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この小さな村の商店は、角打ちを兼ねている。
町夜は高橋からの誘いに応じて商店の中へと入った。
彼女から缶ビールを受け取り、冷えたアルミのプルタブを弾いた。 二人はビールで喉を潤す。
アルコールの苦味が、張り詰めていた神経を僅かに解きほぐしていく。
町夜が、村人たちが土地神や神隠しの子どもの話題になると一様に口を閉ざしてしまう頑なさに疑問を漏らすと、高橋は缶を傾けながら不思議そうに首を傾げた。
高橋
高橋
高橋
高橋
高橋
高橋は眉を寄せて思い出そうとするが、はっきりとした名は思い出せないようだ。
町夜が実家にある古いダイヤル式の金庫について何気なく口にすると、高橋は「ああ、文字合わせの金庫ね」と頷いてみせた。
高橋
高橋
そこまで言って、高橋はふと真顔になり、声を一段落として町夜の顔を見つめた。
高橋
高橋
高橋
世間話を交えながらビールを一本空けた頃、高橋はほんのりと頬を朱に染め、町夜の逞しい体躯を少し照れくさそうに見つめた。
高橋
高橋
高橋
その眼差しには、単なる親切心以上の熱が仄かに宿っていた。
高橋は名残惜しそうに空き缶を屑籠に捨てると、別れ際に振り返って言った。
高橋
高橋
高橋
高橋と商店で別れたあと、町夜は祖母の家へと戻り、祖母の手料理を食べた。
町夜が夕食を終えて自室へ向かおうと廊下を歩いていると、あの古い金庫が視界の端をかすめた。
祖母はちょうど風呂に入っており、家の中には町夜ひとりだ。
町夜
町夜は深く息を呑み込み、僧帽筋から広背筋、脊柱起立筋に至る背面の筋群を完璧に連動させ、肉体に凄まじい内圧を張り巡らせた。 神経と筋繊維が極限まで研ぎ澄まされ、気合は十全に満ちる。
町夜は低く腰を落とし、仏間の隅の金庫を抱え込むようにして両腕を回し、規格外の筋力を込めて一気に引き上げようと試みた。
ミシミシッ……!
古びた畳が悲鳴を上げ、沈み込む。
しかし、年代物の金庫は優に数百キロを超える鉄の塊。まるで根を張っているかのようにビクともしない。
たとえ町夜の剛力をもってしても、これを一人で抱え上げて誰にも気づかれずに運び出すなど物理的に不可能だった。
町夜は金庫を動かすことを諦め、勘を頼りにダイヤルを左右へと交互に回してみた。
無数に存在する文字の配列を前に、当てずっぽうの解錠が通用するはずもない。 内部の閂は噛み合ったままで、金庫の鉄扉はビクともしなかった。
その時、廊下の奥から風呂場の引き戸が開くガラガラという音が響いた。
祖母がこちらへやって来る気配を感じ取った町夜は、素早く金庫の前を離れて自室へと戻った。
三日目の朝。
居間へ行くと、今朝も食卓には一人分の素朴な朝食が並べられていた。
町夜が朝食を平らげた頃、玄関の引き戸が開き、祖母が外から戻ってきた。
町夜がどこへ行っていたのかと何気なく尋ねると、祖母から「ちょっとそこまでだよ」と素っ気ない返答。 毎朝、どこかへ日課の用事に出かけているようだ。
柱時計を見れば、まだ午前中の早い時間。
高橋が「土地神の資料を用意しておく」と言っていた約束の時間は、お昼頃だ。 それまでにはまだ時間がある。
昨夕、高橋が口にしていた「祖母の家の裏山を登ったあたりにある小さな祠」という言葉が、町夜の頭に浮かび上がった。
町夜は祖母の家の裏手に回り、生い茂る木々の隙間から裏山へと足を踏み入れた。
真昼に近い時刻であるにもかかわらず、鬱蒼と重なり合う樹々の葉が日光を遮り、山道は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。
草を踏み分け、急な傾斜を登っていくと、やがて視界がふと開けた。
木々に囲まれた小さな平地に、雨風に晒されて黒ずんだ、木造の小さな祠がぽつんと鎮座していた。
祠の前には、真新しい水と包みの饅頭が供えられている。 埃も被っておらず、つい先ほど置かれたばかりのようだ。
祖母が毎朝どこかへ出かけていたのは、この祠へのお供えのためだったのだろう。 土地神を祀る家系であるという事実が信憑性を帯びる。
町夜は祠に近づいた。
祠の扉は閉ざされ、風化して苔生した小さな木札が打ち付けられていた。
町夜
長年の風雨に晒された木札の表面は、びっしりと苔に覆われ、刻まれた溝も摩耗して浅くなっている。
何らかの古い漢字が二文字ほど彫り込まれていることが窺えるが、木々に遮られた薄暗い光の下では、判読することは難しい。
町夜
町夜は小さな観音開きの扉に手をかけ、手前に引いた。
施錠はされておらず、湿気を吸った木がギィ……と低く鈍い軋み音を立てながら、ゆっくりと開け放たれる。
祠の内部には、何かを安置するための小さな木製の台座が設えられていた。
しかし、周囲を覆う鬱蒼とした樹木の影に遮られ、祠の奥まで外の明かりは届かない。 何かが祀られているのか、外から眺めただけでは窺い知ることはできない。
町夜
町夜は気合いを込め、スマートフォンのライトを点灯させ、祠の奥を覗き見た。
照らし出された祠の内部には、小さな木製の台座が据えられていた。
しかし、そこに安置されているべき御神体の姿は、どこにも見当たらなかった。 像も、鏡も、御札すらもなく、台座の上は「空っぽ」だった。
その核心にあるべき神聖な存在が欠落している不可解さと、触れてはならない神域の奥底を暴いてしまったという強烈な畏敬の念が、冷たい悪寒となって町夜の背筋を駆け上がる。
🎲 茂武 町夜【SAN値チェック】➔ 成功
背筋を撫でた薄ら寒い悪寒を、町夜は強靭な自制心でねじ伏せた。
呼吸を整え、空っぽの台座を見つめ直す。
祖母が毎日欠かさず祀り続けている場所に、祀られるべき御神体が存在しない。 ならば、本来ここにあるべきものは、一体どこへ持ち去られたというのか――。
#TRPGリプレイ
あさくら
86
#大人ロマンス