武装探偵社にて
谷崎潤一郎
……という訳で、梶井を発見したんですが逃走されてしまいました
国木田独歩
成程な……奴に遭遇して全員生還できただけでも十分だろう
国木田独歩
それより敦、何か気になることがあったと言っていたが……
中島敦
はい、実は梶井と出会ったとき「宇宙大元帥」のことを話していたんですが……
中島敦
どうも、彼の言っていた「宇宙大元帥」はマーサのことじゃないみたいなんです
与謝野晶子
確か、敦がマーサを連れてたのを見て「宇宙大元帥に似て少女趣味だ」なんて言っていたね
与謝野晶子
マフィアの少女趣味といえばあの人しか思い浮かばないけれど……
中島敦
マーサのことも「知らない」って……
谷崎潤一郎
でも、本当に知らない訳じゃなくて敢えて無視したみたいな言い方だったよ?
国木田独歩
ふむ……どういうことだ?
マーサ
……遅すぎたのかもしれん
マーサ
私はなるべく急いで来たつもりだったが、地球の時間の流れはあまりにも早すぎる……
マーサ
だが、地球に私以外の宇宙大元帥が?
マーサ
それはあり得ないぞ!何故ならば正式な宇宙大元帥はこの宇宙にただ一人!
私だけが宇宙大元帥なのだから!
私だけが宇宙大元帥なのだから!
中島敦
……太宰さん、昔ポートマフィアにいた頃何か聞いたことはありませんか?
太宰治
爆弾魔の彼かい?
太宰治
そうだねぇ……私が中也と組まされていた頃、「嗤う檸檬事件」というのがあったのだけれど
太宰治
その事件がきっかけでマフィアに加入した
それが梶井基次郎だ
それが梶井基次郎だ
国木田独歩
なるほど……しかしそれとどう関係が…
太宰治
森さんの説得でマフィアに入ったんだよ
太宰治
どういう話があったのかは知らないけどね
太宰治
周りから何と言われようと森さんのことを頑なに「宇宙大元帥」と呼んでいたねぇ
太宰治
私に分かるのはこのくらいだよ
国木田独歩
ふむ……
マーサ
そうか……
マーサ
であれば森とやらに話をすればいいのだな!
マーサ
そいつに頼んで基次郎と腹を割って話せるようにしてもらうのだ!
マーサ
そうすれば万事解決!
国木田独歩
おい!相手はポートマフィアの首領だぞ!?
国木田独歩
梶井に会うより難しいというのに……
太宰治
あー……それなら私がなんとかしてみようか?
谷崎潤一郎
いや……いくら太宰さんでも…。
太宰治
まーまー、此処は一つ私に任せてよ♪
太宰治
こんな可憐な乙女の頼み、聞かないわけにもいかないだろう?
国木田独歩
……勝手にしろ
ポートマフィア 首領の部屋
森鴎外
……指名手配犯による連続爆破事件、新たな被害が……か
森鴎外
彼は好きにやらせておくのが一番効率的に働いてくれるのだけれど、目立ちすぎなのは玉に瑕だね……
ドン!バタン!
警備中のマフィア
おい!連絡もなしに首領の部屋に入るなど……
梶井基次郎
うるさい!
警備中のマフィア
首領のご機嫌を損ねても知りませんよ!
ガチャン!
森鴎外
……おや、梶井くん。随分と気が立っているようだけれど……
梶井基次郎
……宇宙大元帥殿
梶井基次郎
貴方は一体……本当に「宇宙大元帥」なのですか?
森鴎外
……ああ。そうだとも
森鴎外
ずっと君は私をそう呼んでいるじゃないか
森鴎外
なのに何故急に疑いを?
梶井基次郎
……僕の……宇宙大元帥は……
いやでも、それだと筋が通らない……
いやでも、それだと筋が通らない……
梶井基次郎
この梶井を絶望より掬い上げてみせた偉大なる宇宙大元帥はただ一人、この宇宙に宇宙大元帥たり得る者はただ一人!
梶井基次郎
でも……あの子は……
梶井基次郎
違う、違う、違う!
そんなことはとうの昔に否定した!
そんなことはとうの昔に否定した!
森鴎外
……梶井くん
梶井基次郎
……はっ!…申し訳ありません、少々取り乱していて……
森鴎外
一体何があったんだい?
森鴎外
筋道だって話してくれないと、これでは全くもって要領を得ないよ
梶井基次郎
失礼しました……こほん
梶井基次郎
実は、本日実験で出かけた先で妙な少女と出会いまして
森鴎外
少女?
梶井基次郎
無礼にも「宇宙大元帥」を騙るその少女に……どこか見覚えがあったんです
梶井基次郎
……15年ほど前に会った不思議な女の子にそっくりで……
梶井基次郎
でもおかしいんですよ
梶井基次郎
声も見た目もあの時と全く変わらなくて…
梶井基次郎
確かに彼女は異能者だったけれど外見を変える異能じゃない
梶井基次郎
どう考えても計算が合わないんですよ
梶井基次郎
それに、今更僕の前に現れて……
梶井基次郎
……貴方はご存知ですか?檸檬色の髪に銀河の目をした女の子……マーサのこと
森鴎外
……いいや、知らないね
森鴎外
それにしても妙な話だね
森鴎外
君にとって「宇宙大元帥」が特別な存在であることを知る者はほとんどいないはずだ
梶井基次郎
……彼女、探偵社の輩と一緒にいたんです
森鴎外
太宰くんに吹き込まれたか……いや、彼が嫌がらせ上手とはいえこんな無意味なことはしないだろうし
森鴎外
君の被験者の知り合いが復讐に来た、という様子でもなさそうだ
森鴎外
……ふむ。これは少し考える必要がありそうだね
森鴎外
君も少し休むといい。下がっていなさい
梶井基次郎
はい、分かりました……
梶井は部屋を出ていった
森鴎外
(ふむ、宇宙大元帥を名乗る少女か……)
森鴎外
(彼をマフィアの一員として使役する上で宇宙大元帥の名を借りることは非常に好都合だった)
森鴎外
(何より、彼自身の精神を安定させ、破壊衝動を抑え込むのに必要だった)
森鴎外
(しかし……仮に「本物の」宇宙大元帥が現れたとなると厄介だ)
森鴎外
(彼が奪われる事はマフィアにとっての損失だし……この世界は用済みだとばかりにまた無差別爆破を始めないとも限らない)
森鴎外
……よし、幼い娘を手にかけるのは心が痛むけれど、ここは一つ手を打とう
続く…