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その声に届くまで

第25話 - 25

121

2025年04月13日

#ウインドブレーカー

#WIND BREAKER

水飛　怜

男

おい姉ちゃん俺たちといい事しようぜ

女

や、やめてください…！

男

そんなこと言わずにさ〜

桐生

…あの、何してるんですか

男

あ？

男

って、そこら辺のお坊ちゃま学校の奴じゃねえか

男

そんな奴が話しかけてくんなよ

桐生

困ってるでしょ、その人

女

っ…！

男

……なに？喧嘩売ってる訳？

男

こっちは大勢いるってのに？

男たち

あいつばかだなw

男たち

この人に喧嘩を売るなんて

男たち

どうせやられるだけだろ

男たち

滑稽だなw

女

あの…

桐生

下がってて

桐生

全部俺がやるから

俺は女の子を助けるために 100人近くのチームにケンカを売った

最初こそ順調だったけど相手がバットやナイフを持ってて

桐生

っ"…！！

男たち

はっ、どうせこの程度じゃねぇかw

男たち

これで…終わりだ！！

バットが振り下ろされて俺は思わず目を瞑った

だけど痛みは来なかった

桐生

…！

鈴蘭

…お前ら、こんなとこで何してんの？

男

っ……！お前は、あの時の…！！

男たち

やばくね？

男たち

あいつって確か…

男

怯むなお前ら！！

男

こんな奴1人で俺たちに勝てるわけが…

その瞬間大きな衝撃音が響いた

バットを振っていた男がいつの間にか倒れていた

桐生

なっ……

鈴蘭

…私たちのシマで暴れんな

鈴蘭

ゴミ風情が

男たち

っ……てめぇ！！

男たち

ぶっ殺してやる！！

鈴蘭

仲間がやられたら吠えるだなんて

鈴蘭

馬鹿みたい…

そう言って煽るように笑うその人は俺たちの方を見て言った

鈴蘭

下がってて

鈴蘭

怪我してるんだったら余計に

男たち

よそ見、

鈴蘭

してねぇよ

次々と相手を倒していくその人を俺たちは見てることしか出来なかった

桐生

…すごい…………

桐生

この量を、1人で…

鈴蘭

…大丈夫？

桐生

え

鈴蘭

えってなに

鈴蘭

頭殴られたんでしょ

桐生

俺は大丈夫……

鈴蘭

貴方は……

女

あっ…私はこの人が守ってくれたので傷1つないです…！

鈴蘭

へぇ…そこら辺のお坊ちゃま学校の人が…

桐生

その呼び方、やめてくれる……

鈴蘭

名前は

桐生

桐生三輝

鈴蘭

…じゃあ桐生でいっか

鈴蘭

私は紫宮鈴蘭

鈴蘭

よろしく

それが俺と鈴の出会いだった

女

…あの……！

女

おふたりとも、ありがとうございます！！

桐生

俺は最後まで戦ってないし…

鈴蘭

私も途中からだし

女

守ってくださったことには変わりないので…！

鈴蘭

…ここの中でなら

鈴蘭

いつだって助ける

鈴蘭

だからその時は呼んで

桐生

…！

俺はその時、鈴に強い憧れを抱いた

かっこいいと、そう思った

鈴蘭

もう帰った方がいいよ

鈴蘭

また絡まれるかもしれないし

女

じゃあ、また！

鈴蘭

うん

桐生

また

鈴蘭

………っ！

その時、鈴は地面に座り込んだ

桐生

！？

桐生

どうしたの、急に

鈴蘭

っ……いや、なんでもない

鈴蘭

それより、君は帰らなくていいの

桐生

それは君もでしょ

鈴蘭

私は……もう少しここにいないと

桐生

じゃあ君が帰るまでいるよ

鈴蘭

……物好きだね

鈴蘭

まぁいいや

鈴蘭

君、高校はどこに行くの？

桐生

今のところは風鈴かな

桐生

そっちは？

鈴蘭

風鈴に行きたい…けど

鈴蘭

多分無理だろうね

桐生

なんで？

鈴蘭

……聞きたいの？

桐生

うん

鈴蘭

なんで

桐生

俺たちもう友達だし

桐生

お互い喧嘩したところ見たんだから、もう隠すことも無いでしょ

鈴蘭

それはそうか…

鈴蘭

…私ね、最近両親を事故で亡くしたの

桐生

え……？

鈴蘭

そのせいで、夜も全然眠れなくて

