建物の中程にあるエスカレーターを使い、二階に上がる。 上がってすぐのフロアには名前もないような服屋が広がっていた。
手近なところから見て回っていると、若桜は後方を悪霊が通り過ぎたことに気付いた。
前方にいた神功皇后に目を向けると、確信を持った眼差しが返ってきた。
悪霊の追跡を開始する。 神功皇后は本柱のデータに接続していた。
神功皇后
定礎は建物の完成時に図面などを入れた箱を埋め込み、外から定礎と書かれたプレートをはめたものだ。
建物の安全や成功を祈るものだが、神々にとっては建物の記憶を保存するUSBメモリ、人間でいえば魂のような存在だった。
人は死ねば魂というデータを常世のデータベースに返納する。
建物の記憶は土地にも残るが、定礎にはより詳細に記録される。 人間が建て壊す分には人の魂のようにデータベースへ返納されるだけだ。しかし悪霊が定礎を破壊すればデータは失われてしまう。
それを破壊することはデータベースを攻撃する意があるということだ。
データベースから故意に離れて転生し、その上他のデータも破壊しようとする悪霊。 二人の目標は、悪霊を排除し転生後の記憶を削除、悪霊をデータベースに返納することだ。
悪霊は神の気配に敏感であり、神功皇后から逃げ回っている。
若桜は能力を極限まで潜め、人間に近い状態にして迫る。
悪霊は神功皇后に気を取られている内に、若桜が張り巡らせた能力に囚われ、身動きが取れなくなる。
そこで神功皇后が距離を詰め、刀を振るった。 この程度の悪霊ならば難なく切り払える。
神功皇后
刀が身にめり込むその時、悪霊以外の感触があった。
それに気付くやすぐさま押し込みを打ち切って、表面をなぞるように刀を外へ流した。
神功皇后の攻撃は強大な力を持つが、基本的に一般人に影響はない。
しかしこの悪霊は自分のものではない魂を被っており、排除するつもりで切っていれば魂が失われてしまうところだった。
神功皇后は攻撃の打ち止めに驚く若桜へ説明する。
データベースから盗んだものならともかく、周囲にいる一般人を巻き込んだものの可能性がある。
八岐 若桜(やまた わかさ)
一般人を巻き込まない、また視界に入らないよう上空に張り付き、狙いを定める。
気付いた悪霊は対空攻撃を行うが、若桜からの攻撃を相殺しようとする時に他の魂は感じられず、確信を持った。
一般人の魂を盗ったものなら、その場で盗って若桜からの攻撃にぶつければ、下手に攻撃が出来なくなる。
精神を統一し、悪霊を狙いすます。 引き締めた手指を差し向け、急降下した。
八岐 若桜(やまた わかさ)
手指が突き立てられ、皮を掬うように手首を返す。
若桜の小さな手が、悪霊を確実に解体していく。
八岐 若桜(やまた わかさ)
神功皇后
盗まれた魂の繋ぎ目を断ち、悪霊から引き剥がしやすいようにした。 これで大振りな刀でも悪霊だけを切ることが出来る。
悪霊を切り現世での記憶は消失、悪霊と盗まれた魂はデータベースに返納された。
その後も二人はピアイー内を調査し、夕方には引き上げた。
わかったことと言えば、敵は家電量販店の商品を使い仲間と連絡を取っていることだった。
連絡の内容を一日で解読はできないが、本柱に報告し解読を続ける。
八岐 若桜(やまた わかさ)
神功皇后
平清盛
ピアイーを出て人気のない裏側に回ると、背後から軽い調子で話しかけてきた。
神功皇后
八岐 若桜(やまた わかさ)
神功皇后
神功皇后
平清盛
神功皇后に詰め寄られて仰け反ると、焦った様子で釈明する。
最後に、派手好きの平清盛は自分が蚊帳の外なことに不貞腐れて俯いていた。
神功皇后
平清盛は平気で嘘をつく。 しかしこんなに萎れながら嘘はつかない。
平清盛
思いがけない申し出だったが、平清盛の動機としては十分だ。
神功皇后
八岐 若桜(やまた わかさ)
平清盛
平清盛は気を大きくして笑う。
八岐 若桜(やまた わかさ)
平清盛
平清盛
平清盛
八岐 若桜(やまた わかさ)
神功皇后
平清盛のしたことは読心でも何でもなく、子ども目線での冗談だ。
何百年存在しようと、記憶を失って数年の若桜と同じレベルである。
コメント
1件
コンテスト頑張ってください!