西園寺 椿
……。
西園寺 椿
[窓を見たあと、スケッチブックを用意する]
西園寺 椿
(……来るとか言ってたけど……本当に……大丈夫なのかな……。)
その時、窓の方から
コンコンコンッ
とノックする音がした。
西園寺 椿
え?
西園寺 椿
[窓の方を見た]
西園寺 椿
ええぇっ!?
西園寺 椿
ちょ、窓からって聞いてませんよ!?
ウラヌス
……。
ウラヌス
まずは、挨拶だろ。
西園寺 椿
あ……こんばんは!
西園寺 椿
じゃなくて!!!
西園寺 椿
なんで窓からなんですか!?
西園寺 椿
貴方、不審者ですか!?
ウラヌス
……お前、頭悪い?
ウラヌス
普通は……この時間帯、人間は起きてないだろ。
西園寺 椿
そ、そうだとしても!!!
西園寺 椿
窓からは、不審者ですよね!?
ウラヌス
……別に、用事あるんだから、どうでもいいだろ?
西園寺 椿
どうでもよくないです!!!
あーだこーだ言いながら
ウラヌスは、靴を脱いで
椿の部屋に入った。
ウラヌス
……ふぅん……。
ウラヌス
此処、お前の部屋なんだ……。
西園寺 椿
そうですけど……。
西園寺 椿
えと!取り敢えず!!!
西園寺 椿
貴方には、私が絵を描く人のモデルになってもらいます!!!
ウラヌス
……うん。
西園寺 椿
えと……窓の淵?って言うのかな……。
西園寺 椿
そこに、私の方を向いて座ってくれませんか?
ウラヌス
こう?
西園寺 椿
あ!そうです!!!
西園寺 椿
[スケッチブックを開く]
西園寺 椿
そのままキープしてて下さいね。
ウラヌス
……分かった……。
西園寺 椿
(……綺麗だなぁ……。)
西園寺 椿
(なんだろう……肌が白くて……背が高くて……でも少し細身で……。)
西園寺 椿
(……金色と赤色の瞳……綺麗だなぁ……。)
西園寺 椿
(……お兄ちゃんも同じ瞳をしてるらしいけど……。)
西園寺 椿
(お父さん達は……その瞳を『嫌ってた』んだよね……。)
西園寺 椿
(なんでそんなこと……思うんだろう?)
西園寺 椿
(こんなにも……。)
西園寺 椿
……綺麗なのになぁ……。
ウラヌス
…………?
ウラヌス
……綺麗……?
ウラヌス
……何が……?
西園寺 椿
ひぇっ!?
西園寺 椿
口に出てました!?
西園寺 椿
……えと……その瞳……綺麗だなぁって……思いまして……。
ウラヌス
……俺の瞳?
西園寺 椿
はい……。
ウラヌス
……それとさ……。
西園寺 椿
はい!
ウラヌス
……お前の兄について……話……聞かせて……。
ウラヌス
……俺に似てるって……なんか……気になったから……。
西園寺 椿
あ!はい!!!
西園寺 椿
えと……でもよく分からないんですよね……。
ウラヌス
どういうこと?
西園寺 椿
えと……私が生まれた頃には……お兄ちゃんは、消えてたらしくて……。
ウラヌス
……そう……。
西園寺 椿
……話によると、お兄ちゃんは『特病』持ちだそうで……『全身を動かせなかった』そうです。
ウラヌス
……。
西園寺 椿
……どんなに悪口を言われても……『ずっと笑顔で聞いていた』そうです。
ウラヌス
……不気味な奴……。
西園寺 椿
……でも……何か意味があるんだと……私は思うんです。
ウラヌス
……?
西園寺 椿
ほら……笑顔って……『楽しいから』笑うわけではないと思うんです。
西園寺 椿
……『助けてほしい』って……笑ってるのでは……とわたしは思います。
ウラヌス
助けてほしくて……笑う?
ウラヌス
……変な奴。
西園寺 椿
……あはは……そう思ってしまいますよね……。
西園寺 椿
それに……彼は、10歳までしか生きられないと医師に告げられたそうです。
ウラヌス
……じゃあ、その人……死んでるんじゃないの?
西園寺 椿
……でも……私は『お兄ちゃんは生きていると信じている』んです。
西園寺 椿
きっと……何処かに居るって。
ウラヌス
…………ふぅん。
西園寺 椿
……ウラヌスさんに、兄弟っていますか?
ウラヌス
……さぁ?
西園寺 椿
……?
ウラヌス
……俺には、『人間の頃の記憶がない』……だから、分からない。
西園寺 椿
……え……どういう事?
西園寺 椿
ウラヌスさんって……何者なんですか?
ウラヌス
……俺は『仮人間』だ。
西園寺 椿
かり……にんげん……?
