テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
渚
海を眺めながら独り言を呟く。
瑠璃
私は言われた通りテントの支柱を砂浜に刺した。
渚
瑠璃
私と瑠璃るりがテントをはり終えた頃に、 南海はジュースとお菓子が大量に入った袋を持って帰ってきた。
南海
南海はテントの中に荷物を入れると汗を拭う仕草をした。
瑠璃
私たちはテントに入って海を眺めていた。
渚
私が呟くと二人はこくんと頷く。
南海
夕香は私たちと海の日に海に遊びに来ていた友達だ。 でも、一年前に事件は起きた。
海で溺れている子供を見つけた夕香はすぐに海に飛び込んだ。 必死の救助活動が行われ、子供は助かったものの、夕香は助からなかった。
瑠璃
私たちはまた誰もいない海を眺め始めた。
あの日、海の怖さを知った私たちは、絶対に海で泳がないと決めた。 夕香のためにしてあげられることは、 毎年海の日に三人で海を眺めにくることだった。
少ししてから私たちはお菓子を食べながら談笑していた。
南海
南海は長い髪の毛を束ねる仕草をした。
瑠璃
さすが生徒会長。瑠璃は南海の世話ばかり焼いている気がする。
瑠璃
渚
私の髪の毛は肩ぐらいの長さしかない。 瑠璃もショートカットだからヘアゴムを使うことはないのだ。
南海
南海は申し訳なさそうに髪をくくる。
瑠璃
渚
私の提案に二人の表情が少し曇ったような気がした。 でも二人は何も言わず頷いた。
波打ち際を歩いていると、遠くのほうで何か光ってるのが見えた。
南海
南海が光っているほうを指差す。
瑠璃
瑠璃を先頭に私たちは走り出した。近くまで来るとそれは小瓶だった。
南海
中をよく見てみると、手紙のようなものが入っている。 小瓶の蓋を開け、取り出して読んでみる。
手紙
私たちははっとした。これは夕香がいつも言っていた言葉だった。 しかもこれは夕香の字だ。
南海
南海がきらきらした目で私たちを見つめている。
渚
瑠璃
私と瑠璃は眉をしかめて考える。
南海
南海の提案に私と瑠璃は渋々乗ることにした。 小瓶をテントに持ち帰り、方法を考える。
渚
南海
南海が即答した。
瑠璃
現実主義の瑠璃は頭を悩ませる。
南海
私たちは短めの手紙を書き、それを小瓶に入れた。
瑠璃
瑠璃が代表して小瓶を海に流した。
渚
私たちはテントを片付け、明日また海に来る約束をした。
瑠璃
瑠璃の言葉に頷き、私たちは解散した。
翌日になって私は海へ向かった。 海に着くとすでに瑠璃と南海がいた。
南海
渚
瑠璃
また瑠璃を先頭に波打ち際に向かった。 しばらく歩くと光るものが見え、私たちの胸は高まる。
南海
南海が一目散に走り出し、光るものを拾い上げる。
渚
私が南海に向かって叫ぶと、 南海は小瓶を頭の上に掲げてにっこり笑っていた。
瑠璃
瑠璃が慎重に開ける。そして中の手紙を読み始めた。
手紙
本当に返事が返ってきた。ちゃんと夕香の癖のある字で。
瑠璃
瑠璃はぼそっと呟いて、何度も何度も短い手紙を読み返していた。
南海
南海がわくわくしながらペンと紙を用意していた。
瑠璃
真面目な瑠璃に従って、 今私たちがどういう感じで過ごしているのか短くまとめた。
今度は南海が代表して小瓶を海に流した。
渚
私たちはまた約束を交わし、解散した。
翌日、海に向かう途中で瑠璃と合流した。
渚
おもむろに聞くと、瑠璃は笑顔で答えた。
瑠璃
海に着くと、南海が待っていた。
南海
南海は待ちきれなかったのか、 私たちを置いて波打ち際に向かって走り出した。
渚
瑠璃
夕香が亡くなって一番泣いていたのは南海だった。 南海はいつも夕香にべったりで、 当時は夕香が南海の世話係といった感じだった。
南海
私と瑠璃が駆けつけると、南海は小瓶を開けて手紙を読み始めていた。
手紙
今回もやっぱり短い。夕香には何か事情があるのだろうか。
瑠璃
瑠璃は真剣に考えている。その隣で南海は少し涙目になっていた。
渚
私は南海の背中をさすりながら聞く。
南海
私はもう一度手紙を読み返した。 確かに、最後のお願いというのは意味深に感じた。
渚
もう南海の泣く姿は見たくない。私たちはまた手紙を書いた。
瑠璃
南海の表情は少し暗かったが、私と瑠璃は「大丈夫」と励まして解散した。
翌日になった。海へ向かう途中に南海と合流した。
南海
南海は不安そうな表情をしていた。
渚
私は南海の手を引いて、海へと走り出した。 海に着くと、瑠璃が待っていた。
瑠璃
瑠璃は小瓶を開けて手紙を取り出した。 今回の手紙も短かった。
手紙
私たちは手紙の内容で察してしまった。 もう手紙の返事は返ってこない。
南海
南海が大粒の涙をこぼしながら駄々をこねている。 それを見て私と瑠璃も涙が止まらなかった。
瑠璃
瑠璃は冷静に事を把握していた。もう夕香はいない。
渚
私は二人を抱きしめた。どうしても涙が止まらない。
きっと夕香には時間がなかったのだろう。 夕香はいつも人のために行動していた。 だからあの時も、子供を助けに危険も顧みず飛び込んだ。
南海
南海は夕香の名前を呼びながら何度も手紙を読み返していた。
渚
私は南海の目を見て、頭を撫でた。
南海
瑠璃
瑠璃も私の言葉に賛成し、二人で南海を撫でた。
瑠璃
南海
いったい何を書くのだろう。
渚
南海
私と瑠璃は納得した。
夕香、一年間待ってくれてありがとう。 夕香のこと絶対に忘れない。元気でね。
手紙を小瓶に入れて三人で海に流した。 隣を見ると、やっぱり南海は泣いていた。
南海
南海はすぐに涙を拭いて、私と瑠璃にいつもの笑顔を見せた。
渚
私たちは解散した。
それから時は経ち、私たちは大人になった。
今でも毎年海の日に三人で思い出の海へ行く。
三人でテントを立てて、お菓子を食べながら海を眺める。
高校二年生のあの日から、もう小瓶は見ていない。
あの手紙はどこへ流れ着いただろうか。
南海
南海はふざけてそんなことを言っていた。
私たちは海を愛している。そして、夕香のことも。
『潮風高校水泳部、私たちは永遠不滅』
海を眺めた日の帰りに必ず三人で叫ぶ。
お揃いの貝殻のブレスレットを空に掲げて、私たちは何度でも誓う。
『必ず四人一緒だよ。たとえ離れていても、心は繋がっているから』
きっと、私たちはいつまでも変わらないだろう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!