SOSがあっても
弟のお見舞いから帰ってきて
手を洗おうとキッチンに入る
𝑁.
足でなにかを踏んだような感覚
かちゃん、という音と共に
足を持ち上げると
𝑁.
なにかの破片のようなものが 落ちていた
𝑁.
割れたものの後処理が出来るのは
次男くらいだろう
𝑁.
特に深く考えず
その欠片はゴミ箱に捨てた
𝑁.
今日は大学の授業がない
というか
俺の選択した授業が今日はないのだ
𝑁.
色々あって
進めていなかった仕事
タブレットの充電が 100%なのを確認して
専用のペンを持つ
𝑁.
明日までじゃん
少し息をついて
ペンを握り直す
大体の想像図を書き終わったら
今度はペンを置く
𝑁.
終わらせられるかな
納期に間に合わないかも、と
少し悶々としながら
キーボードの上で指を働かせる
𝑁.
もう少しだ...!
最後は試験的に再生する
再生してみると
あれもこれも改善点が見えてくる
𝑁.
#dro*じゃなくて...
...と
𝑁.
目の前が真っ暗になる
𝑅.
𝑁.
𝑅.
𝑁.
苦笑いするように
口角を上げる
目に当てられた彼の手を
そっと首まで移動させる
暖かくて
今は離したくない
𝑅.
休憩とってないでしょ
𝑁.
𝑅.
気づかなかったじゃん?
𝑁.
𝑅.
許されると
思うなよ...っ!w
𝑁.
長い集中が切れた直後に起きる
特有の目眩
視界が蝕まれていく
𝑅.
なにが起きてるか理解している彼が
また目を手で隠してくる
𝑁.
𝑅.
𝑅.
𝑁.
𝑁.
𝑁.
𝑅.
少し呆れたような顔で
コップを渡してくる
一口飲んだだけで
口の中が相当 乾いていたことに気づく
𝑁.
𝑅.
𝑁.
𝑅.
倒れちゃうよ!?
𝑁.
過去に
集中しすぎて 5時間経っているのに気づかず
立ち上がった瞬間
貧血で倒れたことを
思い出さないようにそっぽを向く
𝑅.
𝑁.
俺は幸せだなぁ
𝑅.
珍しくお説教を 食らわしてこないので
恐る恐る彼の顔を見る
𝑁.
𝑁.
いちごみたいに赤くなった耳
𝑅.
𝑅.
こういうことではなく!
𝑁.
感じですかぁ
𝑅.
𝑅.
𝑁.
𝑅.
𝑅.
𝑁.
もうそんな時間なの?
𝑅.
𝑁.
歪んでんのかな...
𝑅.
やっぱり耳まで赤くして
ちょっと怒ったように 部屋から出ていく彼
俺の前では
甘えたい小さな弟でいいのになぁ
𝑁.
ありがたくお茶まで 丁寧に淹れちゃって
𝑁.
こんな頼もしく
なっちゃったかなぁ...
ちょっとだけ
寂しい、なんてのは
言わないけどさ
𝑁.
背伸びをしながら
食卓につく
𝑅.
𝑅.
𝐽.
ご飯食べないんは
育たんねぇ
𝑅.
昨日も今日も
四男は俺から逃げている
別に気にしてないのになぁ
俺から謝りに行こうかな、とか
ちょこちょこ考えながら
箸を手に取る
𝑁.
𝑅.
𝐽.
𝑅.
体に良くないんですよ
𝐽.
俺が食べ始めたの
一番早いねん!
𝑅.
今日はジェルが
皿洗い当番だからね
𝐽.
𝐽.
𝑅.
𝐽.
ぶつぶつと呟きながら 台所に向かう彼を
少し笑いながら見送る
𝑅.
やることあるから
𝑅.
𝑁.
変なステップを踏みながら
キッチンへ向かう彼
𝑁.
少し気まずいくらいの空気が停滞する
𝑅.
𝑁.
𝑅.
ありますか?
𝑅.
教えて欲しくて...
𝑁.
𝑁.
目を逸らして
わざとらしく お味噌汁をかき混ぜている弟の問い
ない訳じゃない
確かにあったんだ
ただ、そんなものは
とうの昔に置いてきていた
𝑁.
𝑁.
なりたかったんだ
分かってる
俺の父さんは大企業の社長だった
父さんが亡くなってから
俺たちの叔父にあたる人が 社長の椅子を守ってくれている
だから一刻も早く大人になって
社長を継がなきゃいけないから
俺の夢は叶えられない
𝑁.
呆れ笑いのように
はにかんで
目線を泳がせる
𝑁.
あるの?
𝑁.
𝑅.
𝑁.
小さく
はっきりとした言葉
𝑅.
ななにぃなら
𝑅.
頬杖をついて
口元を隠すようにして笑った弟が
少し遠い存在に見えた
𝑁.
𝑁.
𝑅.
満足したように
さっと立ち上がって 去ってしまった
𝑁.
弟の夢を聞くのを忘れていた
𝑁.
なれそうだけどね
誰に向かってでもなく
壁の方へ
べっ、と舌を出してみた
食べ終わった状態の食器を持って
キッチンへ入る
𝐽.
食べ終わった?
𝑁.
𝑁.
𝐽.
俺がやるの!
𝑁.
なぜか少しドヤ顔してるし
お言葉に甘えて
お皿を流しに置く
莉犬くんが作ってくれた
ストレートティーを
コップに注ぐ
すっかり冷えてしまって
少し喉にしみる
美味しい、と素直に思う
𝑁.
𝐽.
莉犬兄ちゃんが
淹れた紅茶やで?
𝑁.
そりゃそうだよねw
まるで自分が淹れた紅茶を 自慢するように
少し胸を張った彼を見て
なんとなく声に出してみる
𝑁.
なんでもない幸せが
𝑁.
隣にあったらいいなぁ
𝐽.
𝐽.
𝐽.
さっきのドヤ顔はどこへ行ったのやら
なんでもないことのように
さらっと言ってのける
𝑁.
モテるでしょ?
𝐽.
𝐽.
𝑁.
じゃな〜い?
𝐽.
俺そんなに魅力的?
𝑁.
皿洗いを終わらせた彼が
こちらを向いて
にかっと笑った
その顔の虜になった人が
少なくないってこと
今はまだ黙っていよう
そういえば
なにか聞こうと思ってたこと なかったっけ
なんて
少し考え込みながら
自分の部屋のドアの前に立つ
ドアノブをまわしかけて
手をとめた
誰かに
背中の服を掴まれていたから
手の位置から
後ろに誰が立ってるかなんて
すぐに分かった
触れられた背中から
細かい振動が伝わってくる
きっとまだ、
迷っているんだろう
彼の言葉よりも先に
声をかける
𝑁.
𝑡𝑜 𝑏𝑒 𝑐𝑜𝑛𝑡𝑖𝑛𝑢𝑒𝑑...