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待ちに待った高校生活、 ついにこの時がやって来たんだ。
母
たすき
母さんが朝食の支度をしてくれている。
俺は急いで制服に着替え、 用意された朝食を秒で食べきった。
母
たすき
母さんの心配もよそに、 俺は鞄を持って玄関を飛び出した。
???
たすき
気の強そうなスーツの女性に声を掛けられた。
???
その女性は笑顔を見せ、 去っていった。
たすき
よく分からないまま高校に到着、 順調に入学式を終えて、 俺たち新入生はそれぞれの教室に案内された。
そして、数分後に教室に入ってきた教師に、 俺は目を疑った。
三沢
この担任、登校時に声を掛けてきたあの女性だ。
この学校の教師だったのか。
ここから俺の夢の高校生活が、 青春が始まるんだ。
一学期は交流を深めるための課外学習を経験し、 各教科での授業スタイルを覚えていき、 放課後はたくさんの部活勧誘が行われていた。
中学の時は野球部だったが、 今回は気分を変えてサッカー部を選んだ。
先輩
たすき
サッカーは未経験のはずだが、 意外と上手くでき、 先輩にもセンスがあると褒められた。
厳しい練習をこなし、 俺はレギュラーメンバーに選ばれ、 夏の全国大会出場を夢見て頑張った。
夏休みに入り、 みんなとの思い出作りは、 楽しいものだった。
海水浴や花火大会を楽しみ、 ギリギリまで溜め込んだ宿題には、 毎度苦戦したもんだ。
友達
ふと、友達がそんなことを言った。
たすき
俺も共感して相槌を打った。
二学期は学園祭、 二年生で修学旅行を経験した。
もちろん行事だけでなく、 中間テストと期末テストは、 一夜漬けで知識を詰め込んだ。
友達
たすき
テストは簡単ではなかったが、 俺は毎回高得点をたたき出し、 成績はどの学年になってもトップになった。
大学推薦は確実と言われている。
部活ではエースで、 何回か取材を受けるほど俺は才能を見出した。
スポーツ推薦は確実と言われている。
冬休みに入り、 クリスマスは友達とパーティー、 年越しは部活のメンバーと神社でカウントダウン、 初詣を楽しんだ。
甘酒は、いつまで経っても好きになれないな。
宿題は案の定、 ギリギリまで溜め込む始末だ。
三学期は皆が受験に追われる中、 俺はどこの大学の推薦を受けるか決めかねていた。
勉強を取るか、 部活を取るか、 本当に悩ましい。
たすき
友達にそれとなく聞いてみる。
友達
友達2
俺には、これといった夢はない。
かと言って、 勉強と部活で困ったこともない。
特に何もないなら、 友達と同じ大学にでも行こうかな。
ついに卒業の時が来た。
考えれば、入学してから三年間はあっという間だった。
卒業証書は代表者が受け取り、 校歌を歌って卒業式は幕を閉じた。
友達2
たすき
俺たちが談笑していると、 近づいてくる人影が見えた。
三沢
たすき
三沢先生は、 あの日と同じく儚げな笑顔を浮かべていた。
俺はもう満足だ。
いや、一つ心残りがあるとするなら、 恋人ぐらいは欲しかったかな。
窓から光が差し込んでいる。
母
母さんの声がする。
そうか、大学の入学式だっけ。
しかし、ベッドの横には、 時春高校の制服が律儀に畳まれていた。
たすき
母
どういうことだ、 そんなはずはない。
高校は卒業したはずだ。
俺は訳が分からず、 とりあえず制服に着替え、 朝食も食べずに玄関を飛び出した。
三沢
三沢先生だ。
こんなところで何をしているんだ。
たすき
三沢
あの日に見た笑顔とは、 何かが違った。
たすき
三沢
何回目……?
先生が何を言っているのか分からない。
たすき
三沢
もしかして、 この不思議な現象は、 三沢先生が引き起こしているのか?
たすき
三沢
先生はそう言って、 学校に向かっていった。
俺はまだ何も理解できないまま、 既視感のレールを歩いていくしかなかった。
三年前に見た光景と全く同じ入学式を終え、 チュートリアルをクリアし、 俺は生徒指導室へと向かった。
たすき
三沢
先生はゆっくりと語り出した。
進学したい学校第一位の時春高校。
その正体は、 入学から卒業までを延々と繰り返す、 タイムループする高校だった。
三沢
たすき
通常、この現象に気づく生徒はいないらしい。
その理由は、 生徒の記憶は毎回リセットされるから。
じゃあ、なぜ俺の記憶はリセットされなかったのだろう。
三沢
俺は勉強も部活も申し分ないくらいに制覇し、 満足したはずだった。
しかし、卒業式の日に思ったのは、 『恋人がいない』という心残りだった。
たすき
三沢
先生は言う。
これは俺の、 俺たちの身勝手が引き起こした惨状だと。
たすき
三沢
生徒の強すぎる想いが、 現実を捻じ曲げたっていうのか。
そんなの、俺は望んでいない。
たすき
三沢
先生ははっきりと、 答えを示してくれない。
たすき
三沢
俺は間違っていると思いながらも、 それも一つの幸せなのではないかと、 一瞬思ってしまった。
三沢
たすき
先生の笑顔の意味が、 ようやく分かったような気がする。
きっと俺たちを憐れんでいて、 また同じような生徒たちが溢れていく、 そう呆れていたのだ。
三沢
たすき
俺は何も言い返せなかった。
全てを知った俺に残ったのは、 既視感の日常と、 青春などもう存在していないという、 事実だけだった。
あれから俺は何度繰り返しただろう。
全ての部活に入り、 テストは全て百点、 恋人だって何人作ったことだろう。
なのに、なのに抜け出せない。
三沢先生は俺に憐れみの笑顔を向けるだけで、 必要な会話以外してくれなくなった。
しかし、毎回入学式で俺を見つけると、 耳元でこっそりと囁くんだ。
「まだ、彷徨っているんだな」
何が正解なんだ、 どうしたら抜け出すことができる?
俺は未来を生きたいだけだ。
ある日、俺は見覚えのある、 スーツ姿の男性を見かけた。
それは間違いなく、 かつての友達だった。
たすき
男性
たすき
俺は少しでも、 誰かと思い出を語りたかった。
男性
ああ、誰も俺を覚えていないのか。
俺は散々に思い知った。
あの一度きりの日常が、 本物の青春だったのだと。