蘭side
週明けも憎たらしいくらいに 真夏日だった。
こうして廊下を歩いている だけでも首筋に汗が滲む。
桃瀬らん
さっきまでいた天国を 思い出すだけで私は気が 遠くなりそうになる。
幼い頃は暑さにも寒さにも 強かったのに今ではすっかり 弱くなっていた。
雨乃こさめ
前を歩く恋醒が空を指し こちらを振り返った。
桜黄みこと
美琴の歓声を聞きながら 遅れて私も眩しさに 目を凝らしながら仰ぎ見る。
雨乃こさめ
桜黄みこと
桃瀬らん
美琴と恋醒のはしゃいだ声とは 対照的にどんよりとした 調子で答える。
桃瀬らん
2人の視線が雲から自分へと移るのを 感じ、慌てて明るい声を出す。
桃瀬らん
言うなり私は美術室へと 小走りに向かう。
遅れて2人の靴音も聞こえて きてそっと息をつく。
朝からずっとこんな調子だった。
ふとした瞬間に威榴真の 「応援する」という言葉が蘇り 気持ちが塞いでしまうのだ。
桃瀬らん
人間の意志で天候を コントロール出来ないように 感情の扱いも難しい。
桃瀬らん
ぱしんと両手で頬を叩き 挑むような面持ちで 準備室へと足を進める。
他の部員の集中力を注がないようにと 顧問の大神先生が特別に 使わせてくれたのだ。
桃瀬らん
さっき職員室に立ち寄ったのは 映研からの依頼を報告する為だった。
美術部の顧問としては コンクールに集中しろと 諭すべきなのかもしれないけど、 と前置きしながらも 先生は私たちを応援してくれた。
桃瀬らん
誰かに自分の作品を見て もらえるのは嬉しいが それ以上に緊張の方が先に立つ。
入賞常連の恋醒や美琴とは違い まだまだ自信のない私には かなりの苦行だ。
にも関わらず映研の話を 聞いてみようと思ったのは 『俺、蘭の絵好きだし』 と言った威榴真の言葉が 頭を離れないからだ。
威榴真が好きだと言ったのは 私ではなく私の描く絵だ。
それでも純粋に嬉しかった。
だから、選ばれないだろうと 分かっていてもミーティングに 参加しようと思ったのだ。
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