鈴蘭

ご飯もろくに食べれてない

鈴蘭

散歩してたら急に事故のことを思い出すし

鈴蘭

そうなったら呼吸に専念しないといけないくらい

鈴蘭

…ほんと、めんどくさい体になったよ

鈴蘭

そしてもうすぐ、遠い親戚に引き取られるの

鈴蘭

だからここもすぐ離れる

鈴蘭

本当は風鈴に行きたかったけど……

桐生

…俺が連れ出してあげる

鈴蘭

え？

桐生

苦しくなったら、俺が助け出す

桐生

だからその時は俺を呼んで

鈴蘭

……ははっ、そんなの言われたの初めてだよ

鈴蘭

じゃあ…助けてくれる？

桐生

もちろん

鈴蘭

……！

鈴蘭

ありがとう、桐生

その後鈴が話してくれた内容は今でも忘れられない

鈴は両親を亡くした後生きる気力がなくなっていた

幼馴染や親戚の慰めの言葉も鈴には家族がいる自慢にしかきこえなかったらしい

急に1人になったストレスや事故のショックで鈴はPTSDを発症した

薬を飲んでも喧嘩をしていても家に1人でいる寂しさは消えなかった

それを聞いて俺は思った

もう手遅れだ、と

救う余地がない

救われる余地がない

助けるだなんて無責任な言葉はこの子には何にもならない

鈴は、もう既に堕ちていた

桐生

だけどね、桜ちゃん

桐生

君は違う

桜

は………

桐生

桜くんは周りから受け入れられなかったことがトラウマに似たものになってる

桐生

だけど風鈴にいる事で考え方がだいぶ変わったみたい

桐生

桜くんは救われるべき人間

桐生

鈴が言ってた言葉だよ

桜

………なんだよそれ

十亀

ねぇ、それってさ

十亀

鈴のトラウマは昔からのものだった…ってことだよね

桜

……そう、なるんだろうな

兎耳山

それをずっと隠すのって、すごく大変な事だよね？

十亀

そうだねぇ……

十亀

それを隠し通した…

十亀

鈴には敵わないなぁ……

桐生

…許してあげてね

桐生

鈴が最善を考えた結果だから

桐生

信じてあげて欲しい

桜

信じないわけないだろ

桜

あいつがそういう性格だってのはわかってる

桐生

……！

桐生

桜ちゃん、優しいね

桜

なっ…！！

桜

なんでそうなるんだよ！！

十亀

顔真っ赤だねぇ

桜

うるせー！！

桐生

とはいえ、鈴の病気のこと梅宮さん達はわかってるんじゃないかな

桜

そのくらい信用してるってことか？

桐生

あ、そうじゃなくて

桐生

鈴は隠すの下手だから

桐生

ね

鈴蘭

酷くない？

桜

お前……起きてたのかよ……！！

鈴蘭

ついさっきね

兎耳山

桜ちゃんが騒いでたからかな？

桜

なんだその言い方！！

鈴蘭

でも事実だよ

鈴蘭

桜くんの声で起きた

桜

っ〜〜！！

桜

お前なぁ！！

鈴蘭

それより、どこまで話したの？

桜

聞けよ！

桐生

鈴のトラウマは昔からってこと

鈴蘭

えぇ…それほぼ全部じゃん

鈴蘭

まぁいいや

桜

…なあ鈴

鈴蘭

どうしたの、桜くん

桜

お前は俺の事を救われるべき人間って言ってたんだろ

鈴蘭

……そうだね

桜

そうだね…って……！

桜

ならお前はどうなんだ！！

桜

お前だって俺と同じだろ！

桜

お前も、絶対に救われ────

鈴蘭

違う

桜

なにが、なにが違うんだよ…

桜

お前は……っ

鈴蘭

……紫宮鈴蘭は、両親を見殺しにした人殺し

桜

はっ………？

鈴蘭

ずっと言われてたんだ、私

鈴蘭

私のお母さんとお父さんは、生きるべき人だった

鈴蘭

お前は違う…って

鈴蘭

……本当は分かってた

鈴蘭

事故にあった日、遊園地に行こうって誘ってくれたのは

鈴蘭

私が見たことの無い景色を見せるためだって

鈴蘭

お母さんもお父さんも優しいからさ

鈴蘭

だからこそ、そんな2人の間に生まれた私は異端だった

鈴蘭

喧嘩ばかりで女の子らしくない

鈴蘭

愛想も良くない

鈴蘭

あの頃の私は、嫌なことでも笑顔で引き受けることを知らなかった

鈴蘭

みんな優しい人を求めてる

鈴蘭

だけど生き残ったのは私だったから

鈴蘭

