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今日の楽屋の空気は、どこかいつもと違っていた。

滉斗

ねぇ、涼ちゃん最近ちょっと元気なくない?

ソファに座りながら、元貴に小さく声をかける。

元貴

俺も思ってた。レコのときも調子悪そうだったし、リハでもなんか…

滉斗

でも、本人は大丈夫って言うんだよね…。

視線の先には、メイク中の涼ちゃんの姿があった。表情はいつもと変わらず穏やかだけど、どこかぼんやりしている。

元貴が少し眉をひそめた。

元貴

前はもっと楽しそうにしてたよね。俺らと話してるときも、レコしてるときも。

滉斗

…うん。

俺も同じことを感じていた。だけど、何が原因なのかは分からない。

滉斗

(俺たちが気づかないだけで、何か悩んでるのか?)

そんな考えが頭をよぎる。

元貴

まぁ、もうすぐ本番だし、今は集中しよ!

元貴が軽く手を叩いて、空気を切り替えた。俺もそれに頷く。

そのとき涼ちゃんが鏡の前で小さく呟いたのが聞こえてきた。

涼架

いたっ、

滉斗

涼ちゃん?

驚いて声をかけると、涼ちゃんはハッとしたように振り向き、笑った。

涼架

ううん、大丈夫!ちょっと服が擦れただけだよ。

その言葉に違和感を覚えながらも、本番前ということもあり、それ以上は何も言えなかった。

ライブは熱気に包まれ、大歓声が響いていた。

俺もキーボードの前に立ち、演奏に集中しようとする。けれど、ふと目に入った光景に胸が痛んだ。

元貴と若井がステージの中央で楽しそうにアイコンタクトを交わし演奏を盛り上げている。 その姿が、まるで別世界のように思えた。

涼架

(やっぱり、この二人だけで十分なんじゃない?)

そして、それを突きつけるようにファンの声が耳に入る。

ファン

やっぱりもとぱ最高だよね!

ファン

藤澤って要らなくない?笑

ファン

え、それな?!むしろ居ない方がいいというか〜笑

笑いながら交わされる言葉が、胸に突き刺さる。

涼架

(僕は、やっぱり居ない方がいいんだ…。)

手元の鍵盤がぼやけて見えた。自分の指が震えているのが分かる。

それでも、演奏を止めることはできない。

涼架

(僕はここにいていいの?)

そんな考えが、頭から離れなかった。

ライブが終わり、メンバーは片付けが終わった人から楽屋へ戻る。

俺も楽屋に戻ろうとすると、

マネージャー

…涼架、こっち来い。

マネージャーの低い声が、背筋を凍らせる。

このマネージャーは数ヶ月前に来た人で、何故か俺にストーカー紛いなことや酷いと無理やり襲おうとしてくるからわざと会わないようにしていた。

涼架

(どうしよう、会わないようにしてたのに!怖くて何も出来ない…!)

俺は、抵抗できずにスタッフ控え室に連れ込まれた。

扉が閉まるとマネージャーは近づいてきて、俺の腕を掴んだ。

涼架

い゛っ、!

マネージャー

最近、俺のこと避けてるよな?

涼架

…そんなこと、ないですよ

無理に笑おうとするが、傷がある方の腕を強く握られ顔を歪める。

マネージャー

本当?なら…今日こそは相手してもらうからな?

涼架

や、やだ…!

マネージャーの手が腰に触れようとした瞬間、ノックの音が響いた。

滉斗

涼ちゃん居ますか?

若井の声だった。

涼架

!!

一瞬、呼吸が止まった。

マネージャーも動きを止め、舌打ちする。

マネージャー

チッ…今度は逃げんなよ。

腕を乱暴に離され、俺は急いでドアを開けた。

涼架

わっ、若井、どうしたの?

滉斗

いや…ちょっと様子がおかしかったから

若井はじっと顔を見つめる。その目がまるで何かを見透かしているようで少し焦る。

涼架

ううん、なんでもないよ!

そう言って笑うと、若井はしばらく黙ったあと、

滉斗

…そっか、

とだけ呟いた。

夜、自室のベッドに座り、スマホを見つめていた。

ネットには、ライブの感想が溢れている。

「やっぱりもとぱ最高〜!!!」

「キーボード要らなくね?w」

「本当、もう辞めてくれよw」

「キーボードもサポートメンバーで成り立つやん」

「いい加減察して欲しい、2人もそう思ってそう」

その言葉が、ぐるぐると頭の中を回る。

涼架

(もうダメかも…)

気づけば、手は引き出しの中にしまっていたカッターを握っていた。

シャツの袖をまくると、赤い線がいくつも刻まれている腕が現れる。

涼架

(痛みがあれば、少しは楽になれる。)

そう思いながら、刃をゆっくりと滑らせる。 皮膚が裂け、血が滲む。

赤い涙は沢山流れるのに、涙は流れなかった。

翌日

楽屋に入ると、元貴がすぐに声をかけてきた。

元貴

涼ちゃん、昨日全然連絡つかなかったけど大丈夫?

涼架

うん、ちょっと疲れててスマホ見れなかったんだよね

笑って誤魔化すが、元貴はじっと涼架の腕を見つめる。

元貴

…お前、最近なんでそんなに袖下ろしてるの?

その言葉に、心臓が跳ねる。

涼架

(やばい…)

涼架

そういう気分なの、

元貴

ちょっと袖、まくってみて?

元貴の声色が変わる。

涼架

…なんで?

元貴

いいから

抵抗しようとするが、元貴が素早く手を掴み袖を引き上げた。

元貴

っ……!!

無数の傷が刻まれた腕がさらけ出され、楽屋が静まり返る。

元貴の手が震えているのが分かった。

そしてしばらくの沈黙のあと元貴が低く呟いた。

元貴

…どういう事?

俺は、何も言えなかった。

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コメント

4

ユーザー
ユーザー

すっごく好きですっっ!!本当にありがとうございます!!😭

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