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失恋は、終わりじゃなかった。
ただ静かに、"始まり"を受け入れる時間だったんだと思う。
通り慣れた帰り道。
いつも隣にいた緑はもういないけれど、それでも私はちゃんと歩いている。
ふと見上げた空は、柔らかく色づき始めていた。
秋が深まり、風の冷たさが頬を撫でる。
あの日までは、思ってた。
こんなに好きになるんじゃなかったって。
もっと早く気づいていれば、何か変えられたかもしれないって。
でも今は違う。
桃 。
小さく呟いてみる。
胸の奥にまだ痛みは残っているけれど、それも"好きだった証"なんだと思えた。
緑と一緒に笑った日。
名前を呼ばれて嬉しかった朝。
些細な言葉で、心を満たされた放課後。
全部が愛しかった。
全部が、まぎれもなく"私の初恋"だった。
それは誰かと比べるものじゃなくて、ただそこにあった確かな時間。
世界でたった一つの、私の宝物。
夜、自室の机の引き出しから、一枚の写真を取り出す。
文化祭のとき、クラスで撮った集合写真。
緑と私が並んで笑っている。
このときの私は、きっと世界一幸せだった。
でももう、この笑顔にしがみつかなくてもいい。
そっと写真をしまって、引き出しを閉めた。
この恋は終わった。
でも私は、きっとまた誰かを好きになる。
怖くても、苦しくても、それでも_
もう一度、恋をしたいと思えるくらいには、私は前を向いている。