幸せな人生を送った人はあっちでも幸せになれる、と教えられた
だから俺は幸せが何か考えてきた。
成仏できていないから、俺は人間として生きた弱冠までの人生
悔いはなかったはずなのに、どこか気が弾まなくて
ふと、家ではないどこかに”帰りたい”と思うようになっていた
生きているうちには叶わなかったが、今はこうして違った姿で
食料、睡眠気にせずに探せる。
帰りたいと願ったどこかを。
ひとつ、おばけとしていいことがある。
それはなにか。
擬態、というもの。
変身ではないから、そのものになれるわけではないが、
姿形は似せられる。
つまり、中身のない動物に変身できるわけだ。
中身がないって生々しい感じがして
幽かに涙のしょっぱい味がした。
とても懐かしい味だった。
今日は死んでから100年と数年の誕生日。
可愛らしい来客がやってきた。
かわいい顔が少し曇って
泣きそうな顔で笑うから
勇気を出して話しかけた。
かわいいお客さんの背中に触れて、多少の返事をした。
話す機会がないからか、標準語がとてもへたっぴになっていた。
驚かせてしまったようで、ぴくりと背中が揺れると同時に
くせっ毛の髪の上に、髪の色を少し水でうすめたような灰色と黒の間の色の耳がぴょこりと周囲の音を聞き分けている。
怖いのか必死に周囲を見渡すお客さんは、
食べられないように警戒する小動物のようだった。
ちょっと冷たい手を掴もうとしたけど、
生きていない俺には届かなくて。声と見せられる形で俺を見つけてもらおうとした。
彼は複雑な表情で首をかしげて不思議そうにして、
俺に問いかけた。
地面に近づくほど薄くなっていく下半身を指さして、笑って見せた。
そんな目で見ないでほしい。
なんかの記憶を思い出しそうで。
知らない自分を知りたくなくて。
憐れみなのか皮肉なのか、悪気はないんだろうけど
一人で生きてきた俺にはとても刺さる言葉だった。
辛いとか悲しいは覚えていないけれど、
のどが痛くなるほど、涙が出そうなくらい心にきた。
そう打ち明けた時、彼は優しく破顔した。
化粧で白く、素顔が隠された顔に
涙がつーっと頬を伝って、垂直に落ちていく。
彼の顔はクマが酷かった。
犬かなにかだから、物はすぐに忘れてしまうけど、
いろんな何か、に悩んで生きてきたのだろう。
不意に出た言葉が、彼と俺を結び付けてくれる。
ただいま、死ぬ前の俺
おかえり、死んだ俺。
コメント
4件
なんかめっちゃエモい✨✨ 🐼さん誕生日おめでとうございます!!! お話きれいすぎてもはや水(?) そして借金!!!! めっちゃたのしみ🤭🤭✨✨
返信忘れてましたシチュも関係も最高すぎます大好きです(全力焼き土下座) 切なくて最高すぎる本当にありがとうございます😭😭😭怪異パロ書いてくださってありがとうございます…………………🙏🙏幽霊の表現とか本当に好きです!!!!!!(語彙力) 毎日拝ませてもらいます…🥲🫶💕