「嘘」

教室でいつも彼女を目で追う

気づかれないように

少しだけ見つめる

それで時々思う

「好き」っていったいなんだろう？

この罠に人はいつのまにか落ちるのか

政求通知　か…

政府求婚通知 略して政求通知 それが来ると僕らは

恋愛禁止になり国が決めた相手と結婚する

正確に言うと 夫婦として選ばれた男女両者が満16歳になると将来の結婚相手として政府から通知される

少子化対策と子供の能力向上どうとかで国内外でかなりの高評価の政策らしい

要するに！ 遺伝的な「幸せ」が約束された 政府が仲人の「お見合い結婚」みたいなものだ

約束された幸せ 安定した未来！ 素晴らしい！！

僕は恋がしたい！ 「好き」って言いたい！ 誰でもない、ないちゃんに……！！

政求通知が来るまでの 「つかの間の恋」 って言われてもかまうもんか！ 好きなものは好きなんだ！！！

誰がなんと言おうと伝えたい 5年間ずっと好きだったんだ！！

5年前…

二時間目…

三時間目…

四時間目…

五時間目…

内気な僕が悩んだ末そう言えたのは、残念なことに一日も終わりの五時間目

たったそれだけ

たったそれだけで彼女は僕の全てをつかんでしまった

……ついでに言えば 彼女と言葉を交わしたのもたったそれ

忘れられない思い出だ

そっか… 16になると僕にも通知が来るのか

もう時間が

ない！！

どどど　どうしよう 何を言うのか全然出てこない…

…やっぱ こんなもんだよね…

僕にとっては特別な思い出でも ないちゃんの記憶にも残ってないんだ

6時半…

どうしたんだろ…

「…さっきから… 仏くんのこと考えるとドキドキが止まらなくて遅れちゃったの♡」

7時…

8時…

もう8時半か… 興奮して草むしりしてたらもうこんな時間に…

もしかして道に迷った？ うーん、でも小学校の裏たしなぁ 大体学校のある日に6時に来いとか ちょっと無理合った気も…

良く考えたらニヤニヤしながら草むしって自分をまってる同級生とか怪しすぎるよね！？

わー最悪だ！！ どこかでないちゃん見てるかも知れないのにッ！

なんか特技とかカッコいいことしとけば良かった！！

あっ今からそうしよう！！ ちょうど砂場あるし！！

ﾋﾟﾘﾘｯ

いつも目で追っていた彼女が 目の前にいるのに

うまく言葉が出てこない

好きって気持ちは 何て足手まといなんだ

………

どうしよう…

何をッ 勝手にッ 語ってるんだッ

僕はッ！！！！

わーｯ！！！

僕の黒歴史… 恥ずかしいィッ！！ 人と違うことがしたかったんです！！ その結果が古墳ｯ 我ながら意味がわからない！！

まぁ、古墳は今も好きだけど…

でもなんでそんな嘘を…？

ないちゃんまつ毛長いなぁ… 目も大きくて 白目が蒼く見えるくらい澄んでて… 髪もサラサラだ… こんな美人学校に一人いるかいないかだよ…

それに比べて僕は……

………言った…

言ったぞ僕は…ッ！

そんなわけないだろォォッ！？

フラれても何でもいい！ ないちゃんが泣いてるのは駄目だッ

嫌だッ！！

…どうしよう

泣きそうだ

ぎゅっ

この人を好きになってよかった

僕の全身の細胞が そう言ってる気がした…

あ、これ夢だわ

もう、夢でもなんでもいい…！

ピコンッピコンピコンッ

どうしてこのタイミングで…ッ

もう12時！！ ていうことは僕はもう16歳に…！

日本政府からあなたに重要なお知らせです。 あなたの情報、希望に基づいて◼️◼️◼️演算◼️◼️結果、あなたの結婚相手は 乾　ないこさん に決定し◼️◼️◼️演算◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️手続◼️◼️◼️◼️市役所◼️◼️……

これって…

これって…！

プツンッ

ないちゃんじゃない…

そう言ったないちゃんの手は とても冷たくて 震えていて 僕は放すことが出来なかった

ないちゃんも 放さなかった

「このままどこか遠くへ……」 その言葉が何度も浮かんで そして消えていった…

どうしよう！？このまま帰したくない…！！ 泣いてたし！僕が泣かせたし…！！

政求通知… ないちゃんじゃないんだ…

だから……何……？

僕はないちゃんが好きで ないちゃんも僕が好き

それで僕はどうしたいんだ？ 結婚したい？

うーん… そういうの今はまだピンと来ないな…

でも、 あの気持ちはきっとずっと焼き付いて離れない

今度また話し合おう僕達のこと これからのこと……

誰かに相手を決められる この異常な世界で

僕の「好き」という気持ちはただがむしゃらに行き先を探していた

ピコンッピコンピコン