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2件
これ、、国語の帰り道よな~、 ええなぁ~。
なぴ
なぴ
なぴ
なぴ
放課後の騒がしい玄関口で、いきなり、初兎ちゃんから
初兎
と声をかけられて、どきっとした
ほとけ
初兎
上履きをぬぎながら初兎ちゃんが言って、靴下にぽっかり空いた穴から、やんちゃそうな親指をのぞかせた
その指をスニーカーにおさめても、初兎ちゃんはなかなか歩き出そうとしない
ほとけ
小4から同じクラスの初兎ちゃん。家も近いから、初兎ちゃんが野球チームに入るまでは、よく一緒に登下校をした
なのに、今日の僕には初兎ちゃんと2人きりの帰り道が、はてしなく遠く感じられる
もたもたと靴を履き替えて、外に出ると5月の空はまだ明るく、グラウンドに舞う砂ぼこりを西日がこがね色に照らしていた
初兎
初兎
初兎
初兎
初兎ちゃんの話があちこち飛ぶのはいつものこと
なのに、今日の僕にはついていけない。まるで何にもなかったみたいに、初兎ちゃんはふだんとかわらない。
”僕だけが”あの事を引きずっているみたいで、一歩前を歩く薄紫色のセーターがどんどんにくらしく見えてくる
今日の昼休み、友達5人で喋っているうちに「どっちが好き?」って話になった。
「海と山は?」「夏と冬は?」「ラーメンとカレーは?」「歯ブラシの硬いのと柔らかいのは?」
みんなで順に質問を出し合い、
りうら
ないこ
いふ
と、ぽんぽん答えていく。
そのテンポに僕だけついていけなかった。
ほとけ
ほとけ
とか、一人でごにょごにょ言っていたら、初兎 ちゃんが急にイラついた目で僕をにらんだ
初兎
先の鋭いものがみぞおちのあたりにズキッと刺さった、そんな気がした
そのまま今も刺さり続けて、歩いても、歩いても、振り落とせない。
返事をしない僕に白けたのか初兎ちゃんの口数もしだいに減って、2人してすっかり黙り込んだ。僕の前に歩く初兎ちゃんと僕との間に距離が開く。広がる
ここ1年でぐんと高くなった頭の位置。たくましくなった足取り。僕より半年早く生まれた初兎ちゃんは、どんなこともテンポよく乗り越えて、ぐんぐん前へ進んでいくんだろう。
ほとけ
声にならないため息が僕の口からこぼれて、足元の陰に溶けていく。どうして、僕すぐに立ち止まっちゃうんだろう。思っていることがなんで言えないんだろう
僕は海のこんなところが好きだ。 山のこんなところも好きだ。
その「こんな」をうまく言葉にできたなら、初兎ちゃんとかたを並べあってうまく歩いていけるのかな
「どっちも好き」と「どっちも好きじゃない」が一緒なら、「言えなかったこと」と「なかったこと」も一緒になっちゃうのかな?
考えるほどにみぞおちの辺りが重くなる
市立公園の遊歩道にさしかかったころには、僕は初兎ちゃんに3歩以上も遅れをとっていた。もう駄目だ。あきらめの境地で僕は天を仰いだ。信じがたいものを見たのはその時だった
空一面からシャワーの水が降ってきた
もちろんそんなわけはない。なのに、なぜだかとっさにプールの後に浴びるシャワーが浮かんだのは公園の新緑がふりまく初夏の匂いのせいかもしれない。
初兎
ほとけ
頭に、顔に、体中に打ち付ける水滴と雨と認めるには、少し時間がかかった。 晴れているのに雨なんて不自然すぎる。僕と初兎ちゃんはむやみにじたばたし、意味もなく、とんだり、跳ねたりして、瞬く間に天気雨が通り過ぎていくと互いの濡れた頭を指さしあって笑った。
本当にあっという間のことだったんだ。ざざっと水が降ってきて、何かを洗い流した。初兎ちゃんのふんわりしたはね毛がぺたっとなったのが愉快で僕はさんざん腹をかかえ、気が付くとみぞおちの異物が消えていた。
単純すぎる自分が恥ずかしくなったのは、笑いの大波が引いてからだ。
うっかりはしゃいだばつの悪さを隠すように、僕はすっと目をふせた。
アスファルトの水たまりに西日の反射がきらきら光る。 その眩しさに背中を押されるように、
ほとけ
と思った。
今言わなきゃ、きっと2度と言えない。
ほとけ
勇気を振り絞ったわりにはしどろもどろの頼りない声が出た。
ほとけ
初兎ちゃんはしばしまばたきを止めて、まじまじと僕の顔を見つめ、それからこっくりうなずいた。
初兎ちゃんにしては珍しく言葉がない。 なのにわかってもらえた気がした。
ほとけ
初兎
ぬれた地面にさっきよりも軽快な足音をきざんで、僕たちはまた歩き出した
なぴ
なぴ
なぴ
なぴ
なぴ
なぴ
なぴ