今日も楽屋の雰囲気はいつものように穏やかで賑やかだった。
けれど僕にはそれがどこか遠く感じる。
元貴
滉斗
元貴と若井が、ソファに並んで座りながら楽しそうに話している。
二人が親しげに笑い合う姿を見て、僕は視線を落とした。
元貴達は小学生の頃からの付き合いだ。
音楽を始める前から、ずっと一緒だった。バンドを組むことになってからも、その絆は変わらない。
むしろ年月を重ねるごとに、二人の間には誰も入り込めないような強い結びつきが生まれているように見えた。
涼架
そんな思いが、胸を締め付ける。
もちろん二人は優しいし、メンバーとして大切にしてくれているのはわかる。
けれど、それでも、
自分がいなくても二人は何も困らない。 そんな思いが、心の奥底にずっと沈殿していた。
滉斗
若井の声にハッとして顔を上げると、優しい瞳が覗き込んでいた。
涼架
咄嗟に笑ってみせるが、若井は少し不安そうに眉をひそめた。
滉斗
元貴
その声に若井はまだ何か聞きたそうにしていたが、そのまま楽屋を後にした。
ひとりになった楽屋で小さく息を吐いた。
レコーディングスタジオの空気は、いつも緊張感に包まれてる。
今日は新曲のレコーディングだ。
元貴のボーカル録りが終わり、若井のギターも順調に進んでいる。
僕は、キーボードパートの録音の準備をしながらそっと二人のやり取りを覗いてみた。
滉斗
元貴
二人は自然に意見を出し合い細かい部分を詰めていく。その様子を見ながら、また胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
涼架
そう思うと、鍵盤に触れている指先がわずかに震えた。
スタッフ
スタッフに声をかけられ、ハッとする。
涼架
イヤホンをつけ、キーボードの前に座る。
クリック音が鳴り、録音が始まる。
しかし、どうしても集中できない。 心がざわついて、思うように指が動かない。
涼架
何度か録り直しを繰り返すうちに、周囲の空気が少しずつ重くなっていくのを感じた。
元貴
元貴が心配そうに声をかける。
滉斗
若井が優しく言ってくれる。
だけど、その優しさが、今はただ苦しい。
涼架
なんとか演奏を終え、最後にハモリパートの録音に入る。
しかし、歌おうとすると、喉がひどく詰まるような感覚に襲われた。
涼架
声が、出ない。
元貴
元貴が怪訝そうにこちらを見つめる。若井も心配そうにしている。
涼架
震える声でそう言い、もう一度マイクに向かう。 けれど、やっぱり声は思うように出なかった。
スタッフ
スタッフの言葉に、ごめんなさいと小さく呟くことしかなかった。
帰り道、僕の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
涼架
そんな考えが何度も何度も浮かんでは消え、消えてはまた浮かぶ。 気づけば、自宅の部屋にたどり着いていた。
無意識のうちに、引き出しを開ける。 気づくとデスクの上にカッターが置いてあった。
震える手でそれを掴み、袖をまくる。 僕の腕には、無数の細い線が残っていた。 まだ新しい傷もあれば、薄くなりかけたものもある。
涼架
そんなことを考えながら、ゆっくりと刃を腕に押し当てた。
ざくっ…じわり…。
血が滲んで熱を帯びたような感覚が広がる。
涼架
痛みで少し心が落ち着くが、それも直ぐに終わる。 だから何度も何度も切ってしまう。
涼架
2回ほど切ると、感覚が麻痺して痛みが感じなくなってきた。
涼架
涼架
何度切っても、虚しさだけは消えなかった。
涼架
スマホの画面を見ると、若井からのLINEだった。
涼架
申し訳ないけど適当に断ってスマホを伏せ、まだ止まらない血を止まるまでボーッとベットに腰掛け、
止まったら手馴れた手つきで消毒と包帯をギュッと強く巻いてから睡眠薬を飲んで倒れるように眠った。
コメント
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霧雨さん遅くなってすみません!!! ご希望に答えられたか不安ですが自分なりに頑張ってみました!🥺 明日のお昼までには全て投稿できますのでもう少々だけお付き合いお願いします!