夏の風は、すこしだけ匂いが違う。 焦げたような匂い。汗のにおい。 冷たい水の記憶。
体育館の扉を開けた瞬間、真っ赤なジャージの 彼がいた。 髪をくしゃっとかきあげて、笑うその横顔は、 なんてことないのに、なぜか目が離せなかった。
誰かが言った。 でも、わたしは答えられなかった。
名前を聞く前に、 目の奥に焼きついてしまったから。
それが、夜久衛輔だった。
衛 輔 .
明 愛 .
衛 輔 .
そう言って、にこっと笑った。 その声が、夏の温度に似ていた。
優しくて、ちょっとあったかくて、 すぐに消えてしまいそうな、うつくしい声。
練習が始まると、彼は変わった。 誰よりも視野が広くて、誰よりも周りを見ていて、なのに、自分のことは、すごく雑に扱っている気がした。
誰かのプレーを支えるたびに、彼の目がほんの少しだけ、 遠くを見ていることに気づいた。
そんな目で笑うひとが、こんなに綺麗に見えるなんて、 ずるい。
帰り際、体育館の外。 夕焼けがまぶしくて、目を細めたとき。
衛 輔 .
振り返ると、そこに夜久くんがいた。
明 愛 .
衛 輔 .
明 愛 .
衛 輔 .
はじめて会ったのに、どうしてそんなふうに言えるの。
優しさの奥に、少しの寂しさ。 その正体がわからなくて、わたしは、うまく返せなかった。
「また、会えるといいな」
その言葉は、風にまぎれて、本当に言ったのか、 わからなくなった。
けど、 その日から、わたしの中で夜久衛輔が棲みついた。
そっと、静かに。 たしかに、愛おしく。
お久しぶりです!! 長期間休みを取っていてすみませんでした🙇♀️ 色々と、精神的にきていて、載せれませんでした でも、もう元気なので、どんどん載せてきます! 今後にご期待を!
次の投稿日・・・10月5日(日)
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