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7月29日 午前8時
草太
（昨日はほとんど眠れなかった）
草太
（人が化物に食べられてた、あの光景）
草太
（あれが、頭から消えてくれない）
草太
（それに…）
奏
おはよう、草太くん
奏
疲れてるみたいだったけど、よく眠れた？
草太
あ、ああ
草太
気遣ってくれて、ありがとう
草太
（やっぱり、どうしても重なる）
草太
（昨日の化物と、彼女の姿が）
奏
本当に？
奏
目の下、くまが濃いけど
奏
少し見せてもらえる？
草太
っ──！？
草太
へ、平気だから！
草太
気にしなくても大丈夫！
奏
そう？ならいいけど
奏
今日は朝から大学なんだよね？
奏
お世話になってる身だし
奏
朝食の用意くらいは私がするよ
奏
食パン、焼くからね
草太
あ、ああ。ありがとう…
奏
あ、草太くん
奏
冷蔵庫にベーコンあったけど、使っていい？
草太
ベーコン…
草太
（肉…）
草太
…うぷっ
奏
草太くん？
草太
…ごめん、やっぱり食欲がないや。
草太
今日は早めに大学へ行くよ
草太
それで、予習でもしておく
草太
（今は、彼女から離れたい）
草太
（この姿を見ていると）
草太
（気持ちが悪くなる…）
奏
…体調、結構悪そうだね？
奏
目の下のくまもそうだけど
奏
なのに、大学には早めに行くんだ？
草太
…そうだね
草太
講義は、大事だから
奏
ふぅん…
奏
大学生って、大変そうだね
奏
まあいいや。気をつけてね
奏
いってらっしゃい
草太
…いってきます
草太
昨日のあれは…
草太
本当に、なんだったんだ？
草太
夢…？
草太
でも、あの瞬間の光景ははっきり覚えてる
草太
錆びた鉄のような臭いも
草太
踏みつけた血だまりの音も
草太
あれが夢だっていうなら
草太
たぶん、俺は頭がおかしくなってる…
草太
…………
草太
…大学の前に
草太
昨日の現場に行ってみよう
草太
人が化物に食われるなんて
草太
あり得ない話だけれど
草太
何か…昨日の痕跡があれば
草太
警察へ通報だってできるはずだ
草太
着いた…
草太
（昼間でも、ここは薄暗い）
草太
…………
草太
…何も、ない
草太
食べられてた死体は、ある意味当然として
草太
道路に広がってた、血だまりの痕さえも
草太
どこにも見当たらない
草太
…あの化物の仕業なのか？
草太
人の身体を簡単に咀嚼してたように
草太
血の一滴さえも飲み干してしまった…とか？
草太
…はは。わけがわからない…
草太
（…ああ、頭が痛い）
草太
（それに、気持ちが悪い）
草太
（家に帰りたいけれど…）
草太
（帰れば、あの化物と似た姿をした奏がいる）
草太
（大学に行こう）
草太
（それで、講義室で眠ってしまおう…）
草太
…ただいま
奏
あ、おかえりなさい、草太くん
奏
本当に遅かったね。お疲れ様
奏
大学生って大変なんだね
草太
…ありがとう
草太
（寄り道して、帰宅を延ばしてた…）
草太
（なんて、言えるわけがない）
奏
ちょうど、料理でも作ろうかな、って考えてて
奏
草太くん、今朝は何も食べてなかったでしょ？
奏
何か作ったら喜んでくれるかな、って思ったんだけど
奏
それとも、もう外食してきてる？
草太
…料理、できるの？
奏
うん、まあね
草太
…それは、普通の？
奏
…？
奏
普通じゃない料理って、何？
草太
ああ、いや…
草太
…じゃあ、お願いしようかな
奏
了解
奏
冷蔵庫にあるもので、適当に作るね
草太
…………
草太
ねえ、奏
草太
料理中に悪いけど…聞いていいかな
草太
きみは、いつまでここにいるつもりなのかな
奏
…えっと
奏
それって、どういう意味かな？
草太
その…きみにも都合があるだろうし
草太
いつまでもは、いられないんじゃないかと思って
奏
…都合は、ないかな
奏
うん。そういうのは、どこにもないの
奏
だから、きみは女子高生を泊めてても大丈夫
奏
肉親から通報されるとかはないから
奏
ふふ
草太
…はは
草太
（冗談めかした笑顔だけど）
草太
（…何か、圧を感じる気がする）
奏
真面目な話をするとね
奏
この部屋に連れてきてもらった時さ
奏
私、うれしかったんだ
奏
何もしなくても、部屋にいていいって言われて
奏
私のことを心配してくれたんだなーなんて
奏
そう思えたから
奏
だから…きみの都合が良いなら
奏
このままいさせてほしいんだけど…
奏
だめ、かな？
草太
…………
草太
…ああ。いい、よ
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