可愛がるようになったんだよ

ナオキ

そんな…

タカシ

ま、それも終わりだ

タカシ

お前は結局、あのクズどもの血を引いたクズでしかなかったってことだな

ナオキ

やめてくれよ…俺、これからどうすればいいんだ？

ナオキ

父さんも母さんも捕まって、学費も払えなくなったら、折角入った私立の高校にも…

タカシ

知るかよ。本来ならお前もあいつらと同罪なんだ

タカシ

それが16の未成年だから温情掛けられた。ありがたく思えよ

タカシ

俺はもうお前とは関わらないからな。施設にでもどこにでも行っちまえ！

ナオキ

そんな、助けてくれよ！俺まだ子供なのに！

ナオキ

そうだ、姉貴！姉貴は俺を助けてくれるよな？

ナオキ

俺を、可愛い弟って言ってくれてたもんな？

ナオキ

姉貴の旦那、稼いでるんだろ。生活に余裕あるんだろ。なら住まわせて、学費も払ってくれよ！

ナオキ

もう俺の行くところはないんだよ！！

ユキエ

やめて

ユキエ

誰が、母親を殺そうとした奴を助けるもんですか

ユキエ

私もお兄ちゃんと同じ気持ちよ。あんたを絶対に許さない。二度と関わらないで

ナオキ

俺は騙されてたんだよ！仕方なかったんだ。俺だって被害者だろ！

ユキエ

騙されてた？

ユキエ

じゃあ聞くけど、あんたが病気した時に夜通し看病してくれてたのは誰？

ユキエ

あんたのご飯を毎日作って、好き嫌いがないように育てたのは誰？

ナオキ

それは…

ユキエ

お母さんだよね！？

ユキエ

そのお母さんを、産んだだけの女にちょっと何か言われたくらいで

ユキエ

あれだけの目に遭わせたあんたに、同情の余地なんかない！

ユキエ

何がまだ子供よ！あんたはもう赤ん坊じゃない

ユキエ

16の、やっていいことと悪いことがわかる歳なはずよ！！

ナオキ

俺、本当に反省してる

ナオキ

血の繋がりがなくたって、俺の母さんは、育ててくれた母さんだけだったんだと、やっとわかった

ナオキ

母さんに謝りたい。謝らせてくれ

ユキエ

やめて。二度とお母さんに近づかないで

ナオキ

母さんは無事なのか！？一度、話をさせてほしいんだ！

ユキエ

あれだけの目に遭わせておいて、今更息子面しないで！！

ユキエ

まさか、この期に及んでお母さんがまだあんたを愛してくれる、

ユキエ

助けてくれると思ってるわけ？

ナオキ

だって、母さんならきっと…

ユキエ

あんたの大切な母さんは、あんたを産んだあの女だけなんでしょ

ユキエ

あの女が出所してくるのを待てば？

ユキエ

私は二度とあんたをお母さんに近づけさせないから

ナオキ

クソッ…ふざけんな！

ナオキ

言う事聞かねぇと、腹の子もどうなるかわかってんだろうな！！

タカシ

その時には、俺はもう容赦しない

タカシ

殺すって言うなら、殺しに行く覚悟をしろよ

タカシ

ユキエに手を出したら、お前がどこにいても殺しに行くからな

ナオキ

ひっ…

ユキエ

あんた、本当につくづくクズだね

ユキエ

どこかで間違ったのか、それとも最初からそうだったのか…

ユキエ

だけどね、こんなことになっても私は、できればあんたに

ユキエ

腐らず逆恨みせず、更生してほしいと思ってる

ユキエ

それが、私があんたにかける最後の情だから

ユキエ

じゃ、さよなら

ナオキ

待てよ！本当にごめん、ごめんなさい！さっきのは本気じゃなかったんだ！

ナオキ

だから、また仲のいい兄弟に戻ってくれ！

ナオキ

兄貴も姉貴も俺を見捨てないでくれ！家族だったろ！

ユキエ

その家族を自分から捨てたのよ。あんたもお父さんも

タカシ

最後に、学校のことだが安心しろ

タカシ

学費ならこれ以上要らなくなるぞ。なぜなら、退学になるからな

ナオキ

嘘だ…

タカシ

当然だな。こんな警察沙汰を犯したんだから

～後日談～

ユキエ

その後、ナオキは施設に入り、施設の荒れた高校生達に

ユキエ

毎日鬼のようにいじめられ、ガタイのいい職員にもいびられていると聞きました

ユキエ

耐え切れず、中卒で毎日必死に働きに出るようになったのだとか

ユキエ

父と不倫相手は殺人未遂容疑で塀の向こうへ行きました

ユキエ

父は私と兄に『実の父親を刑務所に入れるのか』と喚いていましたが、

ユキエ

私達は勿論、母に恩をあだで返した、そもそもの元凶である父を

ユキエ

許すつもりはありません

ユキエ

出所後はナオキに付きまとうつもりのようですが、知ったことではないです

ユキエ

当然両親は離婚し、母は父と不倫相手から多額の慰謝料を取ることができました

ユキエ

母は幸い、予想以上の速さで回復しました

ユキエ

今では母は私と同居し、私の産んだ孫を毎日可愛がってくれています

ユキエ

その姿が、ナオキを可愛がっていた母と重なって、少し切なくなりますが…

ユキエ

私の子には、どうか恩を仇で返す人間には育ってほしくないです

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タナカトシキ

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