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決して新しいとは言えない煉瓦造りの単独住宅は韓国ではよく見る光景だ。 何個も建て続けられる高層アパートに住むのがステータスなのは百も承知だが僕は前者に住み続けている。
ステータスより"味"と"思い出"の方が大切なのと、新しくないとはいえリモデリング済みの室内はそれらを残しつつ、現代の機能はちゃんと揃っているから
僕がこの煉瓦造りの家の家主になったのは3年前。
親がアパートに住みたいと言って引っ越す時に、ついて行かなかったのだ。 その時に名義変更をして僕が主になった。
一番上の階は僕の部屋で、下は元々あった2個の部屋をぶち壊して諸々取っ払って、カフェへとリモデリングした。 その分の費用はカフェの経営者兼店長が全部払ってくれたし、そのカフェの家賃収入が僕の仕事になっている。
そして、我が家にはもう一つ部屋がある。 カフェの横に位置するコンクリート製の外階段を上がった、2階の部屋。
ホソク
中華料理屋が貼ったであろうメニュー表をドアから剥がして、そこを叩く。 ガンガンガンガンと4回。
実の兄の部屋がここ、2階だ。
家族なのに、同じ建物内に住んでいるのに。 キーナンバーを俺に教えないジンヒョン、キーナンバーを聞かない僕。 それには理由がある。
少しの間を置いてガチャンと向こう側でノブが降りる音が聞こえた。 外からドアを勢いよく開けると、完全に"起きたばかり"のジンヒョンがいた。
ホソク
ジン
大きな欠伸を1回挟んだ後。
ホソク
ジン
そう言って寝癖のついた前髪を掻いた。 半袖の部屋着から覗く両腕には所狭しとタトゥーが入っている。 いや、そこだけじゃない。 首の前面、背中、それから何故か左足。
右足は利き足だからやらないとか訳の分からない事を言ってた気がする。
ホソク
ジン
頷いたジンヒョンがまた欠伸をした。
ジンヒョンはタトゥーイストだ。 そして、2階のこの部屋はタトゥースタジオにもなっていて、連日知らない人が多数出入りする。 キーナンバーを知らない理由が、これだ。
僕の身体にもそれなりにタトゥーがある。
自分で入れたかったというのも勿論嘘じゃないけれど、ジンヒョンに頼まれて入れたものまで。 と言ってもジンヒョンほど派手には入れていない。
両二の腕、首、右耳の後ろ、それからーーー
ジン
朝食を済ませたジンヒョンが食器を持って、僕の立つシンクの中にそれを置いた。
ホソク
ホソク
ジン
そう言って小馬鹿にした様に鼻で笑ったジンヒョン。 タトゥー屋のくせに唇にピアス開ける時、死ぬ程ビビり散らかしてたのは何処のどいつだよ、と。
タトゥーみたいに一定時間ガリガリやり続ける方がよっぽど痛いって話しだ。
ジンヒョンが親と共にアパートに行かなかったのは、僕と同じ理由ではなくてその時既にここでタトゥースタジオを始めていたからだ。 多少手狭とはいえ自分がやりやすい環境がここだというのに、敢えて引越す必要はなかったらしい。
ジン
ホソク
洗い物が終わった後は洗濯物を干す仕事がある。 その後はタブレットとペンタブをテーブルに並べて、コーヒー片手にイラストを描く。 趣味プラスお小遣い稼ぎだ。
ジン
慣れた手つきでタトゥーニードルを手入れしているジンヒョンが忙しく動く僕にお使いを頼んだ。 だから干そうとして手に持ったジンヒョンのTシャツを一度カゴの中に戻して片手を差し出す。
ホソク
ジン
ホソク
年季の入った半ズボンから携帯を取り出して操作するジンヒョンを横目に、再度洗濯物を干す作業に戻った。
後々確認したら割り増しで2万ウォン届いた。 せめて5万ウォンくらい送ってくれても、と思いながらも、晴天の中コーヒーを買いに出た。
下のカフェではなく、安価なチェーン店まで。
スタジオに誰が来たか、どんな人が来たか、僕はほとんど知らない。 洗濯物を取り込んだり外に出る時に、たまたま見かける事はあってもそう頻繁ではない。
他言語に精通してる訳じゃないのに、最近では外国から訪ねて来てくれる人もいるとかで。 翻訳アプリに助けられてるっていう類いの話しを4回くらい聞かされた。
ジンヒョンもいい歳なのだ。 無論、僕もだけど。
2人分のコーヒーを買う前に、近所に新しく出来た塩パンの店に寄った。
割り増しで貰ったお金でチョコ塩パンなんていう興味をそそるパンを買う為だ 2人しかいないのに目が欲張って、何故か4個も買ってしまった。 オーソドックスな塩パン2個とチョコ塩パン2個。
それから当初の目的のアイスコーヒーを大きめのサイズで2個持って家路につく。 時間は午前11時過ぎ。 両手がまんまと塞がってデニムのポケットの携帯は見れてないが、パン屋の時計が10時55分過ぎてたのは確認していた。
だからこんどは、ジンヒョンの部屋のドアをノックするのではなくインターホンを押す 予約の人が来ている時間だから。
寝起きよりも多少遅れてドアが開いた。
ホソク
100%ジンヒョンが出て来ると思っていた。 そりゃあそうだ。 なのに実際に出て来たのは、ジンヒョンより身体のつくりがかなりしっかりした男。 肩幅が広い、逞しい身体。
誰だか知っている、見た事ある。 テレビで見た顔がその身体にくっ付いていた。
グク
意外と冷静な自分にも驚きだが、ジンヒョンを"ヒョン"と呼ぶくらい親しい間柄なのかもしれないという事にも驚きだ。
'そうですか'と答えて5分後にまた来ればいいやと思ったのだけれど
グク
なんてドアを限界まで開げた腕はジンヒョンと同じくらい派手な右腕。 それから唇の端に光るピアス。 羨ましい程大きな二重の瞳。
テレビで見た何度も。 この顔が"ジョングクです"って言ってるのを。