??
ところでさ……
??
どういうことなの
凪
何が……?
??
何が?
??
じゃないよ
凪
……
??
今日一緒に帰るって話だったじゃん
凪
うん……
??
うん、じゃないって
??
ちゃんと話して
??
なんでそんな事したの
凪
……
??
……
凪
っ……
??
もう!
??
言わないと分かんないって!
彼女は雨に打たれたまま
涙声で駆けていく。
凪
……
私はそれを黙って見つめていた。
かつての私が駆けていった後も
彼はしばらく雨に打たれていた。
手にひとつ多い傘を持ったまま。
彼女には見えないように 傘を持っている彼。
??
今の私は……
凪
忘れてたから……
??
……
凪
俺があげた傘を
凪
君はいつも
凪
さして帰りたい言うから……
??
……
??
だから……
??
家に忘れた傘を
??
先に取ってきてくれたんだよね……
??
うん……
??
今なら分かるよ
??
あの時
??
凪の言葉を待てなかったのも
??
公園のことも……
??
私は……
??
君と一緒の傘でも良かったから
??
少しの時間も
待ちたくなかったの……
待ちたくなかったの……
??
この気持ちは
??
凪に届いていたのかな……?
凪
……
結衣
暑くなってきたね!
結衣
凪は暑くないの?
結衣
フードも被ったままだけど
凪
暑いよ
凪
めっちゃ暑い
凪
でも、男はフード被ってる方が
凪
かっこいいんだよ
結衣
なにそれ
結衣
凪って
結衣
たまに変なこと言うよね
結衣
それが面白いけど
凪
結衣の前ではかっこよく
いたいだけだよ
いたいだけだよ
結衣
ふーん……
私はすごく嬉しかった。
でも、なんだか恥ずかしくて
そっぽを向いた。
凪
ねえ
結衣
なに?
凪
……
結衣
もったいぶらないで
凪
もったいぶってないよ
凪
飲み物買ってこようか?
結衣
え、いいの?
結衣
あ、
結衣
待って!
結衣
やっぱダメ
凪
ほら
結衣
ほらってなに!
凪
だってそれは
凪
結衣が一番わかることじゃん
結衣
……もう
結衣
今日は
結衣
凪の誕生日だから
結衣
誕生日の人には働かせない
凪
うん
凪
結衣の家の決まりだもんね
結衣
そう
結衣
変なルールだよね
凪
でも、今日は俺が行くよ
結衣
なんで?ダメ
凪
俺のルール知らないだろ
結衣
?
凪
俺の家では
凪
誕生日の人は
凪
一日好きなことをしていいんだよ
凪
だから、俺が買いにいく
結衣
どういうこと?
結衣
買いに行くのが好きなことなの?
結衣
変なの
凪
違うよ
凪
結衣のために動けることが好きなんだよ
彼はそう言って走っていった。
私はまた、
火照る顔を隠しながら、彼を待った。
けれど、私の記憶には 彼が戻って来ることはなかった。
??
それが最期だったから……
凪
……
結衣
それでこの時計は……?
凪
……
結衣
ここまで
私に思い出させておいて
私に思い出させておいて
結衣
何もないわけないもんね……?
凪
これは
結衣
待って
結衣
この時計って
結衣
一緒に山を登った時にも出てきてたよね
結衣
私の私物だった?
凪
……
彼は俯いたまま、何も答えない。
結衣
って言ってみたけど
結衣
たぶん、私のものじゃない
結衣
だって、
結衣
思い出せないもん
結衣
いきなり私の前に
あったんだもん
あったんだもん
凪
……
凪
そうだよ
凪
だって
凪
それは俺からの
凪
贈り物だから
凪
これ
凪
ずっと贈りたかったんだ
結衣
なに?
結衣
時計……?
凪
うん
結衣
可愛いかも
凪
これさ
凪
蓋開けてみて欲しい
結衣
……?
凪から時計を受け取る。
金属で象られた懐中時計
蓋付きでチェーンがついてる。
私はそっと、蓋を開ける。
そこには
凪と私の笑顔が咲いていた。