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ローゼ
ローゼが、ぽつりと呟く。 ヴァローナの手は、まだその頬に触れていた。 焼けることもない。 崩れることもない。 光魔素に呑まれ、その存在が掻き消えることもなかった。 ほんの数秒。 息の根が止まるほどの緊張。 ふたりとも動けない。 互いの瞳に互いを映したまま、 ただ、その事実を理解できずにいた。
個体名・ローゼ・シュテアネ。 聖女の条件を満たし種族進化を遂げているため、 光魔素への体制を身に付けています。
ローゼ
ローゼが目を見開く。 それは六月、一度死んだあの日。 ヴァローナの手によって蘇生した日に、前兆があったようだ。 あの日から。 自分たちの知らないところで、既に何かが変わっていた。
ヴァローナ
ヴァローナの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。 一粒。 頬を伝った。
ローゼ
ローゼの声が浴場に響く。 ヴァローナが膝をついて涙を拭う。 けれど、拭った先からまた溢れた。
ヴァローナ
ヴァローナ
ローゼ
ローゼ
ローゼ
ローゼの言葉も、珍しくまとまらない 五月。ふとしたきっかけで、 感情制御魔法を解いたヴァローナは不安定期にあった。 それもあるだろう。 今まで押さえ込まれていた感情が、そのまま表へ零れ落ちる。 目の前で啜り泣く彼をどう止めるか。 何を言えばいいのか。 ローゼは言葉に迷う。 それでも。 ヴァローナは、また顔を上げる。 膝は着いたまま。 大きな翼を羽ばたかせる。 ばさり。 湯気が大きく揺れた。 烏の羽。 身を覆うほどの金銀紫が広がり、月光を反射する。
ヴァローナ
その言葉と共に、ローゼの衣服も、 先程とはまた違う黒のドレスに替えられた。 濡れていた身体を包み込む布。 黒い裾が、白い湯気の中へ広がる。 ヴァローナは、ローゼの手を取った。
ヴァローナ
ヴァローナ
ヴァローナ
ヴァローナ
途切れそうになりながら。 ひとつずつ。 言葉を選ぶ。 ぎこちない言葉に、自然と心を委ねていた。 いつもなら、ただ静かに言葉を並べるだけの機械が。 いまたしかに、自身の言葉を選び取るように。 迷いながら。 願いながら。 その手に伝う体温が、確かなものになっていた。
ローゼ
声が出ない。 返事を。 何か、言わなければ。 そう思った時には、遅かった。 ローゼは返事をするよりも先に、視界を喪った。 緊張と。 興奮と。 少しの、のぼせ。 黒いドレスの裾が揺れる。 そのまま、ローゼの身体から力が抜けた。
コメント
1件
うわっ、第5話……めっちゃ良いシーンだった……! ヴァローナが涙見せるところ、正直グッときたわ。普段ああやって抑えてた感情が溢れて、それでも「隣に居させてくれ」って頼む姿、弱さとか迷いがちゃんと滲んでて最高に刺さった。で、肝心のローゼが返事する前に力抜けるオチ、気になりすぎるだろ! 続き早く読みてえ🔥