私は、主人公のトリップの瞬間を おめでたい事に目撃した。
きっと神様は、私が絶望する瞬間を 見たかったから態々この場に 呼び寄せただと思う。
暫くの放心 そこからの起動
私、は主人公が元の十四歳の人格へと 変わるのを眺めていた。 そして、変わった主人公では無いただの少年の後ろ姿を見送り、
思い出したように神社へと向かった。
そうして神社に着けば駐輪スペースでもない場所に大量のバイクが所狭しと 並んでおり、上は上で騒がしい。
きっと原作キャラたちがご近所も考えず集会をしているのだろう。
思い出さなければ 懐かしんで向かうはずだった目的地は今じゃ別の目的でここに居る。
だからと言って今すぐ乱入する気もなく 少し待つ事にした。
バイクの陰に隠れてしゃがみ込めば 怖いモノは誰も近寄れないと思った。 こんな真夜中に、こんな連中に 説教垂れる正義感がある住人は来ないと思って安心した。
だって、私の存在がここにある限り 見つけられないのだから。 大人も警察もおとーさんも。
主人公、そして個性溢れる不良たち… 次々起こる抗争に、死人の出る時もある そんな『漫画』の世界に落とされた。
不思議と安心感から腰を落ち着かせて 片手で小石弄りながら思考を巡らせた。
ここまで来て冷静に物事を考える余裕が出来た所為か涙が溢れた。
私は、涙せずには居られなかった。
この話、 『東京卍リベンジャーズ』と言う漫画は 人が死なずには居られない。
『関わらなければ良い』 そう言う問題でもない。
バタフライエフェクト
蝶のはばたき一つで世界が変わる。 私は原作では居なかった。 つまり、物語は既に変わっている。
肥大化しすぎた巨悪の大組織、 良い奴ほどすぐ死ぬ世界、 女は犯され、男はミンチ、 犯罪や傷害や殺人が多発、 警察もお手上げ状態、 汚れた金の横領があるかも知れない、 逆らう者は皆スクラップ。
それが平然とはびこる世界が 今、まさに、 目の前で産まれたいと囁いている。
その可能性が万に一つ残っている。
それに 原作は完結していない。
主人公である花垣武道が折れずに 居られるのは原作であって この世界では無いかもしれない。
そんな絶望的な世界で どう立ち回ればいいと言うのだろう。
ユウ
最早、口癖になってしまった。 この言葉。
この言葉を繰り返す度に何でもかんでも 『無敵のマイキー』が 蹴り飛ばしてくれる気がしていた。
そうして安心に浸って、 弄っていた小石を投げて、その手で膝を抱き寄せた。
「「お疲れ様です。総長!」」
聴こえていたのは大きな怒号の様な挨拶 きっと今日の集会が終わったのだろう。
数名が石段を降りる足音と その奥から大勢が降りる足音が 耳を澄ませばより鮮明に聞こえてくる。
この場から逃げても家にいずれは帰る。 それが一番恐ろしい。
原作通りに進めば未来は 薬と暴力と金に溺れる世界の完成だ。 けど、今帰れば あの人が何をするか分からない。
それこそ、私が生きる意味を喪う。
覚悟を決めよう 変えるなら全てを変えよう
私は立ち上がり、涙を拭って 階段の脇で降りてくる人たちを待った。
私が運命を変えてやる
ユウ
どうか、勇気と力を下さい。 その無敵の力で守って下さい。
そんな願いを込めて
先頭を降りてきたのは やはり総長や副総長、隊長格だった。
『私が未来を変える』 そう意気込みながら挑もうとするも 声は上ずり、手は震える。
オタクだからでは無い。
馬鹿には分からないと思うが 関われば確実に死亡率は跳ね上がる。 既にこの場にいる時点で 未来をハッピーエンドにしない限りは ロクな死に方はしないだろう。
『パーちん』又は『馬地』と書いて 『馬鹿』と読むのは止めよう。
ユウ
少し前に考えた通り、 この世界を主人公が必ず救うとは 限らない。 そして、主人公がまたトリップした 世界が今の私とも限らない。
トリップの回数の分だけ私が居る。
良くて売られるか、 悪くて目障りだからとスクラップ。
仲良くなれば闇堕ちのために殺される。 そんな未来が待っている。
パジャマ姿で叫んだ。 その勇気をどれ程共感して貰えるか。
一瞬前まで興味がなかった双眼が 私の姿を驚くことも無く ただ、じっと様子を伺うように見た。
叫びたくなる程恐ろしい闇が見えた。
ユウ
たすけて、まいきぃ
見詰めるのは真っ黒な双眼。 きっとその持ち主がマイキーである。
詰んだ
マイキー?
マイキー?はくるりと後ろを振り向いて 後方に居るであろう人物に声を掛けた。 先程の視線は嘘のように軽い声だった。
列からガッシリとした体格の人と その後ろに背の高く細い人が 私の前へ出る。
ユウ
林田春樹/パーちん
この人がパーちん… それで、後ろがぺーやんかな…
目の前にはあの二人が居る。 その後ろからは次々と降りてくる。 隊員たちは私を訝しげに見る。
聞こえなくないように声を張った。
ユウ
ユウ
ユウ
次第に俯きがちになったのは必然で、 視線は爪先をじっと見詰めていた。 声も震えている。
ユウ
ユウ
次第に返事を聞くのも怖くなって 目の前が揺らいだ。
顔を上げられない。
あ、涙が
溢れた涙は、零れ落ちた。
コメント
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続き気になる!主さんの頑張ってください!