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ミーンミンミン
強い日差しに照らされてらアスファルトが揺らめく
首の後ろにはすでに嫌な汗が滲んでいる
今日の最高気温は三十五度になるらしい
最悪だ
こんな日まで学校に行かなくちゃいけないなんて
いるま
暇なつ
こんな暑い夏の朝、俺といるまは、通学路の途中にある駄菓子屋に寄り道する
アイスを賭けたじゃんけんは、幼なじみ俺らの夏休みの日課だ
山の上にある中学校から、ホームルームの開始を告げる鐘の音が町中に鳴り響く
ばぁちゃん
俺達の後ろの方で、木の椅子に座ったおばぁちゃんがうちわをパタパタさせながら呟いた
緩いおだんごから垂れた白髪が風に揺れている
いるま
いるまが大きな声を出した
ばぁちゃん
夏の間は毎日のことだと、ばぁちゃんはため息をついた
暇なつ
いるま
ふたりの間をつむじ風が舞う
すぅっと息を吸い込むとらいるまが声を張り上げた
いるま
いるま
暇なつ
いるまの手のひらが空を切る
パーとチョキ
暇なつ
俺はにやりと笑っているまに向かってピースをした
この夏いるまの対戦成績は、ずばりー
四勝十六敗だ
ばぁちゃん
そう言うとばぁちゃんは、よっこらしょと曲がった腰を立ち上げてら棒アイス2本を取り出した
苺とメロン
俺らのお決まりの味だ
よく冷えた2本のアイスは太陽に照らされて白い煙を出している
ばぁちゃん
いるま
いるまは半泣きになりながら、ズボンのポケットから十円玉を十二枚取り出しばぁちゃんに渡した
皺だらけの手でお金を受け取るや否や、ばぁちゃんが叫ぶ
ばぁちゃん
暇なつ
アイスを口に突っ込んで俺ら一斉に走り出した
ミーンミンミン
ジリジリジリジリ
裏山のセミ達が、この夏に生きた証を残そうと必死に鳴いている
暇なつ
学校へと長く続く大きく曲がりくねった石段を見上げて俺は気合を入れた
そうでもしないと目眩がしてくる
いるま
横に並んだいるまが制服のズボンの裾を脛まで折り上げた
俺も履いていた紺色の靴下を脱いで、使いすぎてボロボロになったバッグに押し込む
裸足でスニーカの踵を踏み潰す
半袖のワイシャツの袖を更に捲り上げる
いるまの方をチラッと見るとまだズボンの丈を直している
出し抜くなら今だ
心の中でカウントが始まる
三、二、一
ふぅっと息を吐き出して石段に足を掛けた
暇なつ
暇なつ
つま先に力を入れて、石段を一気に駆け登る
いるま
ふいをつかれたいるまが慌てて叫んでいる
暇なつ
石段にを登るたび、脳天にダンダンダンと重い振動が響いた
登っても登っても終わりが見えない段数の多さに、思わず笑えてくる
いるまもようやく駆け出したらしい後ろから足音が迫ってきた
いるま
暇なつ
息を切らしながら振り向いてやらうと、くわえてるアイスが口の端から垂れてくる
いるま
と笑っているいるまだって口の周りがアイスだらけだった
いるま
石段を半分登ったところで抜かれてしまった
暇なつ
痛くなった横腹を押さえながら立ち止まると苦笑いをした
アイスは口の中で全部溶けてしまって木の棒だけ寂しく残った
石段の錆びた手すりに掴まると、俺はその場にしゃがみ込んだ
毎朝この辺でバテてしまう
手すりの向こうには、俺達が住む町と、一面の海が広がっていた
いるま
いるま
はるか上段から、いるまが呼んでいる
暇なつ
カラカラになった喉で怒鳴った
中学は山の上にある
だから中学に行くためには、この恐ろしく長い石段を登らなくてはならない
暇なつ
誰もが毎朝一回は口にする言葉を、俺もまた、今、呟いた
中学に入って3年目だというのにいまだにこの石段とは仲良くなれない
この石段を好んでる奴なんて、いるまを始めとする運動部の一部の連中だけだ
ウォーミングアップにちょうどいいなんて、本当にドMなんじゃないかと神経を疑ってしまう
いるま
いるま
石段の1番上に腰を下ろしたいるまか生徒手帳に挟んだ時間割を見ながら嘆く
暇なつ
俺はカラカラに乾いた口で小さく悪態をついた
いるまの文句はポーズだ
少しでも講習をさぼりたい、だから奴はこうして毎朝俺の遅刻を口実に使う
暇なつ
暇なつ
気分はゴールしたばかりの長距離ランナー
いるまが差し出した手のひらにハイタッチをすると、パシンといい音が鳴り響いた
そのままいるまの黒いエメナルのカバンに倒れ込むとなんとも言えない匂いがする
暇なつ
いるま
カバンの外にまで匂いが漏れ出てくるなんて
実物はどれだけの異臭を放っているんだろう
大体何の臭いなんだよ?
汗?
暇なつ
カバンの中の臭いを想像しただけで吐きそうになる
最悪だ朝から最悪の気分だ
暇なつ
俺は進み出した
多くの生徒が自宅でダラダラ過ごす夏休みの朝
校内に人が少ないからか、チャイムの音はいつもより大きく聞こえる
いるま
全然残念そうじゃなさそうにいるまがぼやくいるまの背中を追いかけた
夏休みに入ってから毎日遅刻している俺らだけどそれなりに理由がある
去年まではのんびり優雅に過ごしていた夏休み
それなのに「今年は受験!夏休みも講習です」だなんて心も体もついていかない
寝坊するのもつい寄り道してしまうのも、仕方ないと思う
まぁ夏休みに学校にくるって言う選択したのは俺自身なんだから、これは完全に言い訳だってことはわかってる
この小さな町には高校は一つしかない
そんなにレベルも高くないその高校に、ほとんどの同級生が進学する
そして高校を卒業してからも、みんな家の仕事を手伝ったりして、この町に残るんだ
俺の家は商店街にある電気屋でお向かいの本屋はいるまの家だ
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