周りの人は、なんでこいつがって思ってたんだろうね

鈴蘭

………だからかなぁ

鈴蘭

私はずっと生きてる心地がしなかった

鈴蘭

…お母、さん…

鈴蘭

お父さん……っ

孤独で眠れなかった夜

同級生

消えろよ人殺し！

同級生

お前が死ね！！

登馬達のいない所でされる陰湿ないじめ

先生

紫宮がいるせいで全部めちゃくちゃだよ！！

先生

知らないだろうけどな、クラスメイトの保護者からいっぱい電話来てんだよ

先生

お前がいるクラスに子供を預けられないってな

先生

何のために生きてんだよ

先生

何のために生まれてきたんだお前は！！

ひたすら繰り返される人格否定

鈴蘭

だからって、登馬達に頼ることはできなかった

鈴蘭

誰かに迷惑をかけるくらいなら死んだ方がマシだって思った

鈴蘭

ずっと消えたかった

鈴蘭

そのモヤモヤを喧嘩でしか発散出来ない自分に、余計嫌気が差してた

鈴蘭

……だけど、桜くん

俯いていた鈴が顔を上げる

桐生

っ………！

諦めたような笑顔には到底希望がないようには見えなかった

鈴蘭

君は、違うでしょ

鈴蘭

君は喧嘩で変わった

鈴蘭

最初は1人だった君の周りに

鈴蘭

段々人が増えていった

鈴蘭

いつも君の隣には人が居るようになった

鈴蘭

そうでしょ？

桜

…！

鈴蘭

それは君が創り上げたんだよ

鈴蘭

君が人を守り、人を信頼した証

鈴蘭

私と一緒だなんて、そんなことない

鈴蘭

君は、幸せになるんだよ

桜

……俺が、幸せに……？

鈴蘭

うん

桜

……だったら

桜ちゃんが鈴の腕を掴んだ

それに鈴は目を見開く

桜

お前が生きる希望を持って幸せになる

桜

そうなるまで、俺は幸せじゃない

桜

お前が幸せにならなかったら俺は幸せになんかならない

鈴蘭

…どうして？

鈴蘭

私がいなくたって、君は幸せになれるのに

桜

俺はそれが幸せだって認めない

桜

俺の幸せは俺で決める

鈴蘭

なに、それ

鈴蘭

どうしてわざわざそんなことするの？

鈴蘭

桜くんは、幸せになりたくないの？

桜

……なりたいよ

桜

だから、俺らがお前を幸せにさせる

鈴蘭

え……？

桜

お前が幸せになれば、俺も幸せになれんだ

桜

一石二鳥だろ？

鈴蘭

……！

桐生

…俺、鈴に幸せになってほしい

桐生

だからこそ、風鈴に隠す必要はないと思う

鈴蘭

桐生…

桐生

隠したいのもわかる

桐生

でも風鈴には鈴を否定する奴なんか1人2人しかいないよ

桐生

それにこのまま隠し続けたら

桐生

苦しくなるのは鈴じゃない？

鈴蘭

……でも

桐生

大丈夫

桐生

俺が隣にいるから

兎耳山

…ねえ鈴ちゃん

兎耳山

鈴ちゃんはさ、梅ちゃん達のこと嫌い？

鈴蘭

え……っ

鈴蘭

…嫌いじゃない

鈴蘭

風鈴も商店街のみんなも大好きだよ

兎耳山

だったらきっと、みんな鈴ちゃんの味方だよ

兎耳山

俺ね、前に獅子頭連のみんなを傷つけたんだ

兎耳山

ずっと信じてくれてる人がいたのに、それに気づかなかった

十亀

ちょーじ……

兎耳山

でも今はその時よりも周りが見えてると思う

兎耳山

勝手に決めつけたり、縛るんじゃなくて

兎耳山

お互いが気持ちを伝え合って、それを理解する

兎耳山

そうしたら俺、今すっごく幸せなんだ！

兎耳山

だから鈴ちゃんも話してみなきゃ分からないかもしれないよ

鈴蘭

兎耳山くん……

鈴蘭

…………そう、だよね

桐生

…！

鈴蘭

風鈴なら、大丈夫…だよね

繋いだ手から微かに震えが伝わってくる

その震えを抑えるために俺は少しだけ力を強くした

桐生

大丈夫だよ、きっと

十亀

俺達も応援してるよ

鈴蘭

本当…？

兎耳山

もちろん！！

鈴蘭

…ありがとう

今度の笑顔はとても嬉しそうだった

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水飛　怜

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