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おばちゃんが立ち去ったのち、町夜はふと辺りに視線を巡らせた。
道沿いに立つ木造の掲示板に、ポスターがパタパタと風に揺られている。
それは風雨に晒された古い広報ポスターで、「暮らしの相談・村の歴史記録は公民館へ」と記されている。
町夜
町夜
町夜は畦道の石垣や崩れかけた階段を軽やかな足取りで蹴り上げた。
村のほぼ中央に位置する古びたコンクリート造りの建物を目指し、鋼のように引き締まった筋肉をしなやかに躍動させ、見事な跳躍と身のこなしで起伏のある村道を駆け抜けていった。
町夜は公民館の前に、ズシャーッと滑り込むように着地した。
町夜
自動ドアをくぐって館内に入ると、少しひんやりしており、ひとけのない静けさが待っていた。
用事のありそうな村人の姿はなく、閑散としたフロアの正面にある受付窓口に、町夜と同年代とおぼしき女性の職員がひとり、退屈そうに座っている。
町夜
町夜は受付のカウンター前で上体を沈め、厚みのある大胸筋と上腕二頭筋を隆起させるポーズを決めながら、写真を差し出す。
町夜
静まり返った公民館に突如として出現した圧倒的な肉体美。
女性職員――高橋は持っていたボールペンを取り落としそうになりながら目を丸くした。
一瞬呆気に取られた後、高橋は頬を微かに赤らめ、堪えきれずにクスリと笑みを零した。
高橋
高橋
高橋は差し出された写真を覗き込み、小さな子どもの姿を見つめる。
高橋
高橋
高橋
高橋
高橋は受付の脇から出てくると、町夜を連れて奥の資料閲覧コーナーへと歩き出した。
木製の長机の周りには、年季の入った地方紙のスクラップブックや、埃をかぶった村の記録綴りが整然と並べられている。
町夜は写真の右隅に印字されたオレンジ色の「撮影日の日付」を手掛かりに、棚に並ぶ分厚い地方紙のスクラップブックから該当する年の冊子を抜き取った。
黄ばんだ紙面を一枚一枚めくっていくと、やがて不穏な太字の見出しに目が留まった。
町夜
『山間の村で女児行方不明 現代の神隠し』
記事には、行方不明となった女児の写真が小さく掲載されていた。 その顔立ちは、町夜の持つ写真で自分と手をつないで笑っていた子どもの面影と、紛れもなく一致していた。
本文には、女児の名が「佐藤 セナ」であること、夏休みのとある日に忽然と姿を消したこと、そして争った形跡も履き物などの遺留品も一切発見されていないことが記されていた。
さらに数ページめくると、わずか数週間後の日付で続報が掲載されている。
『行方不明の女児の捜索 昨日打ち切り』
警察や消防、地元青年団による山狩りも空しく手掛かりは皆無のまま、捜索は打ち切られたとあった。
それ以降、彼女に関する記事は完全に途絶えていた。
祖母の言った「神隠しということになっている」という言葉、そしてあの悪夢で巨大な歯列に噛み砕かれていた子どもの姿が、町夜の脳裏で重なり合った。
町夜は重苦しい気分のままスクラップブックを閉じ、公民館の外へ出た。
その直後、こちらに近づいてくる小走りの足音が聞こえ、町夜は足を停めて振り返った。
先ほどの受付の女性職員――高橋が周囲を気にしながら町夜に近寄った。
高橋
高橋
高橋は声を潜め、困惑と好奇心が入り混じった眼差しで町夜を見上げる。
高橋
高橋
高橋
町夜
町夜が高橋に問い返そうとしたその瞬間、建物のほうから年配の男性の怒声が響き渡った。
「高橋くんッ! いつまで油を売ってるんだ! 早く持ち場に戻りなさい!」
高橋
高橋は慌てて町夜に小さく頭を下げると、小走りに公民館へと戻っていった。
町夜
町夜
町夜は再び公民館の自動ドアをくぐり、受付に座る高橋の前に立った。
町夜
「ゴホン、ゴホンッ!」
奥の執務スペースから先ほどの上司が、わざとらしくと厳しい咳払いを響かせた。
職員たちの冷たい視線が突き刺さる中、高橋は気まずそうに身を縮こまらせ、申し訳なさそうに両手を合わせた。
高橋
高橋
町夜はこれ以上の滞在は彼女の立場を危うくするだけだと察した。 引き下がることにして、公民館を後にした。
町夜は「佐藤セナ」という友人が神隠しに遭ったという事実を胸に、あてもなく村の道を歩いていた。
すると、道沿いの石造りの階段に腰を下ろして日向ぼっこをしている、ひとりの老人の姿が目に入った。
それは見覚えのあるおじいさんだった。 子どもの頃、祖母の家の近所でよくおやつをくれたり遊び相手になってくれた記憶がある。
町夜がおじいさんの前で足を止ると、彼は目を細めて穏やかに声をかけてくる。
「ああ……茂武さんとこの孫かい。帰っとったのか。久し振りだねえ、立派になって」
町夜
町夜
町夜は青空の下で分厚い胸板と均整の取れた上腕を強調する見事なサイドチェストのポーズを決めてみせた。
石段に腰掛けていたおじいさんは、目を丸くして手を叩いた。
「ほっほっほ、こりゃあたまげた! 子どもの頃はあんなに小さかったのに、見違えるように立派な身体になりおって。よく覚えておるよ、あの頃は毎日のように元気に駆け回っておったのう」
おじいさんは皺だらけの顔を綻ばせて昔話に頷いてくれる。 かつて可愛がってくれた記憶そのままの、温和で懐かしい人物だ。
町夜の脳裏に、先ほど公民館で高橋から投げかけられた「土地神様をお祀りしている特別な家の人」という言葉が自然と思い起こされた。
町夜
町夜
町夜が真剣な面持ちで尋ねた瞬間、おじいさんの皺だらけの顔が凍りついた。
あんなにも親しげだった好々爺の表情は見る見るうちに険しさを増し、老人は低い声を絞り出す。
「……あの家の者が、妙な詮索をするんじゃない」
おじいさんはすっくと石段から腰を上げると、町夜が引き止める間もなく、足早に坂道を下りて去っていってしまった。
︙
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町夜が疑問と不安を抱えたまま歩くうちに、太陽は西の山並みの向こうへと沈み始め、村全体が濃い茜色に染まっていった。
町夜は気分転換を兼ね、村に唯一存在する小さな商店へと足を向けた。
日用雑貨や酒を扱う古びた商店の軒先に差しかかったちょうどその時、ひとりの女性が店の引き戸から出てきた。
それは、昼間公民館で知り合った、仕事を終えて私服に着替えた高橋だった。
彼女は町夜の姿を認めると、驚いたように目を丸くし、それからほっとしたようにはにかんだ。
高橋
町夜
高橋はこの商店で買ったばかりなのか、手に持っていた缶ビールを掲げて見せ、少し悪戯っぽく微笑んだ。
高橋
高橋
町夜
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