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トラゾー ( 虎若 空翔
空のダンボール箱に囲まれた部屋で、俺は感慨深く息をついた。
田舎を離れ、憧れの都会での生活。
広くはないけど、十分に快適なワンルームマンション。
ここで、俺の自由気ままな大学生活が始まる…“はずだった“。
数日経った頃には、
「隣人、うるさすぎ問題」
で、俺が悩まされることになるなんて…あの時の俺には知る由もなかっただろう。
最初は、壁の薄いアパートだから仕方ないと思ってた。
…しかし、今ではその騒音は、仕方ないで済ませられないくらい酷いもので…
耳に響く、男の怒鳴り声や笑い声
物がぶつかったり壊れたりする音
そして…なんか、聞いちゃいけないような…
…はっきり言えば、誰かの甘い喘ぎ声
こんなのが、毎日飽きもせず聞こえてくるのだ
トラゾー ( 虎若 空翔
せめて女性の声ならまだよかったのに…と、ここ最近毎日のように思っている
いや、もしかしたら女性かもしれないけど…だとしてもじゃん、 女性だとしても、あんな声聞きながら生活するのは普通に結構キツイ
…ただ、唯一の救いは、それが若い人の声っぽいということ
寧ろおじさんの喘ぎ声が毎日のように聞こえたら、それこそすぐにここから逃げ出していることだろう
トラゾー ( 虎若 空翔
流石の俺も、そろそろ苛立ちを覚えてくる
もう…なんなら今、我慢の限界に達しそうまである
…その時、玄関の方から何か物音が聞こえた
外の音を聞きつけ、俺は玄関の扉を開けた
トラゾー ( 虎若 空翔
玄関前に置かれていたのは、見覚えのないダンボール箱
きっと誰かの荷物が、間違って俺の部屋に誤配送されてきたのだろう なんとなくだが、よくある事なのですぐに状況を理解した
トラゾー ( 虎若 空翔
頻繁にあるというわけではないが、俺もすっかりこれにはなれてしまった
宛先が書かれた部分を見て、俺は心の中でその名前を読み上げる
黒井 乃明(くろい のあ)
その名前を見て、俺は一瞬言葉を失った
__この名前は、俺の隣人の名前だったのだ
トラゾー ( 虎若 空翔
思っても見ない展開に、俺は言葉にならないため息をついた
会ったことも話したこともない相手な上に、騒音の原因である張本人…
そりゃあ誰だって躊躇ってしまうだろう
トラゾー ( 虎若 空翔
…よく考えたら、寧ろこれはいい機会なのではないだろうか
あの騒音に、俺は心底迷惑している。この荷物を渡すついでにちょっとくらい文句言ったって、俺は何も悪く無いはずだ
逆にここまで我慢できた俺を褒めて欲しいまである
トラゾー ( 虎若 空翔
トラゾー ( 虎若 空翔
そう心の自分に言い聞かせ、俺はゆっくりと深呼吸して体の隅まで酸素を送る
数秒後、意を決してベルマークが描かれたボタンに指を重ねた
チャイム音が鳴ると同時に、部屋の中から微かにドタバタと物音が聞こえる
暫くして、奥から聞こえた足音が玄関に近づいているのがわかった
すぐにドアノブに手をかける音が鳴り、扉は予想以上に勢いをつけて開かれた
_ガチャ
?
目の前に立っていたのは、思っていたよりずっと若い男の人
多分、俺と同じくらいの年齢。でも、その顔つきにはどこか幼さと大人っぽさが混じり合っていて、不思議な印象を受ける
今の焦った表情を見ても、いかにも穏やかで、優しそうな人だと感じた
…しかし、格好は肩が見えるほどにぶかぶかなシャツを一枚着ているだけ
大きく開けた首元に目を向ければ、模様のように跡付けられた赤い点の数々
隙間から見える太ももには、半透明の白い液体が滴っている
そして…「今、見られたくない」、そんな気持ちが滲んだ瞳
さっきまで「うるせぇって言ってやろう」くらいに思っていたのに、自分でも驚いてしまうくらい言葉が出てこない
?
相手も戸惑っているようだった
そりゃそうか。知らない男がいきなり訪ねてきたんだから
…それよりも、なんだろう…この感覚
心臓の奥が、じわっと熱くなる
胸の奥が、なんだか暖かくて苦しくて…
あれ、俺…何しに来たんだっけ?__
?
トラゾー ( 虎若 空翔
?
クロノア ( 黒井 乃明
トラゾー ( 虎若 空翔
俺は何とか声を絞り出して、荷物を黒井さんに差し出した
クロノア ( 黒井 乃明
クロノア ( 黒井 乃明
受け取る手は、どこか細くて、でも指先はしっかりとしていた
何も喋れない俺を不思議そうに見つめて、そのままドアが閉まりかけた瞬間、俺はようやく目的を思い出した
…ーーそうだ、苦情を言いに来たんだった
トラゾー ( 虎若 空翔
反射的に、大きく声を上げる
黒井さんは、少し驚いた表情で俺を見た
クロノア ( 黒井 乃明
…待て、これ今文句言う流れか?
黒井さんの表情も、どこか警戒しているように見える 俺の視線を避けるように、肩を少しすくめていた
トラゾー ( 虎若 空翔
トラゾー ( 虎若 空翔
クロノア ( 黒井 乃明
クロノア ( 黒井 乃明
その言葉を最後に、黒井さんは部屋の中に戻っていった
今更ながら、文句を言えなかった自分を怒鳴りたくなった
…でも、言えなかったんだ
この人の目は、どこか寂しそうだったから
そして俺は、なんとなくだが…気づいてしまった
もう、あの人のことを忘れられないってことに