ウラヌス
『人間では無い人間』って解釈でいい。
ウラヌス
……仮人間になる代わりに、人間の頃の記憶を取られるんだ。
ウラヌス
……まぁ、血の影響が強いんだろうな。
ウラヌス
その影響で……消えるらしい。
西園寺 椿
そうなんですね。
西園寺 椿
……って事は、やっぱり……ウラヌスさんって……人間じゃないですよね?
ウラヌス
……そうと言えるな。
西園寺 椿
……それと。
ウラヌス
なんだ。
西園寺 椿
……どうして『無表情』なんですか?
ウラヌス
…………さぁ?
西園寺 椿
……分からないんですか?
ウラヌス
……そんなの……俺は知らない。
ウラヌス
記憶が無いし。
西園寺 椿
そ……そうですよねぇ……。
西園寺 椿
って事は、ウラヌスって言うのは……仮名……なんですか?
ウラヌス
……うん。
ウラヌス
でも……別に……名前はこれでもいいし……。
西園寺 椿
名前あるのは……大切ですからね。
ウラヌス
……うん。
西園寺 椿
……よーし、線画が描けた!
西園寺 椿
あとは色……。
ウラヌス
……。
ウラヌス
……ねぇ。
西園寺 椿
ん?何でしょう?
ウラヌス
……絵を描くって、どんな気持ち?
西園寺 椿
……へ?
西園寺 椿
えと……楽しくて……夢中になります。
西園寺 椿
私、将来、イラストレーターになりたいんです。
西園寺 椿
だから、日々練習してるんです。
ウラヌス
……そうか。
西園寺 椿
ウラヌスさんは、夢ってありますか?
ウラヌス
……ない。
ウラヌス
……でも……強いて言うなら。
西園寺 椿
強いて言うなら?
ウラヌス
『感情を取り戻したい』……。
西園寺 椿
…………。
ウラヌス
……俺は、皆みたいに……笑えないし、泣けないし、怒れないし、楽しめない。
ウラヌス
だから……いつか、感情が戻ったら……って思う。
西園寺 椿
そうなんですね……。
ウラヌス
……うん。
西園寺 椿
戻ると……良いですね。
ウラヌス
……うん。
西園寺 椿
(双子が言ってた怖いイメージから……少しだけ離れたような気がする……。)
西園寺 椿
(……確かに怖いけど……実は……良い人なのかも……。)
西園寺 椿
……よしよし……良い感じ……。
ウラヌス
…………。
ウラヌス
(今……椿はどんな気持ちで、俺を描いているのだろう。)
ウラヌス
(感情……不思議だ……。)
西園寺 椿
……よし!
西園寺 椿
出来ました!!!
ウラヌス
……描けたの?
西園寺 椿
描けました!!!
西園寺 椿
見て下さい!!!
椿は、自信満々に絵を見せる。
その絵は、まるで本物のようだ。
月明かりに照らされた男の子が
こちらを向いている絵が
描かれてあった。
西園寺 椿
ウラヌスさん、描けましたよ♪
西園寺 椿
[凄く笑顔]
ウラヌス
…………。
ウラヌス
……上手だな。
西園寺 椿
えへへ♪ありがとうございます!
西園寺 椿
これで一つ目……。
西園寺 椿
これからも、モデルになってもらいますからね!ウラヌスさん!!!
ウラヌス
……まぁ、良いんだけど。
ウラヌス
……俺で良いなら。
西園寺 椿
ってか貴方じゃなきゃ描けません!!!
西園寺 椿
これからも宜しくお願いします!!!
ウラヌス
……やっぱり変な奴。
西園寺 椿
なっ!?むーっ!!!
ウラヌス
……。[小さく微笑む]
西園寺 椿
……!?
ウラヌス
[すぐ無表情に戻ってしまった]
西園寺 椿
(今……笑っ……た……?)
西園寺 椿
(描きたかった!!!)
西園寺 椿
(綺麗……!!!微笑みが!!!)
西園寺 椿
今笑いました!?
ウラヌス
は?笑ってないけど?
西園寺 椿
笑ってましたよ!!!
西園寺 椿
とっても綺麗です!
ウラヌス
……そう。
ウラヌス
……やっぱり変な奴。
西園寺 椿
む〜……。
西園寺 椿
[電池切れ。(寝た)]
ウラヌス
…………。
ウラヌス
……はぁ。
ウラヌス
……中学生はすぐに寝ろ。
ウラヌスは、椿のスケッチブックを
しまうと、椿をベッドに運んだ。
ウラヌス
……。
ウラヌス
……ん?
ウラヌスは、スケッチブックに
挟まってるメモを見つけた。
ウラヌス
……何これ。
ウラヌス
……。[読んでみる]
「お兄ちゃんは、絶対に見つける!この人が、お兄ちゃんに似てる人!!!」
と、しおりのように
さっきの絵の所に挟まれていた。
ウラヌス
……やっぱり……。
ウラヌス
……変な奴だな……。
ウラヌス
[ペンを持つと、紙に何か書く]
ウラヌス
……よし、帰ろ……。