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電車の揺れがやけに大きく感じた
窓の外の景色が、ゆっくり流れていく
見慣れないはずなのに、どこか懐かしい気がした
刹那
小さく呟く
その理由がわからないことが、少しだけ不安だった
手の甲を見る
『しぐれに会え』
少しずつ、文字が薄くなっている
指でなぞると、インクがにじんだ
刹那
声に出してみる
それだけで、胸がきゅっ、と締め付けられる
でも
顔が思い出せない
どんな声だったのかも、わからない
刹那
ぽつりと落ちた言葉に、自分で 少し驚く
大事な人のはずなのに
どうしてこんなに曖昧なんだろう
カバンの中を探る
何か手がかりがあるような気がして
指先に触れたのは、一枚の写真だった
取り出して、見る
そこには、二人の人影が写っていた
一人は自分
制服姿で、少しだけ笑っている
その隣に、誰かいる
-----でも
刹那
顔が、わからない
ぼやけているわけじゃない
ちゃんと写っているはずなのに
認識できない
そこに、"誰か"がいるのに それが誰なのかわからない
刹那
息が浅くなる
おかしい
こんなの、おかしい…
写真なのに
ちゃんと写っているのに
ちゃんと、見えているのに
どうして、わからないの
視界が、少し揺れる
その時だった
ぽつり、と
窓に、雨粒が落ちた
一滴
また一滴
気付けば、小さな雨が降り始めていた
その音を聞いた瞬間----
ふっ、と意識が遠のく
時雨
ぽつぽつと雨が降る帰り道
中学三年の放課後
傘は一本はしかなくて、自然と二人で入る形になっていた
刹那
少しだけ近い距離に、心臓がうるさくなる
隣には、時雨がいた
いつもみたいに、少しだけ柔らかく笑っている
時雨
前を見たままぽつりと言う
時雨
刹那
思わず変な声がでた
刹那
笑いながら返すと、時雨は少しだけ首をかしげた
時雨
その言い方が、少しだけ引っかかる
刹那
気付けば、そう答えていた
時雨は一瞬目を細めて、それから小さく笑った
時雨
沈黙が落ちる
雨音だけが静かに続く
少しして、時雨が言った
時雨
今度はこっちを見て
時雨
刹那
時雨
軽い口調なのに、胸がざわつく
刹那
強く言う
刹那
その言葉に時雨は少しだけ驚いた顔をして、それから困ったみたいに笑った
時雨
その後ぽつりと
時雨
少しだけ、声が柔らかくなる
時雨
雨音に混ざるくらいの、小さな声で
時雨
--------約束な
そう言って、時雨は笑った
刹那
はっ、として顔をあげる
電車の中
さっきまでの景色が、目の前に戻ってくる
刹那
息が少しだけ乱れている
夢?
違う
あまりにも、ハッキリしていた
胸の奥に何かが残っている
暖かいのに、痛い
でも
刹那
その記憶の中の人物が、わからない
声も、顔も
全部、ぼやけている
さっきまで、あんなにハッキリとしていたのに
どうして
どうして、思い出せないの
手の甲を見る
『しぐれに会え』
その文字だけが、かろうじて 残っている
刹那
理由はわからない
でも、それだけはわかる
ぎゅっと手を握る
窓の外では、雨が少し強くなっていた
その音が、何故か懐かしくて
同時に、どうしてもなく切なかった
刹那